ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ(Noel Gallagher‘s High Flying Birds)、約4年半振りの来日ツアーがいよいよ開幕(全公演ソールドアウト)。12月1日・東京ガーデンシアターで開催された公演初日の最速ライブレポートをお届けする。

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※以下、セットリスト等ネタバレあり


約4年半ぶりにノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ(以下NGHFBs)の来日公演が実現した。前回の来日時と同様に、ゲム・アーチャー(Gt)、クリス・シャーロック(Dr)と元オアシス組を含むラインナップ。キーボードも90年代からオアシスをサポートしていたマイク・ロウで、ステージ上にはノエルを入れて計4人も“かつてオアシスのライブで演奏していたミュージシャン“がいる状態だ。


ノエル・ギャラガー(Photo by Mitch Ikeda)


ゲム・アーチャー(Photo by Mitch Ikeda)


クリス・シャーロック(Photo by Mitch Ikeda)

最初のツアーからNGHFBsに残っているメンバーはマイク・ロウとラッセル・プリチャード(Ba)のみとなった。ラッセルは前に在籍していたズートンズが2016年に復活ライブを行なった際に演奏するも、その後のリユニオン・ツアーには参加せず、NGHFBsのリズム隊をしっかりと支え続けている。2017年からバック・ボーカルとキーボードを担当しているジェシカ・グリーンフィールドは、ハーバライザーの2008年のアルバム『Same As It Never Was』にジェシカ・ダーリン名義でフィーチャーされていたソウルフルな声の持ち主。自身のソウル・グループ、ワンダー45でも活動しており、間もなくシングルがリリースされるところだ。ラッセルとジェシカのバック・ボーカルは今のNGHFBsにとってなくてはならない要素で、ノエルと3声で息の合ったハーモニーを聞かせてくれる。

今回は上記のメンバーにコーラス2名、さらにキーボード担当のシャノン・ハリスが加わり、曲によってトリプルキーボードになる計9人の大所帯。アレンジがますますスケールアップした最新作『Council Skies』を聴いた後だと、この増員も至極当然と思える。セットリストもその『Council Skies』から新曲をたたみかけ、その後はNGHFBsの旧作からピックアップした選曲、最後にオアシスを続けざまに、という構成になっていた。8月に豊洲PITで観たリアム・ギャラガーのライブが、まずオアシスの曲から攻めてソロの曲へ行く流れだったのとは対照的で面白い。


Photo by Mitch Ikeda


ラッセル・プリチャード(Photo by Mitch Ikeda)


ジェシカ・グリーンフィールド(Photo by Mitch Ikeda)

客入れ中のDJが終わり、ブライアン・イーノ監修の『Music For Films III』から、ジョン・ポール・ジョーンズが作ったドローンだらけのインストゥルメンタル「4-Minute Warning」が場内に響き渡り、その終わりを合図にメンバーが入場。この演出が、サイケ・ポップ的な表現にフォーカスしている今のNGHFBsにはよく合っている。

メンバーの足元は、それぞれに色とりどりの花が飾られて華やかな雰囲気。「Pretty Boy」が始まるとスクリーンにも花が現れて、視覚が存分に刺激される。初めて生で聴くこの曲はコンパクトに感じたスタジオ録音よりも遥かにグルーヴの輪郭がくっきりしていて、リズム隊の疾走感が心地よかった。

ステージ上で実践されるソロでの音楽的トライ

クリス・シャーロックは序盤から乗りまくっていて、次の「Council Skies」では早くもザ・フーのキース・ムーンよろしく、スティックを空中に放り上げてキャッチ、を始める。ノエルのボーカルも絶好調、高域での声の張りは過去最高では?と思うほど素晴らしい。アコースティック・ギターが引っ張る洗練された曲だが、間奏でリフのグルーヴの中にローリング・ストーンズの「Jumpin' Jack Flash」が浮かび上がってくる仕掛けなのも、古典からの引用によって創作を続けてきたノエルらしい。

