神社や寺の参拝前に、手や口を清める「手水鉢(ちょうずばち)」に花を浮かべた「花手水(はなちょうず)」が注目されている。コロナ禍での癒やしとして始めたところが多いが、華やかな写真が「映える」としてSNSでも人気だ。

東京都品川区の蛇窪(へびくぼ)神社の手水鉢には、明るい黄色や淡いピンク色のキク、優雅なランの花が一面に浮かんでいる。

コロナ禍では、感染を防止するために手水鉢から水やひしゃくを撤去し、手を洗ってもらうことができなくなった。本来は清めの場所だが、その役目を果たせていない。担当者は2021年5月、「水を入れて花を浮かべたところを見てもらうだけでも、参拝者の心を洗うことができるのではないか」と考え、手水鉢に水を入れてアジサイの花を浮かべた。コロナ禍で疲れた参拝者からは「癒やされる」「きれいだね」と喜ばれた。

「お清めの場所に花を浮かべてもいいのか」という心配もあったが、好評だったため、いつも花手水を用意するようにした。今は、地元の花店に依頼して、12日ごとに花手水の花を取り換えている。暑さで花の色が悪くなった時には早めに撤去し、新しい花を浮かべるまでの間、手水鉢の底にビー玉を敷き詰め、青モミジを浮かべて涼しさを演出している。

担当者は「季節に合った花を浮かべているので楽しんでほしい」と話している。

神社の花手水が地域ぐるみでのイベントに広がったケースもある。

埼玉県行田市の行田八幡神社はコロナ禍の20年4月、「参拝者に癒やしを提供したい」と花手水を始めた。さらに市役所が「観光客をもてなそう」と呼び掛け、毎月、近隣の商店や民家などが花手水を飾る期間限定のイベント「行田花手水week」が行われるようになった。

同市の担当者によると、期間中に花手水を飾る店舗や施設は約100か所。21年4月に始まった月1回のライトアップイベントも好評だ。市内主要観光施設を訪れた人は、コロナ前の19年は約45万人だったが、22年には約72万人にまで増えた。

リクルートの旅行情報誌「じゃらん」の広報担当、四宮由梨さんは「花手水は、電車や車で行きやすいスポットのため、旅行先として人気だ。また、写真がSNSで『映える』ことも人気につながっている」と指摘。「SNS用の写真を撮るために、今まで神社や寺に関心がなかった人が参拝するきっかけにもなっている」と話している。(読売新聞生活部 福島憲佑、山村翠)