ビールの製造で、麦汁を発酵するために使われる「ビール酵母」。役目を終えたビール酵母を原料とし、1930年(昭和5年)に誕生したのが、アサヒグループ食品の胃腸・栄養補給薬「エビオス錠」(指定医薬部外品)だ。有効成分である乾燥酵母にビタミンB群やたんぱく質など40種の栄養成分が含まれる。そんなエビオス錠が今の時代にフォーカスされる理由とは?アサヒグループ食品株式会社コンシューマ事業部マーケティング三部主任の木下拓万さんと、担当副部長の山本直樹さんに、ユーザーの意識の変化やマーケティング戦略について話を聞いた。

■「社会的な課題を解決したい」という想いから誕生
――まずはアサヒグループ食品の事業内容を教えてください。
【木下拓万】BtoC(消費者向けビジネス)とBtoB(企業間取引)の事業があり、BtoCに関しては「エビオス錠」のほか「ミンティア」などタブレットやキャンディといった菓子、「アマノフーズ」のフリーズドライ食品、「クリーム玄米ブラン」「1本満足バー」といった健康食品、「ディアナチュラ」などのサプリメント、「和光堂」のベビーフード、シニア・介護向け食品などを販売しています。BtoBでは食品メーカーさんで原料としてお取り扱いいただく酵母素材や乳素材等を扱っています。

――「エビオス錠」について、まずはどういう商品なのかを教えてください。
【木下拓万】ビールを造るときの副産物であるビール酵母を精製、乾燥した乾燥酵母が有効成分とする、「乾燥酵母からできた指定医薬部外品」です。弱った胃腸をいたわり、食欲不振などを改善するほか、40種の栄養素が含まれているので栄養補給もできるという商品です。

――「エビオス」の歴史について教えてください。
【木下拓万】商品が誕生した1930年当時、ビール製造の副産物が活用されていなかったという背景がありました。当時の国民病だった脚気の対策として、ビタミンB系の栄養補給が必要とされていたため、大日本麦酒(現・アサヒビール、サッポロビール)の研究員だった橋谷義孝さんが、ビール酵母が含む栄養素に着目して製品化にいたりました。胃腸薬ですが、社会的な課題を解決したいという想いから誕生した商品です。当時、大日本麦酒の工場が恵比寿にあったこと、そしてギリシャ語で命の素という意味の「ビオス」を合わせて、エビオスという名前になりました。

――2024年で94年目の歴史のある商品です。エビオス錠が、今あらためてフォーカスされているのはなぜでしょうか?
【木下拓万】コロナ禍を経て自分の体を気にする人が増え、食生活や日々の体調管理を見直すきっかけになったと思います。エビオス錠は胃腸・栄養補給薬で、胃腸を元気にするだけでなく栄養補給もできるため、フォーカスされているのではないでしょうか。

――アサヒグループ食品がこの商品に力を入れる理由は?
【木下拓万】ビールの副産物からできる、アサヒグループならではの商品というのがひとつ。また、弊社はベビーフードからシニア向けの食品まで幅広く扱っていますが、エビオス錠は5歳からシニアの方まで服用してただくことができ、我々の商品の年齢幅をほとんど網羅していることも理由だと思います。

■5歳の子どもや妊産婦も服用できる
――エビオスのユーザー層は?
【木下拓万】メインは40代から60代の方ですが、若年層にも徐々に認知が広がっています。また原料のほとんどが乾燥酵母(ビール酵母)で、5歳以上のお子さんや妊産婦さんでも服用することができます。

――5歳の子どもも服用できるとは知りませんでした。

――健康食品市場自体は、年々規模が上がってきているのですか?
【木下拓万】そうですね、健康食品だけでなく、胃腸薬・整腸薬の市場も、伸びている市場です。

――最近の市場のトレンドについて教えてください。それに対してマーケティングで力を入れていることは?
【木下拓万】自分の体を気にする人が増え、食生活や日々の体調管理を意識する機会が多くなったと思います。「持続的によくしたい」というトレンドがあるかと思います。

【木下拓万】そこでマーケティングでは「症状が出ているから」服用いただくというだけでなく、「エビオス錠をとることが前向きな選択」というポジディブなイメージを作っていきたいと考えています。継続的に服用することで、胃腸が元気になって好きなものが食べられる。それによってきちんと栄養摂取することで、体が元気になり、やりたいことができるようになると思います。「胃腸を元気にする」ことで「体も元気に」というようなイメージを打ち出していきたいです。

■妊産婦や体を鍛えている人にも改めて知ってもらいたい
――広告・販促活動において重視しているポイントは?
【木下拓万】「コア&モア」戦略を掲げ、長年服用いただいている既存のお客様であるコア層と、今後使っていただきたいモア層をターゲットに広告戦略を立てています。コア層の方に対しては、エビオス錠を服用することが前向きな選択と思ってもらえるようなイメージを大事にしています。また、CMを放映するとファンの方からの反響を多くいただくので、いつもみなさんに喜んでもらえるコミュニケーションを心がけています。