そうした“引用王“ノエルの健在ぶりを示すもうひとつの曲が「Open The Door, See What You Find」。60sサイケ・ポップのマニアが聴けば、即座にレフト・バンク「Barterers And Their Wives」からの引用が含まれていることに気付くAメロを経て、そこから飛び立つような開放感のあるサビへとなだれ込んでいくひらめきは、やはり天才的なのだ。「何よりもチューンが大事」と事あるごとに言っているだけのことはある。


Photo by Mitch Ikeda


Photo by Mitch Ikeda

ビートルズ時代のポール・マッカートニーやゾンビーズを彷彿させる路線に徹した「We're Gonna Get There In The End」で華やいだ雰囲気になった後、しみじみと聴かせる「Easy Now」では逆にジョン・レノンへの憧憬が露わになる。この2曲を足したら、ビートルズの話題の新曲「Now And Then」よりビートルズっぽく聞こえるのでは……とも思った。後者の印象的なギターソロはゲムが担当、ここまでノエルはアコースティックギターしか弾いていない。

ようやくノエルがエレキギターに持ち替えた「You Know We Can't Go Back」で、またガラッと雰囲気が変わる。アップテンポでビートが効いた曲ながら、ジェシカ、ラッセル、ノエルのハモりが前面に出て、これもスタジオ・バージョンから随分と“育った“という印象を受けた。バラードの「We're On Our Way Now」でも、和声をうまく使ったアレンジが耳に残る。オアシスという“バンド“の中にとどまっていたらできなかった音楽的なトライを、地道にひとつずつ試してきたソロ・キャリアだったな、とも改めて思う。


Photo by Mitch Ikeda


Photo by Mitch Ikeda

アップテンポの「In The Heat Of The Moment」が始まると、またしてもクリスが俄然元気に。取り損ねるのではと心配になるほどスティックを高く放り上げるが、難なくキャッチしてリズムを崩さない。アイシクル・ワークスやザ・ラーズ、ワールド・パーティー、ライトニング・シーズでもプレイしてきたこのベテラン・ドラマーは来年で還暦を迎えるはずだが、独特な跳ね方をするドラミングの魅力はまったく変わらない。

続いてNGHFBsの1stアルバムから歌われた「If I Had a Gun...」にはセンチメンタルにならざるを得なかった。この名曲はもともとオアシス在籍時に書かれたもので、場合によってはゲムやクリスとレコーディングしていた可能性があるのだ。結果的にソロ作に収められることになったが、ノエルもこの曲を気に入っていて、インタビューした際に「この曲をシングルに選んだことをどう思う?」と逆に訊き返されたことを思い出した。ノエルを傲慢な自信家のように思っている人がいるかもしれないが、ああ見えて曲の感想を知りたがるタイプなのだ。逆に、同じくHFBsの1stに入れられた「AKA... What a Life!」は16ビートを強調したリズムアレンジがオアシスのコンセプトとはかけ離れていて、ソロでやることに意義のある曲だったな……と、独立したばかりの時期の記憶が次々によみがえる。

包み込むような歌唱、オアシスの曲をいま歌う意味

ここでノエルとマイクのふたりだけを残し、「Dead In The Water」へ。水面の上に大きな満月が浮かぶ映像をバックに、アコギとピアノだけで歌われる歌詞は、ラブソングのように聞こえるが、ソロで歌い続けることの理由を我々に向けて語りかけているようにも感じた。詩的な表現とスクリーンの演出が見事に合致した、この日のハイライトに挙げたい名演だ。
ここに至るまでも、客席からは「弟はどこだ」だの、オアシスがどうのと声が上がっていたが、満を持してようやく歌ったオアシスの曲が、「Going Nowhere」というチョイスも心憎い。「Stand By Me」のシングルにカップリング曲として収録、のちに『The Masterplan』にも入れられたこの曲は、名声やツアー暮らしとつき合っていくことへの不安が影を落としていたはず。それを今のノエルが、飄々と歌う様子を見られるなんて、長年のファンとしては感慨深い瞬間だ。

