埼玉県の塙保己一賞受賞者で全盲の日本語教師、青木陽子さん(62)=さいたま市見沼区=がモデルのミュージカル「赤いハートと蒼い月」が5月17日から、富士見市民文化会館キラリ☆ふじみで上演される。青木さんは単身中国に渡り、視覚障害者のための無料の日本語学校を開き、多くの人材を育てた先駆者。「ハンディのある障害者でも、夢は諦めなければきっとかなう。人間成長のドラマです」と語る。

■頑張る人への応援歌

 「赤いハートと蒼い月」は、青木さんの生き方に共感した映画監督、瀬藤祝さんが2004年に制作した。瀬藤監督は教育映画界の巨匠。宮崎駿さんのアニメ「魔女の宅急便」の企画者。脚本はカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作「うなぎ」の冨川元文さんが、青木さんや中国人生徒に取材して書き下ろした。夢や目標に向かって頑張る人への応援歌が心に響く。

 初演は04年9月、志木市民会館で披露された。大阪の劇団往来が06年から関西地方で公演を始めたが、その後瀬藤監督が他界したこともあり、県内では上演される機会がなかった。

 今回は瀬藤監督の長男瀬藤幹さんが「父の遺志を引き継ぎ、ミュージカル作品を中心に新たな舞台を創造したい」と決意。昨年3月、自らが社長を務める「グループ風土舎」に演劇制作部を新設。父が情熱を傾けたミュージカルが、青木さんの地元で20年ぶりに再演されることになった。

■挫折と成長を描く

 物語の舞台は天津の下町。主人公の鈴木耀子は、同じ視覚障害者の中国人を自宅に集めて日本語を教えていた。夢は日本語学校をつくること。日本の友人に手伝ってもらいながら支援者を探していた。

 そんな時、市民合唱コンクールに優勝すれば設立資金を援助するという人が現れる。歌が好きで、歌を使って日本語を教えている耀子は生徒たちとコンクールの出場を決意する。意気揚々とレッスンを始めた耀子だが、いざとなると高くて厚い壁が次々と立ちはだかる。メンバーの不足、歌唱力、有力メンバーの突然のボイコット…。

 悪戦苦闘の連続だが、めげることなく日本語学校設立という目標に向かって奮闘する耀子と、その周りの人たちの挫折と成長を描いた、事実に基づく夢と情熱のドラマだ。
 
■豪華な出演者彩る

 豪華な出演者が舞台を彩る。耀子役の能條愛未さんは乃木坂46の元メンバー。「人並みの夢はない方がいい。暗闇の中に見えるのはむなしい涙だけ」と弱音を吐く実在の全盲女性、郭小麗役の北翔海莉さんは元宝塚星組のトップスター。元OSK日本歌劇団トップスターの高世麻央さんとの共演も見逃せない。さいたま市大宮区在住の井田國彦さん、加藤義宗さん、小出恵介さんらも出演する。

 瀬藤幹さんが代表を務めるジャパンコーポレーション(富士見市)制作。演出は劇団往来代表の鈴木健之亮さん。作曲は瀬藤幹さん。

 19日までの5回公演(17日午後6時45分、18日午後1時と午後6時、19日午前11時と午後4時開演)。

 全席指定。SS席9千円、S席8千円、A席7千円、B席5500円。問い合わせは、グループ風土舎(電話03・6261・0066)へ。



あおき・ようこ アジア視覚障害者教育協会会長。県立盲学校(現特別支援学校塙保己一学園)、筑波大付属盲学校、南山大を経て、米ニューヨーク州立大バッファロー校修士課程修了。2009年塙保己一賞。10年外務大臣表彰。