プロボクシングの元WBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎(53)の次男で、日本スーパーバンタム級11位の寿以輝(27、大阪帝拳)が5月18日にエディオンアリーナ大阪第2競技場でチャイワット・ブアトクラトック(31、タイ)とノンタイトルのスーパーバンタム級8回戦を戦うことになった。相手には父が現役時代に苦手としたサウスポーをあえて選んだ。「この先を見据えて」のテストマッチ。陣営はいったい何を想定して異例のマッチメイクを組んだのか。

バンタム、スーパーバンタム級の両睨みで日本や東洋の地域タイトルを目指す

そろそろ本気を出しまっせ。
27歳の辰吉ジュニアの覚醒ロードがいよいよ本格化してきた。1月23日に那須川天心のデビュー戦の相手を務めた与那覇勇気(真正)に、途中、右拳を痛めながらも判定勝利。そして、5月18日の興行のメインで拳を交えるプロ17戦目の相手は、50戦41勝(27KO)9敗のキャリアを誇り、WBCインターナショナル・フェザー級王者の経験があるチャイワットとなった。しかも、ノンタイトル戦にもかかわらず、辰吉家が、苦手としてきたサウスポーを対戦相手に選んだ。
「サウスポーも苦手じゃないっていうところを見せられたら。もちろんKO勝ちで」
チャイワットは、吉井寛会長が「寿以輝の対戦相手としては過去最強」と警戒するボクサーで、2022年10月には元OPBF東洋太平洋&WBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級王者、元OPBF東洋太平洋バンタム級王者の中島一輝(大橋)と対戦して、強烈な左フック、左右フックで2度ダウンを奪っている。8ラウンドに中島がロープを背負わせてラッシュをかけたところでレフェリーがTKOを宣告したが、ダウンもしておらずタイ人は「負けていない」と猛抗議した。
前進力のある攻撃的なファイターでパンチ力はある。同じく攻撃型の寿以輝とは噛み合う。危険が同居しているがKO決着必至だろう。
寿以輝も映像はチェックした。
「ガツガツくる。いかにもタイ人やなあという感じ。8ラウンドあれば殴り合う場面もある。スキは逃さない」
では陣営はなぜサウスポーと組んだのだろう。
吉井会長は「バンタム、スーパーバンタム級の王者や有力ボクサーには、サウスポーのいい選手が多い。今後やる可能性はあるし、タイトルを取った後にも防衛戦相手としてサウスポーが出てくる。このクラスを仕留められないと口先だけということになる。バンタム、スーパーバンタム級に辰吉ありと、認めてもらう大きな1試合にしたい。ここからは正念場」と説明した。
近い将来のタイトル挑戦の可能性を想定してのテストマッチ。バンタム、スーパーバンタム級でのサウスポーと言えば、WBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M.T)、5月6日にWBO世界同級王者のジェイソン・モロニー(豪州)に挑戦する武居由樹(大橋)、5月4日にIBF世界同級王者のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に挑戦するWBOアジアパシフィック・バンタム級王者の西田凌佑(六島)、そして那須川天心(帝拳)の名前が真っ先にあがる。
那須川は帝拳グループの同門ゆえ、吉井会長は「可能性は100%ない」と断言するが、もし武居や西田がベルトを巻けば、当然、近い将来にターゲットにすることになる。西田は、WBCアジアのベルトを持ったままなので、たとえロドリゲスに負けても、そのベルトに寿以輝が挑戦する可能性はあるだろう。
世界挑戦の前には、地域タイトルが必要で、現在バンタム級の日本王者は空位だが、4月13日に大阪で防衛戦を行うスーパーバンタム級日本王者の下町俊貴(グリーンツダ)もサウスポーだ。
寿以輝も「それ(将来のサウスポーとの対戦に備えたテスト)込みでないとやる意味がない」と断言した。
2月24日に行われたWBA世界バンタム級王者の井上拓真(大橋)の防衛戦と中谷の王座奪取はネット配信で見た。
「ここに割って入りたい。(ボクシングを)やっている以上は。日本人が強いことはいいこと。拓真、中谷?『おお強っ』と思った」
どこかで対戦相手として意識しているのだろう。
吉井会長は「今の段階で世界は無理。ただ力はつけている。まずは地域タイトルを取って、そこから課題を克服しながら世界へとステップさせたい。幸いバンタムは群雄割拠。そこに割って入りたいし、スーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥選手が、フェザー級に上がれば、スーパーバンタム級のベルトが一気に4つも空くので、そこにチャンスが生まれると思う」との構想を抱く。
5月6日に東京ドームでのルイス・ネリ(メキシコ)とのビッグマッチを控えるスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(大橋)は、来年の後半、あるいは、再来年にはフェザー級へ転向する可能性がある。そうなれば、4つのベルトがすべて王座決定戦となる。そこも狙い目。寿以輝は、まだ世界ランキングにも入っていないが、そこまでに世界ランキングを上げておかねば話にならない。
寿以輝も「まずは年内には地域タイトルを取りたい」という。サウスポーではないが、武居との試合が流れたOPBF東洋太平洋バンタム級王者の栗原慶太(一力)も有力なターゲット候補だ。

ただ辰吉家には「サウスポーが苦手」との遺伝子が流れている。父の丈一郎は、変則サウスポーであるWBC世界スーパーバンタム級王者のダニエル・サラゴサ(メキシコ)と2度対戦したが、2度とも苦手意識を克服できずに敗れている。寿以輝も、これが、キャリア2試合目のサウスポーとの対戦で前回の今村和寛(本田フィットネス)との対戦はバッティングによるカットで負傷引き分けとなっている。
「なんやかんや親父と(スタイルが)似ている。もらわんでええパンチをもらうとこまで」
だが、父は「サウスポーが苦手や」と口にしたことがない。
「自称、サウスポーは苦手じゃないと、自信満々に言う。サウスポーはワシ好きやと。戦績を見る限りそうやないけど(笑)」
その父は、寿以輝から次戦に戦うのがサウスポーであるとの報告を受けると、こうアドバイスを送ったという。
「(父は)“ザ・昭和”の人間なんで。とにかく左回りやと」
相手の後ろ手となる左との距離を遠くにするため、サウスポーには左回りのステップが基本。しかも、左ジャブを多用するのが、基本の攻略法だ。寿以輝は、父から授かったアドバイスをベースに「サウスポーが苦手」の悪しき遺伝子を断ち切るつもりだ。
「僕は父より臨機応変なんで」
また相手がタイ人であることにも辰吉家には因縁がある。
父が劇的なWBC世界バンタム級王者に返り咲きを果たした相手もシリモンコン・ナコントンパークビューというタイ人。2度敗れ、一度目の引退の引導を渡されたのも、タイのウィラポン・ナカンルアンプロモーションで、日本でJBCのライセンスが下りなくなってからは、タイに渡ってタイ人と試合をした。
「シリモンコンでもセコンドにつけばタイとの因縁なんでしょうけどね。タイ人はボディが弱いイメージがあるので、ボディで倒します」
5月18日は父の54歳の誕生日の3日後。
「勝利をプレゼントして喜ばれますかね?ケーキの方がええかも」
寿以輝は、与那覇戦に痛めた右の拳も治り、今月に入って本格的なスパーリングにも入った。すでに20ラウンドほど消化している。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)