毎年発表される『Asia's 50 Best Bars』、その最新(2023年版)ランキングで8軒のバーがランクインした香港。近年、香港のバーシーンは中環(セントラル)エリアを中心に盛り上がりが著しく、趣向を凝らしたコンセプトのバーが次々と誕生している。元『地球の歩き方』編集部の香港担当で、香港に行くたびバー巡りを行うトラベルエディターが、今香港で行くべきおすすめのバーを紹介する。
香港島の中環、特に大館とPMQに挟まれたエリアが香港で一番バーが密集するエリア。ここは数mおきに店が軒を連ねていると言っても過言でなく、人気店は平日の夜からトレンドに敏感な香港人たちでにぎわっている。香港は治安がよく(2019年に発生したデモの影響を心配する人もいるが、今はまったく問題ない)、夜間に出歩いていても身の危険を感じたことは一度もない。そんな安心感もあって、バーを訪れるたびにもう一軒、もう一軒とバーホッピングしたくなってしまう魔力がある。今回、まずはおすすめしたいのは2024年1月に中環にオープンしたばかりの『Kinsman(キンスマン)』。
   


香港の映画監督ウォン・カーウァイの『花様年華』(2000年公開)の世界観にインスピレーションを受けたというレトロポップな内装。バーカウンター奥のウォールアートは1950年代のノスタルジックな香港を描写しており、私が来店した際にBGMでかかっていた日本のシティポップが妙にマッチしていた。『Kinsman』の共同オーナーのひとり、Gavin Yeung氏は雑誌『タトラー・ダイニング香港』のシニア・エディターを務めており、香港のダイニングやバーシーンをこよなく愛する人物だ。
   


『Kinsman』のこだわりは、カクテルのリキュールにある。初めて訪れたのであれば、まず木瓜(ぼけ)の実から作られた薬膳酒の一種である木瓜酒や、米から作られた白酒に豚肉を漬けた玉冰燒など、地元の蒸留酒をベースにしたカクテルにトライしてみてほしい。写真上の『Papaya Van Winkle(HK $128)』はオレンジ色のラベルの木瓜酒に、健康によいローゼルを使ったリキュールとN.I.Pのクラフトジン(どちらもメイド・イン・香港)をブレンド。そこにトマトや生姜、シロキクラゲの旨味を追加した、独創性の高い一杯に仕上がっている。
   


こちらの写真上は『Milk & Honey(HK$128)』。白のラベルの玉冰燒に自家製のミルクリキュール、パイナップルラム、ライチ・ハニーが加わった爽やかな一杯。グラスにソフトキャンディのミルキーが添えられており、口内で濃厚なミルクの風味が広がる中でカクテルを流し込むと味の変化が楽しめる。旅先で飲むことの多い私は、その店のオリジナルカクテルこそ一期一会であると思っているが、『Kinsman』はまさに香港でしか飲めないカクテルを提供してくれるバーと言えるだろう。
   


続いて紹介するのは、〈Kinsman〉から徒歩2分ほどの場所に位置する『The Savory Project(ザ・セイボリー・プロジェクト)』。こちらは冒頭紹介した『Asia's 50 Best Bars』で目下3年連続1位に輝いている『COA』の姉妹店にあたる。20235月にオープンしたばかりだが、既に連日多くの客でにぎわう大人気店だ。予約は受け付けていないため、空いている時間を狙ってウォークインで入るしかない(1軒目に紹介した〈Kinsman〉も同様)。平日でも2122時頃はかなり混んでいるので、ハシゴするにしても早めの時間に訪れるほうがいいかもしれない。
   


写真上のクリスティーナは、こちらがオープンするまでは『COA』で活躍していたバーテンダーだ。彼女が作るカクテル、『SHIITAKE BAMBOO』、『GARI GARI』、『MISO COFFEE BOULEVARDIER』などは、おそらく多くの人にとって従来のカクテルのイメージと大きくかけ離れていることだろう。『The Savory Project』はその店名のとおり、近年トレンドになっているセイボリーカクテル(甘さや果実味を抑え、旨味が感じられるカクテル)に特化したバーだ。椎茸や寿司のガリ(生姜)、ポン酢、味噌などを副材料にしてどんなカクテルが味わえるのか、期待が膨らむ。
   

