「かわいい子には旅をさせよ」とは昔から語り継がれていますが、実際に子どもにとってどんな意味があるのでしょうか? 旅を通じて子どもの自立心や感受性、考える力や行動力が育む「旅育」を紹介する書籍『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』(村田和子著、日本実業出版社刊)に寄せられた脳科学者の茂木健一郎さんのコラムを抜粋・編集して紹介します。

【筆者紹介】茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
1962年東京生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。


「旅のプランを立てる」ことは脳にいい?

脳を進化させてきた要因はいくつかありますが、そのうちのひとつは、未来を予測することです。思わぬイベントに満ちている旅に出ること自体が、このような脳の働きを育み、強くします。旅をすることで、地頭のよい子どもができるのです。

旅に出る前に親子で旅のプランを立てることは、未来を予測する脳の回路(前頭葉[ぜんとうよう]や、報酬系の回路)を鍛えます。地図を見て、ここに行こうと考えたり、A地点からB地点に行くのにどのようなルートを通ろうかと思い描いたりすることで、計画力や想像力を身につけることができるのです。

行きたいところが、お父さんとお母さん、子どもの間で違うこともあるかもしれません。そのようなときに、どのように話しあって、妥協点を見出していくのかということは、コミュニケーションのとても大切なレッスンになります。

親子でも、個性は違います。個性を持ち寄るのが、家族。旅の計画を通して個性を響きあわせることは、その子にとって一生続く宝物になります。脳の中では、旅は予定を立てるときから始まっているのです。


目標設定や褒め方のコツは?

脳の報酬系では、ドーパミンという脳内伝達物質が放出されます。このドーパミンが出ることで、脳の回路が強化され、学習が進んでいくのです。これを、強化学習といいます。

ドーパミン系の動作の特徴は、予想していなかった結果に対してく反応するということです。つまり、ドーパミンは、うれしいという「報酬」を表すと同時に、意外だったという「誤差信号」でもあるのです。

旅が脳を育む理由が、ここにあります。お家や保育園、幼稚園、小学校など、普段過ごす環境は子どもにとって大切な安全基地ですが、一方で慣れてしまうということもあります。旅に出て、新鮮な環境でいままでにない経験をすることで、「意外だった」という「誤差信号」が働きやすくなるのです。

ドーパミンは、自分でうれしいと思っても出ますが、他人から認めてもらったり、褒めてもらったりするとさらに働きが増強します。旅先ではお子さんを積極的に褒めてあげてください。

男の子と女の子といったジェンダーの差は、あまり気にする必要はありません。それよりも大きいのは、第一子、第二子といった兄弟姉妹の間の関係です。親と子が助けあうことはもちろんですが、兄弟姉妹でも、旅で助けあうようにすると、絆が深まり、脳にとっ
ても協力を学習する貴重な機会になります。