人材派遣を通じてキャリア支援を行っているリクルートスタッフィング(東京都千代田区)で、これまで多くの派遣社員を担当したエリア営業統括部の川上祐佳里さんが、派遣社員から正社員になるためのヒントを紹介します。

【相談内容】40代後半、派遣社員の女性です。時給1700円でフルタイム勤務の事務職をしています。中学生の娘が私立高校への進学を希望しており、今後支出が増える見込みです。

私自身のキャリアについても考えることが多くなってきました。今、働いている派遣先企業は、職場環境や業務内容が希望に合っていて、「このまま派遣先企業の正社員として働けたらいいのに……」と思うようになりました。40代でも派遣社員から派遣先企業の正社員になれるのでしょうか?

私は新卒でリクルートスタッフィングに入社以来、営業部門で数多くの派遣スタッフの方からキャリアに関するご相談をいただいてきました。今回のご相談のように、家族の環境変化がきっかけで、ご自身のキャリアを考えはじめる方も少なくないと思います。

はじめに、日本における働き方の全体像を見てみましょう。総務省の労働力調査(2022年)によると、正社員(正規の職員、従業員)は、前年比1万人増の3597万人で、8年連続で増加しています。一方、非正規の職員・従業員数は、同26万人増の2101万人で、3年ぶりに増加しました。

非正規の職員・従業員を男女別にみると、男性は669万人で16万人の増加、女性は1432万人で10万人の増加となりました。なお、役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は、前年比0.3ポイント増の36.9%。パート、アルバイト、派遣社員など非正規で働く人は約4割に迫ります。

日本人材派遣協会の「派遣社員WEBアンケート調査」(2022年度)によると、派遣社員として働く人の平均年齢は46.3歳。実際、40代を中心に「今働いている派遣先企業の正社員になれる可能性はありますか?」という相談をいただくことがあります。

総務省の労働力調査によると、2020年には約3万人が派遣社員から正社員になっています。派遣社員として働く人の中には、派遣先企業の正社員になること自体がレアケースだと、はじめから諦めている人も少なくないのではないでしょうか。

「どうせ正社員になれるのは、20〜30代が多いのでは?」と思う人もいるかもしれません。ところが、リクルートスタッフィングの状況をみると、2022年度に派遣社員から正社員になった人たちは40代が最も多く、40〜50代でおよそ半数を占めています。

こうした背景には、派遣先企業が、必要なスキル・経験を持っている人材を求めていることがあります。

労働人口の減少に伴い、企業が人材獲得に苦戦するケースが増えています。自社で一定期間の就業歴があり、独自のシステムやカルチャーを理解している派遣社員は貴重な人材です。「ぜひ自社の社員として働いてほしい」と派遣会社へ相談をいただくことは珍しくありませんし、私たちも派遣社員が希望する場合は、喜んで直接雇用の支援をしています。

ここで、実際にあった事例を紹介したいと思います。

ある企業は、経理職の正社員を募集していましたが、高いスキル・経験が必要なポジションだったため、なかなか希望する人材が見つかりませんでした。そこで、正社員が見つかるまでの臨時スタッフとして、派遣社員のAさんを迎えることになりました。

Aさんは50代前半の女性で、経理経験がとても豊富。派遣先の社員ともコミュニケーションを積極的にとり、職場に溶け込んでいきました。派遣社員として働く中で、Aさんの仕事ぶりや人柄が派遣先の人事担当者に評価され、「正社員として働いてほしい」という申し出があったのです。これにAさんが承諾し、派遣先の正社員になることが決まりました。

一方で、派遣先企業から「正社員にならないか」というオファーがきても、「派遣として働き続けたい」と正社員にならない判断をする人も少なくありません。

前述の日本人材派遣協会のアンケートでは、「1年以内に希望する働き方」「4年目以降に希望する働き方」を調査対象者に尋ねており、「正社員」と答えた人はいずれも約3割にとどまっています。「派遣で働く理由」として多かった回答は、「働く時間や勤務地、時期や期間を選べることに魅力を感じるから」でした。

私がかつて担当していた派遣社員のBさんにも、派遣先企業から「正社員になってほしい」というオファーがありました。「喜んでもらえるだろう」と思い、Bさんに伝えたのを覚えています。ところが、Bさんの表情はみるみるうちに曇っていき、「もしこのオファーを断ったら派遣を続けられなくなるでしょうか?」と困惑しながら私に尋ねてきました。

「社員になると希望する業務以外のことをしなければいけない」
「以前失敗したマネジメント業務も、将来的には期待されるのではないか」

正社員として働く不安を口にしたBさんは、「業務内容が決まっている派遣社員として引き続き働きたい」と希望したのです。

派遣社員で働く人の中には、正社員を希望する人もいれば、非正規社員のまま働きたいという人もいて、必ずしも一律ではありません。もちろん、「いつかは正社員になりたい」と希望する人もいますし、「『この会社なら』正社員になりたい」という条件付きの人もいるでしょう。

今回の質問者の家庭の事情や自身の将来を考えて、私がふだん「正社員」という選択を考えはじめた方にお話ししているアドバイスを3つ、お伝えしたいと思います。

第一に、派遣会社の担当者に「正社員になることを目指したい」という意思をしっかり伝えることです。実際、私たち人材派遣会社では、派遣で仕事をはじめるタイミングで、「3年後はどうなっていたいか?」を聞いています。「正社員になりたい」という希望者がいれば、早いタイミングで派遣先企業に必要な条件をヒアリングしたり、スキル習得のサポートをしたりします。

第二に、就業状況の振り返りを定期的に行うこと。「自己評価」と「派遣先企業の評価」をすり合わせ、自分の業務上の課題や改善点を知ることです。希望する企業で求められる人材になるために、何が必要なのか、何が足りないのか――。自己満足の改善ではなく、求められているスキルのアップデートが必要です。

もう一つ、大切なことがあります。派遣先を決める段階で、あらかじめ企業の採用事情を派遣会社の担当者に確認しておくことです。派遣先の社員になることをどんなに望んでも、そもそもその企業に社員採用の枠がないなど、人事計画・制度上の事情で、正社員になることが難しいケースもあるからです。

企業が人材を求めている今、派遣社員から派遣先の正社員になるというケースは、着実に増えています。もちろん、派遣社員として時間や場所にとらわれずに働き続けるという選択も、働き方の一つです。

仕事を選ぶ上で、年齢や性別の障壁、働き方を巡る固定観念はなくなりつつあります。「今からじゃ遅い」「私なんかじゃどうせ……」と諦めるのではなく、派遣社員というキャリアをきっかけに、次の働き方を見つけてみてはいかがでしょうか。