プロボクシングの女子アトム級8回戦が2日、東京・後楽園ホールで行われ、世界選手権で2度銅メダルを獲得しているアマ8冠の和田まどか(29、TEAM10COUNT)がピムチャノック・セプジャンダ(20、タイ)に3回1分47秒TKO勝ちして鮮烈のプロデビューを飾った。29歳でプロ転向した和田は男子を含めて世界最速タイ記録となる3戦目での世界ベルト奪取に照準を絞っている。

 

和田まどかが鮮烈の3回TKOデビュー(写真・山口裕朗)

 左ストレートが何発も顔面に炸裂した

 大人と子供。
和田は12戦8勝(5KO)4敗の戦績を持つ童顔の小柄なタイ人を1ラウンドから圧倒した。
「落ち着いていこうと思ったが、当たるもんだから、1ラウンド目から前へ前へといってしまった。強張った表情と息使いを見て、いけると思った」
和田はジャブからワンツーで先手を取り、左ストレートが当たると、タイ人のダメージの様子を冷静に見極めて一気にラッシュした。それでも仕留めきれず、2ラウンド目からは右のジャブから組み立て直した。コーナーにつめ至近距離からショートの連打で一度目のダウンを奪う。3ラウンドはノーモーションの左ストレート、右フックをピンポイントで狙い、タイ人の動きが止まると、またラッシュをかけ、左右のフックがヒットしたところで、レフェリーがTKOを宣告した。
鮮烈のプロデビュー。それでも控室で、和田は同じ年だが、ジムでは先輩にあたるWBO&IBF世界アトム級王者の松田恵理と、どの行為がプロでは反則になるかなどの反省会を開いていた。
自己採点は「100点満点で10点」と厳しかった。
「顔は綺麗なままで終われたが、ピンポイントで精度のいいパンチを当てるのは難しい」
セコンドからは「そこ!」と打つタイミングを声で知らせてくれたが、うまくパンチを出すことができなかった。ヘッドギアを着用するアマチュアでは、頭を跳ね上げさせればポイントになるが、「プロではそれでは効かない」との違いを肌で感じた。
KO決着の少ない日本の女子ボクサーの中でも「倒せるボクサーになりたい。(WBO世界女子スーパーフライ級王者の)晝田さんみたいに豪快なボクシングができたらいい」の思いを持つだけになおさらそこが悔しかった。
プロ転向を表明したのが1月30日。2月にプロテストを受験して3月2日にデビュー戦と時間がなかった。アマチュア時代から低かったガードを高くし、脇を締めるという微調整はしたが、「アマチュアの延長で試してみて試合で修正しようと思った」という。
まだプロ仕様にはなっていない。アマ時代はサウスポーの利点を生かしたポイントアウトのボクシングスタイル。「倒すボクサー」を目指すのであれば大胆なスタイル変更は必要で、和田も「もっともっと練習して、納得できるボクシングできたら」と言う。
「プロになって大丈夫かな?というマイナスの気持ちはなかった。8オンスのグローブでヘッドギアがなくても怖くはなかったが、どれだけ動けるかわからなかった。1戦できて、ちょっとほっとしている。次へつながる勉強になった」

 和田は高校時代から“天才ボクシング少女”として注目を浴びた。全日本選手権を3階級で6度優勝し、世界選手権では2014、2018年にライトフライ級で銅メダルを獲得したが、リオ五輪、東京五輪と国内の選考会で敗れ五輪とは縁遠かった。ラストチャンスと考えていたパリ五輪も代表選考会を兼ねた昨年11月の全日本選手権のライトフライ級決勝で木下鈴花に敗れて引退を決意した。
「アマでは世界一になれなかったが、プロで世界一を目指してはどうか」
アマ時代から教えを請うていた鳥海会長に説得され、松田の後押しもあってプロ転向を決意したが、すでに29歳。遅すぎるプロデビューである。
「遅いと思います。でも30歳を超えても強い男子ボクサーはたくさんいます。そこに負けじと、私はできると信じている」
今回は、女子では初の8回戦デビューとなった。アマチュア実績に加え、陣営が3戦目での世界ベルト奪取に目標を掲げているため、そこに配慮しての特例措置。元OPBF東洋太平洋バンタム級王者で敗れたが、元3階級制覇王者の長谷川穂積と激闘を演じたこともある鳥海純会長は「次は夏に地域タイトル。年内に3戦目で世界挑戦させたい」との構想を明かした。
もし3戦目で世界奪取に成功すれば、日本女子ではWBCライトフライ級暫定王者の富樫直美(ワタナベ)、WBOミニマム級王者の佐伯霞(真正)、WBOスーパーフライ級王者の晝田瑞希(三迫)の4戦目を抜いての最速記録となる。男子を含めても、センサク・ムアンスリン(タイ)、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)の3戦目に並ぶ世界記録だ。
「世界一になってからがスタート。早ければ早いほどいい」
和田も意欲十分だが、そのステップとなる地域タイトルは、同階級の日本&OPBF王者はジムメイトの狩野ほのか。WBOアジアパシフィックの同級王座は、IBF世界同級王者の山中菫(真正)が持っていて、挑戦したくともできないという難しい事情がある。ベルトの返上を待って、その決定戦に出場するしかないが対戦相手が見つかるかどうかも微妙。今回もデビュー戦相手に何人かの日本人ボクサーにオファーしたが断られてタイ人ボクサーに落ち着いたという経緯もある。
また年内に世界へ挑むのも、WBO&WBAの世界同級王者は、1月に黒木優子(真正)を破って新王者となったばかりのジムメイトの松田。まずはIBFの山中がターゲットになるのだろう。
和田の目標は4団体統一ではなく複数階級王者である。
「4、5つはいきたい」
女子では48歳まで現役を続けた藤岡菜穂子が5階級制覇を成し遂げている。現在はスーパーフライ級に君臨している晝田といつか世界戦で拳を交えたいとの思いも強い。
控え室での囲み取材が解け、プロリングに立った今、進んだ道に後悔はしていないか?と尋ねると、募った思いがこみ上げ、和田は号泣した。
「ずっと12年間、金メダルを目指していたんで悔しい気持ちがある。でも環境が変わってプロで世界一を目指したいと思ったとき、このメンバーが私を支えてくれている。みんなに私の世界一をプレゼントしたいなと」
そう言う和田を鳥海会長、松田、狩野が輪になって見守っていた。
引き上げる花道でファンからは「感動したよ」と声をかけられた。
「胸が熱くなる試合を次は絶対にしたい」
和田まどかの“真の世界一”への挑戦が始まった。