オーダーに悩んだら、店で一番人気の『THAI BEEF SALAD(HK$120+10%チャージ)』をまずは頼んでみよう。タイ風サラダをイメージして作られたというカクテルはラムをベースに、ビーフやココナッツ、ピーナッツ、チリ、カフィアライムなど、複雑な余韻が口内に広がる不思議な味わい。グラスの上に添えられたスパイシーなアンガス牛のジャーキーがさらに味覚をプラスし、病みつきになる一杯。アジア最高峰のカクテルバー『COA』が挑戦する新しい“プロジェクト”に、是非いち早く参加してみていただきたい。
   


九龍半島側でもおすすめのバーを一軒紹介しよう。独立型のバーが多い香港島側と違って、こちらサイドで飲みたくなったらホテル内のバーを活用するのがよい。『Terrible Baby(テリブル・ベイビー)』は佐敦(ジョーダン)駅からほど近く、ネイザインロード沿いに面したホテル『Eaton HK』の4階に位置するバー。ホテル内のバーと言ってもかしこまった雰囲気はなく、ルーフトップになったテラスは夜風が心地よく開放感抜群だ。またバーカウンターやその前のシートに座れば頭上をシースルーエレベーターが絶え間なく行き交い、SF映画の世界のような気分になれる。金土は生演奏やDJプレイも入り、盛り上がりを見せる。
   


シグネチャーカクテルは全部で9種類。写真左の『LOVE POTIONHK $95)』はラベンダーがほのかに香るドライジンに、ストロベリーとドラゴンフルーツ、ハチミツ、シトラスをミックスしたフローラルなカクテル。写真右の『THE BOY & THE SEAHK95)』はロンドン・ドライ・ジンに洋梨のリキュール、サジー、バジル、ハチミツでできたカクテル。フルーティーな味覚の中にもハーブの爽やかさが感じられる一杯だ。先に紹介した『Kinsman』や『The Savory Project』と比べると、ここは王道のカクテルメニューがラインナップしている印象。ただしホテルのバーにしてはリーズナブルなので、その点でも積極的に推せる。
   


テラスに出れば、ネイザンロードの夜景が香港にいる実感を満たしてくれる『Terrible Baby』。ちなみにここは日中14時からオープンしており、しかも日〜木曜の14〜19時はハッピーアワーメニューを提供してくれているのが嬉しいポイント。上記の時間ではカクテルやハウスワイン、ビールなどがHK$68でいただける。テンプルストリートのナイトマーケットや油麻地の天后廟などの観光ついでにちょっと一杯、なんて使い方もおすすめだ。
ほかにもルーフトップバーや看板のないスピークイージーなど、バー巡りだけでも一冊のガイドブックが作れてしまうほど魅力的なバーが多い香港。観光を終え、ホテルに戻る前にちょっとバーで一杯が楽しめると、ますます香港が好きになることだろう。ただしいくら治安がいいとはいえ、飲み過ぎにはくれぐれもご注意を!
※取材協力:香港政府観光局
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INFORMATION

●Kinsman
住所:65 Peel St, Central, Hong Kong
営業時間:17:00〜24:00(金土は〜25:00)
定休日:なし
URL: https://www.instagram.com/kinsman.hk/
●The Savory Project
住所:4 Staunton St, Central, Hong Kong
営業時間:17:00〜25:00(日は〜24:00)
定休日:月曜
URL: https://thesavoryproject.com/
●Terrible Baby(Eaton HK内)
住所:4/F, Eaton HK, 380 Nathan Rd, Jordan, Hong Kong
営業時間:14:00〜24:00(金土は〜26:00)
定休日:なし
URL: https://www.terriblebaby.com/
Hotel URL:https://www.eatonworkshop.com/en-us/hong-kong/


文・写真=伊澤慶一 text・photo : Keiichi Izawa
トラベルエディター
旅行ガイドブック『地球の歩き方』編集部にて国内外のガイドブックを多数手がけ、2017年に独立。現在は、〈パパ目線での旅育〉や〈ホテルステイ〉をテーマに連載を執筆。また雑誌の旅行特集からオウンドメディアの動画まで、幅広く旅行コンテンツの制作を行う。著書に『最高のハワイの過ごし方』。