Dawn Chmielewski Anna Tong

[23日 ロイター] - 生成人工知能(AI)の米オープンAIが、おそらくは映画「her」への「オマージュ(敬意)」として俳優のスカーレット・ヨハンソンさんに似た声をAIの音声機能に使ったことが、ハリウッドでAIへの反発に火を付けている。

ヨハンソンさんは、自身がherで演じたAI音声を使いたいというオープンAIからの要請を断った後、同社がその音声をまねたと非難。AIによって自らの存在が脅かされるという業界の不安が再燃することになった。

「この一件は核心を突いたようだ」と、ある業界幹部は語る。「(漠然とした不安が)人の顔をして姿を現したようなものだ。著名なテック企業が有名人に何かをしたのだから」という。

ただ、ハリウッドのスタジオは、オープンAIの新機能を試験利用し、同社との提携を探っている最中でもある。

オープンAIは今年2月、テキストを入力するだけで映画並みの品質の動画を作り出す生成AI「Sora(ソラ)」を発表し、世界をあっと言わせた。

以来、ハリウッドの業界幹部やエージェントは同社幹部と何度も会い、製作面での提携や技術の応用について協議している。

このためオープンAIが対話型AI「チャットGPT」最新版の発表で、ヨハンソンさんの声に「不気味なほど似ている」音声を使ったとして彼女が批判の声を上げたことは、一部の業界幹部を悩ませている。複数の関係筋がロイターに語った。

あるスタジオ幹部は「コンテンツクリエーターと巨大テック企業が互いを尊重してコラボする、といった状況ではないのは確かだ」と述べ、オープンAIの行動は「尊大」だったと非難した。

オープンAIのアルトマン最高経営責任者(CEO)は20日の声明で、音声は「スカーレット・ヨハンソンさんのものではなく、彼女の声に似せようという意図は決してなかった」と述べた。

今回の紛争以前から、ハリウッドのエージェントや幹部はロイターに対し、オープンAIのモデルが著作権付きの作品を使って訓練を行っているとの懸念を口にしていた。

一部の映画製作陣は、同意を得ずに他の著作で訓練されたツールを使うことに二の足を踏んでいる。オープンAI側は、そうした著作はインターネット上で公に入手できるため、AIを訓練するのは公正な使い方だと見なしている。

一方、エンタメ業界の技術者はSoraについて、映画・テレビ番組の製作過程の拡張機能として有望だと考えている。短期的には、デジタルエフェクトを付けるスピードを加速させるのに応用できるという。

米メディア大手フォックスは既に、動画配信サービス「Tubi」の視聴者にテレビや映画の新作を推薦するのにチャットGPTを使っている。

オープンAIは、「スーパーマン」や有名俳優をフィーチャーしたビデオを生成できないようにするなど、著作権を保護する意向を示している。しかし、知名度の低い俳優などをどう守るかについては、懸念が残る。

<パブリシティ権>

弁護士によると、ヨハンソンさんはオープンAIにパブリシティ権を侵害されたと主張できる。名前や肖像の商業利用を管理する権利だ。

歌手のベット・ミドラーさんは1980年代、自動車大手フォードの広告への出演を断った後、同社の代理店が自身の元バックシンガーに演奏をまねさせたとして代理店を訴え、勝訴した。

シンガーソングライターのトム・ウェイツさんも88年に類似の訴訟で勝っている。

スタンフォード大学の法・科学・技術プログラムのディレクター、マーク・レムリー氏は「いずれのケースでも、その歌手によって有名になった曲を声の似た人々が歌ったため、視聴者は、歌っているのはその歌手で、商品を支持しているのだと思い込む可能性が高かった」と話す。

ヨハンソンさんの事例はこれらほど明確ではないが、1)映画「her」におけるヨハンソンさんの声をまねようとしたこと、2)アルトマン氏が何度も彼女を採用しようとしたこと、3)同氏がソーシャルメディアの投稿でherに言及したこと──を考え合わせると「ヨハンソンさんの主張には強力な根拠がある」と、レムリー氏は指摘した。 

全米でパブリシティ権の確立に尽力したSAG―AFTRA実演家組合の顧問弁護士ジェフリー・ベネット氏は「今、これほど大きな話題になっていることに興奮を覚える」と言う。

「われわれは『ディープフェイク』の拡散について訴えてきたが、今や全ての人が影響を受け始めた。本格的な対話が始まった。連邦レベルでの解決策が必要だ」と同氏は語った。