毎週水曜日の『CBCラジオ #プラス!』では、多治見スマートクリニック整形外科専門医の福田誠先生が膝について解説しています。 5月2日の放送では、京都大学iPS細胞研究所に研究員として在籍した福田先生が「iPS細胞」について詳しく解説します。

     

元研究員が教える小ネタ

iPS細胞(induced pluripotent stem cell)は日本語にすると「人工多能性幹細胞」
2012年に山中伸弥先生が発見し、その研究が評価されてノーベル医学生理学賞受賞となりました。

iPS細胞の小文字「i」には、山中先生のこだわりが。
当時世界的に大流行していたiPadのように細胞が普及して欲しいという願いが込められています。

福田「iPS研究所で一番やっちゃいけない間違いは、このiを大文字にすることです(笑)」

iPS細胞とは 歴史から紐解く

受精卵が皮膚や目などに変わるように、細胞が何にでもなれる力(多機能性)を使って変化することを分化と言います。

1900年代までは一度分化した細胞は2度と受精卵のような卵の状態に戻ることが不可能と言われていました。

福田「片道切符ということですよね。皮膚は卵には戻らない」

しかしこの細胞が若返るということがわかりました。
1962年、ジョン・ガードン先生がアフリカツメガエルのオタマジャクシを使って、分化した細胞が受精卵に戻ることを証明しました。

ガードン先生と中山先生は同時にノーベル賞を受賞した方。ガードン先生の発想がなければiPS細胞は生まれていないかもしれません。

では細胞が巻き戻ることはわかったけれど、どうやって遺伝子を使って戻すことができるのでしょうか。
この研究をしていたのが中山先生です。

分化した皮膚の細胞を受精卵までに近い細胞まで巻き戻したものがiPS細胞になります。

元研究員が大変だったことは?

iPS細胞は様々な再生医療の可能性を広げます。

中山先生は整形外科の先生でもあったため、iPS細胞の研究所には骨や軟骨を研究する部署がありました。
そこに大学院生の時に研究員として参加していたのが福田先生です。

この部署では、iPS細胞技術を使い、皮膚を骨に変える研究を行っていました。
他のチームでは腎臓や心臓を作るチームなど、それぞれの分野に特化した部署が設けられ研究が進められていたということです。

福田先生が研究で一番苦労したのは細胞のメンテナンス。

iPS細胞は何にでもなれる能力がある一方、何にでもなりたがる性質を持っています。
骨を作りたいのにメンテナンスを怠ると、一晩経って神経に変わってしまっていたりと失敗の連続でした。

福田「ほぼこの失敗をしに研究所に行っていたと言っても過言ではない」

福田先生はiPS細胞の研究をスペインの牛追い祭りだと感じています。
制御できない闘牛をあの手この手でコントロールする感覚です。

福田「たったお皿の上の作業なんですけど、これくらいドラマティックです」

iPS細胞がもたらす再生医療の未来

福田さんがiPS細胞の研究から離れて10年経ちますが、その間に大きな進歩を遂げました。

特に一度傷がつくと修復しにくい軟骨は再生医療の最も良い治療の対象です。
再生医療にどうしてもお金がかかるので、良いものができても患者まで届ける医療費が高額になることが現在の課題だといいます。

また、研究が進み、骨や軟骨の病気が細胞レベルで解明されれば、より進んだ薬の開発が期待されます。
例えば膝の軟骨は治らないとされていますが、研究によって膝の軟膏が修復できるような薬が開発されるかもしれません。

iPS細胞の研究が進み、年齢を気にせずに元気に歩ける未来が待ち遠しいです。
(ランチョンマット先輩)