昔ながらの個人商店と、新しい感覚を持つ若手が共存し、街を形成している千歳烏山。 一方、芦花公園駅周辺にはより色濃く昭和の空気が残り、どこか懐かしくて和むなあ。

ある意味、千歳烏山名物とも言える開かずの踏切。
ある意味、千歳烏山名物とも言える開かずの踏切。
関東大震災後、浅草や築地などから寺院が移転してきて、烏山寺町を形成した。
関東大震災後、浅草や築地などから寺院が移転してきて、烏山寺町を形成した。

懐かしさの中に若い息吹が溶け込む

ちょっとした玩具も揃う昔ながらの文具店に近所の子供たちが集まる。
ちょっとした玩具も揃う昔ながらの文具店に近所の子供たちが集まる。

千歳烏山駅をまたいで、南北に延びる商店街。休日の昼下がり、歩行者天国にはたくさんの人があふれ、どこもかしこも活気に満ちていた。地域密着型の文具店では軒先にちょっとした玩具を並べていて、子供が親におねだり。そんな光景に、なんだか懐かしさを覚えた。

『増穂湯』の「つるつるの湯」は都内でも珍しい軟水。地下水をくみ上げ、上質な塩を大量に加えることで軟水にしているとか。肌がツルツルに。
『増穂湯』の「つるつるの湯」は都内でも珍しい軟水。地下水をくみ上げ、上質な塩を大量に加えることで軟水にしているとか。肌がツルツルに。

ジャズ喫茶『RAGTIME』の天川純子さんは、元々は常連客だったそう。「40年くらい前、この近くに下宿していたんです。メインの通りは新しくなったけれど、少し路地に入ると昔のままの景色が残っています」と思い返す。銭湯帰りによく立ち寄っていたそうで、当時の目当ては「ジャズではなくて、お風呂上がりのビール(笑)」。そのうちジャズも好きになりオーナーと結婚。今では息子と共に店を切り盛りする。

烏山川は暗渠化され、緑道として整備されている。
烏山川は暗渠化され、緑道として整備されている。
千歳烏山駅から南東へたどって蘆花恒春園へ。
千歳烏山駅から南東へたどって蘆花恒春園へ。

1947年創業の『精肉柳屋』は現在3代目。栁晃正さんは産地にも足を運び、「本当にいい肉だけ」を仕入れる。以前は千歳烏山駅付近にあった「三永ショッピングセンター」で先代と一緒に営んでいたが、老朽化のため取り壊され、2017年に現在地に移転リニューアル。ブティックのような洗練された店構えだが、横のつながりを大事にする商店街ならではの心意気は健在で、地元のマルシェに積極的に参加したり、近隣の飲食店とシャルキュトリを共同開発したりなどフットワークは軽い。

マンションに挟まれたアーケード街「丸美ストアー」。色濃く昭和の風情が残る。
マンションに挟まれたアーケード街「丸美ストアー」。色濃く昭和の風情が残る。

日暮れ時、旧甲州街道を歩いていたらレトロなアーケード街が見え、時空が歪(ゆが)んだかと錯覚。入り口には「丸美ストアー」の看板が掲げられ、奥でポツポツと明かりが灯(とも)り始めていた。その中の1軒、『37°2』に腰を落ち着け、ワインとデザートで本日の締め。「お向かいのスナックは昔からあるそうです。お客さんもみんな、長年通う常連さん」と店主の小林信子さんが教えてくれた。

ほろ酔いで店を出ると、スナックはカラオケで盛り上がっていて、上機嫌な歌声が漏れ聞こえてきた。それにつられて、つい鼻歌。そうか、夜はまだこれからだよね。

『精肉柳屋』圧倒的うまみの銘柄肉を厳選[千歳烏山]

ショーケースにはA5ランクの仙台牛がずらり。まるごと一頭買いしているので多様な部位を提供することができる。「切りたては肉感が格別」と3代目の栁晃正さん。旨味が詰まった揚げ物をテイクアウトし、我慢しきれず店先でパクリ。仙台牛メンチカツ320円。

・10:00〜18:30(土・祝は〜18:00)、日休
・☎03-3307-2857

『Cocorire(ココリール)〜米粉と小麦のベーカリー&スイーツ〜』住宅地で見つけた幸せの象徴[千歳烏山]