【木下拓万】モア層に関しては、調査結果などを見ると「昔からある商品で、自分たちを対象とした商品ではない」と思っている方が意外と多いことがわかったので、「自分たちにも当てはまる効能効果がある」というところをポイントとして伝えています。具体的には、妊娠中や授乳中に食事からなかなか栄養をとれない方でも、エビオス錠で栄養補給ができるといったことです。妊産婦さんに知っていただくことで先輩ママから次のママ世代へと広がっていくのではないか、と見越しながら行っています。

【木下拓万】もうひとつのモア層は、筋トレをしている方の中で胃腸などに悩みを抱えている方です。体作りには栄養補給が必要であるため、胃腸を元気にすることが大切だと思います。そのような悩みを抱える方の筋トレ後の栄養補給や消化不振の改善といったことを訴求しています。

ーーコアとモア両方に向けた施策を行っているのですね。
【木下拓万】長年ご使用いただいているお客様、これからご使用いただくお客様、どちらの方にもエビオス錠のファンになっていただくことを目指しながら行っています。

【山本直樹】パッケージデザインも時代によって多少は変えていますが、やはりこのエビオス錠らしい素朴で飾らない存在感はあえて変えていません。

――妊産婦さんに広がると、子どもにも伝わり、先々の市場の新しいターゲットにもなりえますね。
【木下拓万】今メインでお使いいただいている40代から60代の方は、子どものころからエビオス錠があった世代の方です。今のお母さんやお父さんに伝わり、さらに子どもたちに伝わる。これまでに94年間続いてきた歴史がこれからも受け継がれていってほしいと思います。

――今後予定している施策は?
【木下拓万】モア層の方に向けては、数年前から広告活動続けていて、手応えがあることがわかってきました。そこでさらに認知を拡げるために、潜在的ニーズのあるターゲットがどこになるのかを探索しているところです。今考えているのは「美容関心層」などで、エビオス錠との親和性やその可能性を探っています

■心や体の元気にもつながる商品
――エビオス錠のユーザーからは、どういった反響がありますか。
【木下拓万】エビオス錠はお客様相談室に直接お声をいただくことがとても多い商品です。かつ思い入れのあるお言葉が多い。直筆のお手紙をいただくこともあります。

【木下拓万】一方で「1回10錠、1日30錠(15歳以上の場合)を服用するのは多い」という声も少なからずあります。ロイヤルユーザーの方には、この錠数だから効果があるとわかっていただいていますが、飲み始めた方にも納得いただけるように、うまくお伝えしていく活動ができないかと考えています。

――「エビオス錠」を通じて、かなえたい未来について教えてください。
【木下拓万】まずは、「エビオス錠を買うのは、この先の自分をよりよくするため」という価値観の商品にしていきたいです。商品を選ぶことがプラスになってほしい。そのために、前向きで元気なイメージをお伝えしていくことを考えています。また、エビオス錠といえば胃腸・栄養補給薬というところはもちろん、エビオス錠を服用することは前向きな選択だと思ってもらいたいですね。

■マーケティングの仕事の“ゴール”とは?
――最後におふたりの仕事観について聞かせてください。仕事において大切にしていることは?
【木下拓万】スピード感を持つことを心がけています。すぐに反応して、メールはできる限り早く返す。お互いがスムーズに事を進められ、他の業務に時間を充てられるようにと思っています。

――仕事で特におもしろいと感じることは?
【木下拓万】マーケティングの仕事では、ぼんやりと浮かんだアイデアを、ディスカッションや調査、分析を重ねてコンセプト化していくところがおもしろいですね。そこから実際に商品を発売するまでは、いろいろな課題やトラブルも発生するので大変です(笑)。

【木下拓万】広告については、代理店の方とオリエンテーションをして、期待以上のご提案をいただいたときは、素直にうれしいですね。お客様に受け入れられるベストな広告を代理店の方と考え抜くことは大変ですが、納得のいく広告ができたときはおもしろさを感じています。そして実際にそれを出稿して効果もよいと、なおさらいいなと思います。

【山本直樹】マーケティングの仕事は正解がないからこそ、チームのみんなで想いや考えを出しあって共感できるものを作り、それを今度はお客様に伝えて、それが受け入れてもらえたときにとても喜びを感じます。答えはないけど、お客様に喜んでいただくことがゴール。想いを伝える仕事なのかなと思います。

この記事のひときわ#やくにたつ
・ファンを大事にしながら、新しいユーザーの獲得を目指す
・時代や人の意識の変化に合わせたメッセージを届ける

取材=浅野祐介、文=伊藤めぐみ、撮影=阿部昌也