さらに「The Importance Of Being Idle」「The Masterplan」と続くと、近くの席のアメリカ人と思われる若い観客が「オエイシス、オー・マイ・ゴッド……」と何度も深いため息をつく声が聞こえてくる。どう見ても20代なのだが、周囲を見渡すとやはり20〜30代と思われる観客がこれまでより多いように感じた。ドキュメンタリー映画の上映や旧作のリイシューが、新しいリスナーを獲得することにつながっているのだろう、という手応えを感じる。


Photo by Mitch Ikeda


Photo by Mitch Ikeda

メロディの美しさが際立つ「Half The World Away」で自然と観客の合唱が起きた後は、本編ラストに「Little By Little」を持ってきた。オアシスというとどうしても初期の曲に人気が偏るが、メンバー・チェンジ後にもノエルはこういう超強力なミドル・チューンを書いていたのだ。リリース当時はピンク・フロイド『The Dark Side Of The Moon』からの影響を色濃く感じた曲だったが、今はもっと骨太で、アレンジもゴスペル・ロック的な方向を選んでいて収まりがいい。

アンコールの最初に披露された「Quinn the Eskimo (The Mighty Quinn)」は、ノエルが言っていた通りボブ・ディランの曲だが、コーラスやリズムアレンジは、マイク・ダボがシンガーだった時期のマンフレッド・マンのバージョン(1968年:全英1位・米10位)を参考にしている。そのチョイスも、初期のフォーク・ロック的な方ではなく60‘sサイケ・ポップの方に向き直した感じがする今のNGHFBsとサウンド的によくマッチしていた。

続く「Live Forever」は、訃報が伝えられたばかりだったポーグスのシェイン・マガウアンに捧げると宣言してから歌い始められた。これまでに聴いたことがない、演奏も歌唱も抑えたトーンで通された、文字通り鎮魂の「Live Forever」。オアシスの原曲とはまったく異なる、穏やかに包み込むようなノエルの歌唱が、コーラスと共にひと際心に響く。

最後の「Don't Look Back In Anger」も、いつになく優しい歌い口ではなかったか。シャウトに向かない、どちらかというとクルーナー寄りな声質であることをよくわかっているノエルは、10年以上も続いてきたNGHFBsでの活動を通して、シンガーとしての完璧な“声“をいよいよ見つけたのかもしれない……そう感じずにはいられない名唱だった。オアシスの復活を切望する声は相変わらず止まないが、シンガー・ソングライターとしての道を本望通りに歩み続けているノエルを前にすると、自分には今あのバンドを再生させることの意義が見えてこない。やはり男ふたり、別れていく運命だったのだ。せつないけれど。

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Photo by Mitch Ikeda


〈セットリスト〉
1. Pretty Boy
2. Council Skies
3. Open the Door, See What You Find
4. We‘re Gonna Get There in the End
5. Easy Now
6. You Know We Can‘t Go Back
7. We‘re on Our Way Now
8. In the Heat of the Moment
9. If I Had a Gun…
10. AKA… What a Life!
11. Dead in the Water
12. Going Nowhere
13. The Importance of Being Idle
14. The Masterplan
15. Half the World Away
16. Little by Little
(アンコール)
17. Quinn the Eskimo (The Mighty Quinn) (Bob Dylan cover)
18. Live Forever
19. Don‘t Look Back in Anger

セトリプレイリスト:https://lnk.to/NGHFB_JPTourDay1


NOEL GALLAGHER‘S HIGH FLYING BIRDS
2023 JAPAN TOUR
12月2日(土)東京ガーデンシアター
12月4日(月)大阪フェスティバルホール
12月6日(水)愛知県芸術劇場大ホール
*全公演ソールドアウト
来日公演特設サイト:https://smash-jpn.com/noelgallagher2023

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ
『Council Skies』
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再生・購入:https://lnk.to/NGHFBCouncilSkies