かわいいピンク色と桜の香りで春を感じさせる「桜餅」。餅を桜の葉で包む工夫は江戸時代に発案されたといいますが、この桜の葉を食べるか否かをめぐって、ネット上などではしばしば論争が巻き起こります。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、「桜餅の葉っぱ」と題する投稿が寄せられ、「食べるか食べないか」だけでなく、桜餅が葉に包まれている理由や、地域による違いなどについて、様々な考察が繰り広げられています。

桜餅は葉を付けたまま食べるというトピ主の「mana」さん。ところがある日、知人から「葉は食べない方がいいとお店の方に言われた」と聞きました。そこでトピ主さんは「桜餅の葉っぱは、食べますか?食べませんか? その理由も教えてください」と発言小町に問いかけました。

この投稿には40件を超える反響が寄せられていますが、「塩漬けの葉が甘いあんこを引き立てる」といった理由で「食べる派」が多数となっています。編集部がX(旧ツイッター)で実施したアンケート調査でも、6割以上が「食べる」と回答しました。

「子どもの時分は食べなかったけど、いつだったか、葉っぱも一緒に食べてみたら、塩漬けされた葉っぱの、ほのかな桜の香りと甘いあんが織り成すハーモニーが癖になった」と発言小町にコメントしたのは「あきな」さん。「これこそ桜餅と思わせる味わい。桜餅の葉は、飾りじゃないのよ♪」と主張しています。

「佐倉もち子」さんも、子どもの頃は桜の葉の香りも食感も苦手でしたが、親から「桜餅は葉っぱごと食べるんだよ」と教えられ、今では「葉の塩味と(餅の)甘味の絶妙なコンビネーション」を感じるほどに。葉ごと食べるものだと教えてくれた親に感謝しているそうです。

「nene」さんは、香りや風情を楽しむためだけでなく、「甘い桜餅の口直しに葉もいただく」と言います。このほか、葉を付けたまま食べる理由としては、「葉っぱを剥がすのが面倒」「剥がすと餅が手にくっついて汚くなる」といった声も聞かれました。葉は食べるけれど、硬い軸の部分は残すという人もいました。

一方、「食べない派」に多かったのは、「葉っぱの食感が苦手」という声です。「まろん」さんは「葉っぱの歯触りが苦手。かむとゾワゾワするから」食べないそう。「トクメイ」さんは「高齢だし、消化に悪い物をわざわざ食べなくてもいい」と考えています。「しろくろ」さんは「葉っぱ臭い味と筋っぽい食感が大嫌い」と打ち明け、葉の存在を全否定します。

トピ主さんの知人の「葉は食べない方がいいとお店の方に言われた」という発言に注目する人も多く、お店の人がそう言った理由について、「餅自体の味を楽しんでほしいからではないか」(「はにわ」さん)、「葉を薬剤処理しているのかな?」(「花梨」さん)、「葉っぱには毒があると聞いた」(「餅はなんでも大好き」さん)といった様々な意見が寄せられました。

桜の葉には「クマリン」と呼ばれる芳香成分の一種が含まれています。桜の葉のバニラに似た香りは、この成分によるもので、塩漬けにしたり干したりすることで、独特の香りを放ちます。クマリンには、抗菌作用や抗血液凝固作用があり、むくみ防止に効果がある一方、大量に摂取すると肝機能が弱まるリスクもあるとされています。お店の人が「葉は食べない方がいい」と言ったのは、このリスクが念頭にあった可能性がありますが、桜の葉を大量に食べない限り、問題はありません。

「食べる、食べない」の議論が白熱するなか、関東風の桜餅「長命寺」と関西風の桜餅「道明寺」に関する話題も寄せられています。

関東風の桜餅は、小麦粉でできた薄皮であんを包んだもの。江戸中期に東京・向島の長命寺の門前で売られるようになったことから、「長命寺」と呼ばれています。一方、関西風の桜餅は、蒸したもち米を乾燥させて粗びきした「道明寺粉」で作った餅であんを包んでいます。どちらにも塩漬けにした桜の葉が巻かれています。

「K」さんは、葉が硬くて剥がしやすい長命寺は葉を食べず、葉が餅にくっついて剥がしにくい道明寺は葉をそのまま食べるといいます。「しろくろ」さんは「道明寺はうまく剥がすことができない上に、さらに苦手な粒あんであることが多いので、絶対に食べません。長命寺は、こしあんであれば食べますね。もちろん葉っぱは剥がしますが」とコメントしています。

創業三百年を超える老舗「長命寺桜もち 山本や」(東京都墨田区)では、「葉をはずして、お餅にうつった桜葉の香りと餡の風味をお楽しみください」と呼びかけています。桜の葉は香りづけと乾燥を防ぐために付けてあるそうで、「それぞれのお好みで召しあがるのがなによりだと思いますが」と断ったうえで、桜の葉を取って餅を食べることを勧めています。

一方、道明寺については、「おーじん」さんが、京都・嵐山の老舗の主人に「葉を食べるか、食べないか」を聞いたことがあるそうです。その主人は「昔は桜の葉を食べないのが普通だった。天然の葉を使っていたので、中には硬かったりパサパサなものも多かったから。今は手入れされた葉を使っていて、やわらかくもなっているので、食べたい人は食べてもいいし、嫌な人は食べなくてもいい」と答えたといいます。

全国和菓子協会(東京)によると、江戸時代の桜餅は、3枚の葉で包まれていたそう。葉は包装紙の代わりで、餅の乾燥を防ぐ役割があったからです。同協会の担当者は「当時の葉は硬くてモソモソしていて、おいしくなかったでしょう。たぶん、食べていなかったのでは」と推測します。

今は1枚の葉で包むことが多く、葉っぱを食べる、食べないは「好みですね」。葉が餅にくっついている道明寺は、「そのまま食べても差し支えない」とし、「硬い軸の部分は、取り除いて食べた方が口当たりがよいです」。一方、長命寺は葉をはずして食べるのがお勧めとのこと。「ぜひ、餅やあんの風味と桜の葉のほのかな移り香を楽しんでください」と話していました。

桜餅には古今の職人たちが考え抜いた知恵や工夫が施されていることを知り、味わう楽しみが増えた気がします。

(読売新聞メディア局 後藤裕子)