株式会社赤ちゃん本舗は、ベビー用品などを扱う専門店「アカチャンホンポ」を展開。店舗で得たリアルな声をもとにオリジナル商品の開発なども行い、多くの家族の子育てをサポートしてきた。近年は小売業の枠にとらわれず、さまざまな企業と協業で子育てにまつわる課題を解決することにも力を入れている。
2024年1月にはアライアンスの一環として、日産自動車株式会社と協業で開発した、運転中の子守り支援ロボットのコンセプトモデルを発表。子どもとのドライブ中のお悩みの解決に取り組む。同社に2021年に誕生したアライアンス推進部部長の高山佑一さんに、他社との協業に注力する理由を聞いた。
■アンケートで見えた運転中の課題
――はじめに株式会社赤ちゃん本舗の事業内容について教えてください。
【高山佑一】2022年に90周年を迎えた、妊娠・出産・子育て関連の商品や情報、サービスを提供する企業です。2007年にセブン&アイ・ホールディングスのグループに入り、ベビーやキッズ、マタニティ用品を扱う専門店を全国に126店舗構え、ECやFC事業も展開しています。
――運転中の子守り支援ロボット「INTELLIGENT PUPPET イルヨ(以下、イルヨ)」を、日産自動車と共同開発された経緯について教えてください。
【高山佑一】2年ほど前に日産さんからお声がけいただいて、赤ちゃんのドライブでの不安やお困りごとを解決したいとの思いが合致し、お付き合いが始まりました。2022年に「赤ちゃんとのドライブ」に関するアンケートを実施すると、6割以上の方が週に1〜 2回以上、お子様とマンツーマンで車に乗っていることがわかりました。生後15カ月ごろまでは、チャイルドシートを後ろ向きに設置しますが、9割以上の方が「赤ちゃんの様子がわからずに不安」と回答されていました。そんな運転中の課題を解決するために、日産車に搭載されている先進技術からの着想のもと、日産から企画提案され実現したのが運転中の子守り支援ロボット「INTELLIGENT PUPPET イルヨ」です。。
――大手企業同士の協業、難しい点もあったのでは?
【高山佑一】日産さんは運転中のドライバーの安全基準などについて、厳しい基準を設けられています。一方で私たちは赤ちゃんが間違えて口に入れないか、触っても大丈夫かなど「赤ちゃんの安全」という視点が強い。頓挫しかけたこともありましたが、1年ほどで製品化を目指したコンセプトモデルの開発ができました。
――企画開発では両社の特徴がどのように活かされたのでしょうか。
【高山佑一】やはり日産さんは技術力が高く、先進的な知見も持っていらっしゃいます。ただイルヨは赤ちゃんが対象なので、赤ちゃんの動きや感情など医学的な要素も必要です。そこで日産さんが別のプロジェクトでお付き合いのあった北里大学医療衛生学部にお願いし、実際にお子様がイルヨを見るのか、どうすれば笑うのかなどを確認するための実証実験を行いました。実証実験の親子は赤ちゃん本舗の会員に声をかけ、11組の方にご参加いただきました。
■90周年を迎え次のステップへ
――運転中の課題は、アンケートから浮き彫りになりました。定期的にアンケートやリサーチを行っているのですか。
【高山佑一】商品開発の際などに単発で行うことはありましたが、それまで担当部署はありませんでした。赤ちゃんに関わる方が抱える課題を解決する糸口や、本当に困っていることは何なのかを探るために2023年3月にできた部門が「赤ちゃんのいる暮らし研究所」です。アンケートやインタビューでお客様の意見を聞くことで、今まで私たちが「こうだよね」と思い込んでいたことが本当に正しいのか、定性だけではなく定量的にも評価しています。
【高山佑一】弊社が持つ顧客データベースは、居住地や性別、属性、お子様の年齢などから細かくセグメントできるという特性があります。お客様が赤ちゃん本舗に対して、不安に思わずに登録していただけるからであり、ほかの小売業ではなかなかないデータです。こうしたデータを、イルヨだけでなく既存の商品やサービスにもうまく活かして、お客様に還元できるように取り組んでいる段階です。
――アライアンスに注力するようになったきっかけは?
【高山佑一】赤ちゃん本舗が90周年を迎えたときに、「これからの10年がすごく大事で、この期間に100周年に向けて準備をしていく」という大きな方針が決まりました。赤ちゃん本舗の今後についてみんなで考えたとき、1年間の出生数は80万人を切り、今のまま物販だけを続けていては生き残れないのではないか、という話が出ました。「子育て総合支援企業」として、子育てに関わるいろいろな課題を解決するためには、次のステップに進まなければならないというのがひとつ。
【高山佑一】もうひとつはコロナ禍で店舗の客足が減り、かなりの影響を受けたことです。特に赤ちゃん本舗は、人と人がリアルで直接やりとりすることが強みです。イベントに参加してもらうこともできなくなり、経営的にも厳しくなりました。それでもお客様に対して提供するものを減らすわけにはいかない。それならば、また新しい価値を提供して「やっぱり赤ちゃん本舗がいいよね」と思ってもらう必要があります。それを実現するための策のひとつが、今回のアライアンス事業だと捉えています。
――アライアンス推進部に対して社内の反応は?