左上から時計回りに、米粉の4種のチーズプレミア350円、米粉のシフォンケーキ プレーン330円、米粉のミルククリームサンド220円、米粉のスパイス香る焼きカレーパン250円。
左上から時計回りに、米粉の4種のチーズプレミア350円、米粉のシフォンケーキ プレーン330円、米粉のミルククリームサンド220円、米粉のスパイス香る焼きカレーパン250円。

「米粉を中心にしながら配合を調整します」と店長。特有のモチモチ食感だけに頼らず、商品ごとに違いを出すため工夫を凝らす。米粉の4種のチーズプレミアは、チーズの塩気がパンの旨味を際立たせる。

・11:00〜18:30(日は〜17:30)、月と隔週木休
・☎03-5314-9110

『RAGGIO UN METRO(ラッジョ ウン メトロ)』でその日の気分に合う1本をセレクト[千歳烏山]

こぢんまりした店内に集められた、落ち着いたトーンの草花。個性的な品揃えからセレクトショップのような趣も感じられる。「珍しい花が欲しい人も、詳しくないのでおすすめを教えてほしいという人も歓迎」と、店主の清藤育子さん。1本から購入可。

・11:00〜19:00、不定休
・☎03-6279-5585

商店街で続く厚焼き玉子専門店『烏山 祖仁(そじん)』[千歳烏山]

1965年に初代がこの地で卵屋を開業。当時、近所の寿司屋から注文を受けたのが、厚焼き玉子を始めたきっかけだ。みりんと砂糖で甘めに味付けし、玉子焼き器で1つずつこんがりと焼き上げる。厚焼玉子(大)800円。

・10:30〜18:00、土・日・祝休
・☎03-3300-3876

急階段の先に潜むジャズ喫茶『RAGTIME(ラグタイム)』[千歳烏山]

ケーキセット800円。香ばしく焼き上げたバナナケーキは元スタッフの手作り。
ケーキセット800円。香ばしく焼き上げたバナナケーキは元スタッフの手作り。

膨大な枚数のレコードで埋められた壁面の棚に思わず目を見張る。「夫が買い集めたんです。2023年で創業45年になります」と、現在店を引き継いでいる天川純子さん。年代物のJBLスピーカーから流れる音は心地良く、臨場感たっぷり。

・15:00〜翌2:00、無休
・☎03-3309-1460

『イネマメ』駅横で香る自家焙煎コーヒー[芦花公園]

運が良ければ常連のひなこに会えるかも!
運が良ければ常連のひなこに会えるかも!

焙煎したてのコーヒー豆の香りがふわり。目当てはこの豆と、店主・高稲泰生さんとのおしゃべりだ。近所の犬も寄り道したがるほど、気さくな高稲さん。浅煎りから深煎りまで並んでいる中からおすすめを教えてもらおう。

・10:30〜19:30、火休(不定休あり)
・☎03-6279-5611

『ハバチャル』多彩なるアチャールの世界[千歳烏山]

アチャールは子持ちししゃも、マダコ、ブラッドオレンジ、砂肝など独創的。チキンカレーSサイズ690円と国産インディカ米Sサイズ220円。
アチャールは子持ちししゃも、マダコ、ブラッドオレンジ、砂肝など独創的。チキンカレーSサイズ690円と国産インディカ米Sサイズ220円。

自家製アチャール(夜メニュー)は13〜14種類と豊富で、どれも400円前後。これをアテに自家製のスパイス&ハーブ酒(680円〜)を飲むのが楽しい。ココットサイズで提供されるカレーで締めたい。

・11:30〜14:30LO・17:30〜22:30LO、月と火・水昼休
・☎03-5315-9498

『37°2(ナナドニブ)』でペアリングの妙に酔いしれる[芦花公園]

イートンメス1200円、ワイン700円〜。
イートンメス1200円、ワイン700円〜。
自家製ロースハム1200円〜。
自家製ロースハム1200円〜。
ウドとはるかのマリネ600円〜。
ウドとはるかのマリネ600円〜。

レトロな「丸美ストアー」にポッと明かりが灯る。ワインに合わせるのは「料理でもデザートでも、お好みで」と店主の小林信子さん。メレンゲにムースをのせたイートンメスは華やかさを増し、夢見心地に。

・18:00〜21:00LO(ドリンクは22:00LO)、日・月・火休
・☎03-6382-9272

取材・文=信藤舞子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2024年4月号より