日本サッカー協会(JFA)は4日、今夏のパリ五輪出場をかけたアジア最終予選を兼ねて、15日からカタールで開催されるAFC・U-23アジアカップに臨むU-23日本代表メンバー23人を発表した。MF松木玖生(20、FC東京)らの国内組が順当に名を連ねた一方で、MF鈴木唯人(22、ブレンビー)やMF斉藤光毅(22、スパルタ・ロッテルダム)ら、この世代をけん引してきた主力が選外となった。8大会連続の五輪出場へ向けた最大の危機はなぜ生まれたのか。

 8大会連続の五輪出場に挑むメンバー23人が決まった。
4日に東京・文京区のJFAハウスで行われたU-23日本代表メンバー発表会見。チームを率いる大岩剛監督(51)が、前夜に最終的に決めた顔ぶれについてこう言及した。
「この選手たちでタフに戦い抜く自信を持って、チーム一丸となって大会に臨む」
20歳ながらFC東京でキャプテンを務めている松木や、昇格組ながらJ1リーグで首位に立っているFC町田ゼルビアをけん引しているMF平河悠(23)らの国内組は順当に名を連ねた。しかし、大岩監督のもと、今夏のパリ五輪へ向けてチームが立ち上げられた2022年3月から、中心を担ってきた選手たちの多くが選外になっている。
指揮官は覚悟を決めたように、選手選考に関して言葉を紡いだ。
「われわれはお願いベースなので、各クラブとコミュニケーションを取り、協力を得た上で選手を選んだ認識でいる。感謝とともに責任を果たす気持ちで大会に向かいたい」
呼べなかった選手のほぼ全員を、ヨーロッパ組が占めている。
具体名をあげれば、この世代で「10番」を託されてきた鈴木唯やドリブラーの斉藤、今冬に斉藤のチームメイトになったMF三戸舜介(21)や、バイエルン・ミュンヘンから期限付き移籍中のポルティモネンセで初ゴールをマークしたばかりのMF福井太智(19)、NECナイメヘンで先発に定着したMF佐野航大(20)が招集されなかった。
さらにDFチェイス・アンリ(20、シュツットガルト)や1月にトップチームへ昇格したFW福田師王(19、ボルシアMG)、FW小田裕太郎(22、ハーツ)も選外になった。森保ジャパンのゴールマウスを守るGK鈴木彩艶(21、シントトロイデン)やパリ五輪の出場資格を持つMF久保建英(22、レアル・ソシエダ)も呼ばれていない。
会見に同席したJFAの山本昌邦ナショナルチームダイレクター(ND、66)が言う。
「昨日も深夜まで(大岩監督は)悩んでいた。自由に選手を選べない点で、現場の監督やコーチングスタッフに負担をかけているのは間違いない」
代表監督が望む全選手を招集できない。パリ五輪のアジア最終予選を兼ねた今回のU-23アジアカップが、国際Aマッチデー(IMD)期間外となる4月15日から5月3日まで中東カタールで集中開催される点が、A代表では起こりえない事態を招いている。
国際サッカー連盟(FIFA)が定めるIMD期間ならば、各国サッカー協会に選手を代表チームに招集できる権利が生じる。一転してIMD以外ならば、各クラブとの個別交渉が国内外を問わずに必要となる。大岩監督が言及した「お願いベース」が生じるわけだ。
U-23アジアカップはもともと今年1月の開催が予定されていた。しかし、4年に一度のアジアカップを昨年夏に開催する予定だった中国が、コロナ禍を理由に突然返上。代替開催国はカタールに決まったものの、酷暑を避けるために冬場の1月開催にせざるをえず、玉突きされる形でU-23アジアカップも4月中旬開幕にずれ込んだ。

