【北谷】理容師の道を歩んで66年。85歳の山城栄徳さん=沖縄県うるま市=が4月30日、ついにハサミを置いた。北谷町伊平の理容室「Barber Kadena(バーバーカデナ)」で、一日中立ちっぱなしでハサミやバリカンを操ってきた。まだ仕事をする体力は残っているが「そろそろゆっくりして、遊んだりしたい」と引退を決意した。「髪を切るのが性に合っていた」と山城さん。理容師の仕事をやり切り「心残りはまったくない」と語る表情は晴れやかだ。(中部報道部・比嘉大熙)

 粟国島出身で中学卒業後に沖縄本島に出て働いた。料理人見習いや卸売り、タクシードライバーと職を転々としたが「元々理容師に興味があった」。理容学校へ入学し、卒業後は那覇の理容室で1年間見習いとして修業。その後、米軍基地内のバーバーカデナに就職した。 

 当初は英語が話せず、客の要望を聞くこともできなかった。海兵隊や海軍など部隊によって刈り上げる髪の長さを覚えなければならないなど苦労も多かった。体力を生かしてがむしゃらに働き、1日100人近い客をカット。場数をこなして腕を磨いた。

 次第に信頼を得ると、高い階級の兵士のカットも担当するようになった。刃物を扱うため階級の高い兵士をカットできるのは限られた理容師だけ。司令官クラスを最初にカットした時は「手が震えた」という。

 バーバーカデナには定年がなく、還暦を過ぎても「楽しくて、辞めることは考えていなかった」。理容室が基地の外に移転しても働き続けた。米国に帰国した兵士が来沖した際、山城さんを指名することも多く「自分が切った髪を気に入ってくれるのを見るととてもうれしかった」と振り返る。

 「楽しく理容師をしてきた」と山城さん。退職後は、趣味の釣りや古里の粟国島に遊びに行くなどやりたいことを思いきり楽しむつもりだ。