【高山佑一】アライアンス事業に対して、最初は反対の声もありました。店舗を使うなら店舗の、アプリを使うならアプリの担当者にお願いをしなければいけませんが、すぐにOKが出なかった期間もあります。90年以上、小売を中心に続けてきたので、特に店舗のスタッフはサービスを提案することに抵抗感があったようです。でも実績を重ねることで、お客様に喜んでいただける、お店としてもやりがいが生まれるということを少しずつ理解してもらい、今では「ぜひうちの店舗でやってください」と言ってもらえるようになりました。
■他社と協業で「食」や「お金」の課題に取り組む
――これまでどのような企業と、どのような社会課題に取り組み、商品・サービスを展開してきたのでしょうか。
【高山佑一】いくつか例としてご紹介すると、まずオイシックス・ラ・大地さんです。食のサブスクサービスを手がける企業で、時短で作れるミールキットや離乳食のセットを扱っていたり、献立を考えてくれるサービスを提供していたりします。赤ちゃんのいる暮らしでは食べることは大事ですが、料理は時間もかかるし負担にもなります。食に関する負担が軽減されると子育てに集中できるから、お父さんもお母さんも赤ちゃんもハッピーだよね、ということで赤ちゃん本舗のお客様に合った商品やサービスをご提案しています。
【高山佑一】もうひとつはお金の悩みを解決するために、グループ会社であるセブン・フィナンシャルサービスさんと一緒に取り組んでいます。また保険見直し本舗さんとは、保険や出産・教育に関するお金についてファイナンシャルプランナーに相談できる「ライフプラン相談会」を開催しました。
【高山佑一】弊社は会員を持っているのがやはり強み。たとえば赤ちゃんが生まれる前の方だけ、1歳までのお子様がいる方だけなど、細かくセグメントして提供する情報やアプローチの方法を変えています。
――少子化が進むことは、御社にとってはターゲットが減ることに直結します。そのことについては、どのようにお考えでしょうか。
【高山佑一】弊社の主な客層はマタニティからお子様が3歳になるまでです。その前後にアプローチできないか?というのはよく議題に上ります。ただ3歳以降はレッドオーシャン。オムツも取れて離乳食も食べなくなると、アカチャンホンポでなくてもいいという方は多いです。だからその前、いわゆる妊活中の方や、新婚旅行に行った方などにアプローチして、お客様のセグメントやビジネスの幅を広げたいと考えています。繰り返しになりますが、サービスの部分でも横に広げていき「商品を買わなくてもアカチャンホンポに行きたい」と思ってもらえるような場所にしなければ、これからは厳しいと思います。
■子育ての「課題」に取り組み続ける
――今後取り組んでいきたい課題やプロジェクトがあれば教えてください。
【高山佑一】まずは現在進行中のものをつくりあげて、軌道に乗せたいというのが正直なところです。ただ新しいことも考えてはいて、そのひとつが既存のメーカーさんとのアライアンスも兼ねたマタニティ向けのイベントです。収益化も目的のひとつではありますが、アライアンス推進部だけではなく既存事業の売り上げも伸ばせるように、そしてお客様にとってメリットになるようにというのは常に大事にしています。弊社はリテールメディアによる広告事業も行っていますが、依頼がたくさんあるからどんどんやっていくのではなく、「赤ちゃん本舗でやる意味があるのか」「お客様にとってメリットはあるのか」をしっかり検討しています。
――今後の展望を教えてください。
【高山佑一】赤ちゃん本舗は「子育て総合支援企業」であり「赤ちゃんのいる暮らしを知りつくしています」と言っています。とはいえ、実際にはすべてを知りつくせてはいないので、知りつくそうとし続けなければいけません。子育ては日々変わっていて、10年前のことはもちろん、去年のことでも古いといわれることもあります。そんな変化を私たちは常に追いかけています。
【高山佑一】子育てはすごく大変で、時間も体力も必要です。メンタル的に余裕がなくなることも多い。だからお客様の不安や不満、課題となっている部分を少しでも解決できないかと考え続ける必要があると思います。ただ赤ちゃん本舗だけでは解決できないことがたくさんあります。そこで他社と一緒に進めたほうが実現も早いし、お客様にとっても安心になるのではないか、というのがアライアンスの根本にあります。アライアンス事業を推進すること自体が、社会課題の解決に、そして赤ちゃんのいる暮らしを支えることになるのではないでしょうか。
この記事のひときわ#やくにたつ
・目的に応じて提供するものや方法を変える
・新規事業は既存事業への影響や顧客のメリットを考えて進める
取材=浅野祐介、撮影=三佐和隆士
赤ちゃん本舗、他社と協業で「赤ちゃんのいる暮らし」支える新事業。100周年に向けて新たな価値を提供
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