 ヨーロッパはシーズン終盤、日本は同開幕直後と、選手を派遣する上で大きなリスクを伴う時期。こうした事態を、2004年アテネ五輪代表監督を務め、IMD期間内にホーム&アウェイ方式で行われたアジア予選を勝ち抜いた山本NDは次のように受け止めた。
「イレギュラーな形で、前例のない時期での開催となった」
JFAはまずJクラブ側と緊急の話し合いの場を持った。2024シーズンが開幕した後で、しかもリーグ戦の中断もないIMD期間外の今大会に1クラブから選手を原則最大2人、状況に応じて3人まで招集できる協力体制を取りつけた。
今回のメンバーからは、左サイドバックの一番手と目されたバングーナガンデ佳史扶(22、FC東京)が選外となった。これは同チームから松木、1月のアジアカップ代表のGK野澤大志ブランドン(21)、すでに5ゴールをあげてJ1得点ランキングの2位に名を連ねるFW荒木遼太郎(22)の3人が招集され、上限に達した状況と関係している。
しかし、ヨーロッパ組の交渉は難航した。山本NDが言う。
「日本国内でのベースが作られたが、ヨーロッパをはじめとする海外でリーグ戦の終盤を迎える非常に重要な期間において、各クラブには選手をリリースする義務がないし、招集拒否もできる。選手を招集する上で本当にハードルが高くなっている」
もっとも、鈴木唯や斉藤らの招集自体を早い段階で断念していたのだろう。彼らを呼べる状況にあった先の3月シリーズでも大岩監督はあえて見送り、今回とほぼ同じメンバーでU-23マリ及びU-23ウクライナ両代表との国際親善試合に臨んでいる。
ただ、気になる戦績もある。
東京五輪アジア最終予選を兼ねて、2020年1月にタイで開催された前回U-23アジアカップ。開催国として東京五輪への出場が決まっていた日本は森保一監督(55)のもと、本番へ向けて実戦経験を積むべく参加するも、まさかのグループリーグ敗退を喫している。

 
サウジアラビアとシリアに連敗し、カタールと引き分けるもグループBの最下位に沈んだメンバーで、ヨーロッパ組はMF食野亮太郎(25、当時ハーツ、現ガンバ大阪)だけだった。当時からヨーロッパ組を招集しづらかった状況下で、日本もアジア最終予選を兼ねた状況ならば五輪連続出場が途絶える事態に直面していたわけだ。

 3月シリーズに引き続き、MF藤田譲瑠チマ(22)とMF山本理仁(22)のシントトロイデン勢やGK小久保玲央ブライアン(23、ベンフィカ)ら5人のヨーロッパ組を招集できた。しかし、山本NDによれば、W杯のアジア大陸枠が「8.5」に拡大したのに伴い、各国ともにA代表の強化に繋がる育成年代の強化に注力してきた成果が出ているという。
16カ国が出場するU-23アジアカップでは、16日のU-23中国とのグループリーグ初戦からU-23アラブ首長国連邦戦、U-23韓国戦とすべて中2日の過密日程で戦う。さらに8カ国が進む決勝トーナメントを決勝まで勝ち抜いた2カ国と、3位決定戦の勝者がパリ五輪出場権を獲得。4位はアフリカ4位のギニアとの大陸間プレーオフに回る。
大岩監督は「厳しい戦いになるのは間違いない」と前を見すえる。
「危機感というワードが正しいかはわからないが、しっかり準備して、いろいろなものを想定しながらわれわれの強みを発揮して、ひとつずつ戦うしかない」
唯一のメダルとなる銅を獲得した1968年メキシコ大会を最後に、28年間も空白が続いた日本サッカーの五輪史は1996年アトランタ大会から再開。自国開催だった前回東京大会まで7大会連続で出場し、その後に多くの選手がA代表へ旅立っている。
育成年代の最後の舞台となる五輪出場をパリ大会を経て未来へ繋げられるのかどうか。かつてない危機感を抱きながら、各所属クラブで今週末のリーグを戦い終えた選手たちはモードを切り替え、運命の地であるカタールの首都ドーハに入る。
(文責・藤江直人/スポーツライター)