『この世は戦う価値がある』こだまはつみ/小学館

 血をぬぐう女性の力強いまなざし。その瞳に込められているのは怒りか、それとも覚悟だろうか―。

 OLの伊東紀理(きり)は、会社や恋人からのハラスメントに悩まされ、仕事もうまくいかない日々。「他人の役に立ちたい」という思いから尽くし続けていたが、心身ともにボロボロの状態だった。やがて限界を迎えた彼女は自宅で死ぬことを決意し、郵便物を整理していたときに「臓器提供意思表示カード」を見つける。

 1枚のカードがきっかけで“好きに生きる権利”を手に入れた紀理は、長かった髪をバッサリと切り、燃える炎のようなオレンジの髪色に。トラが施されたスカジャンに身を包み、暗かった性格も一変した。手始めに嫌がらせを受けてきた会社や恋人と決着をつけた後、バット片手に夜の町で一人踊る姿はすがすがしい。しかしまだ彼女の思い残したことはたくさんあるようだ。こうして人生の総決算が幕を明けた。

 「我慢してたことはやり返すし、返せないままのものはきっちり返す。奪われたものはとり返す」。そう話す紀理が、心残りを全て消化した後に見るものは何なのか。どんな結末になるのか予想がつかない。

 表紙に描かれたわれわれを見つめる瞳は、生き生きしているようにも見える。きっと「好きに生きる」と決めたからだろう。自らの気持ちに正直に生きようとする姿は爽快で、応援したくなる。(小学館/715円)

(コンテンツ部・池田知恵)