「古い政治を一掃し、島根から日本の政治を変える」ー。28日に投開票された衆院島根1区補選で、立憲民主党元職の亀井亜紀子氏(58)は、開票開始直後の午後8時過ぎに当選確実の報を受け、松江市御手船場町の報告会場に姿を現すと、支持者約120人を前に「多くの方々の応援で勝ち抜くことができた。一丸となって戦うことができた結果だ」と感謝した。

 政権交代のムードが高まり、民主党を中心に野党に追い風が吹き、野党統一候補だった自身が自民候補を破った2007年参院選島根選挙区の再現を狙った。しかし、今回は派閥の政治資金パーティー裏金事件による自民への「逆風」は強く感じるものの、野党への「追い風」を感じるまでには至らず、明確な手応えはなかった。

 報道各社の情勢調査で先行する中、緩みも危惧し、最大の支援組織・連合島根を引き締め、無党派層の獲得に注力。告示前を含めて6度応援に入った泉健太代表ら国会議員が投票を呼びかけ、党幹部が「今回は自民におきゅうを据えよう」と訴え、与党支持者の切り崩しを図った。無党派層と一部の与党支持者を取り込み、自民の追い上げをかわした。

 中央政界の「代理戦争」となった戦いを終え、2年半ぶりの国政復帰となる。亀井氏は「保守王国での結果は大きなメッセージとなって岸田政権に届く。裏金事件など何に怒っているかをしっかり感じていただきたい」と強調。人口減少問題の解決に向け、公共交通の維持や、農林水産業の振興などに取り組む考えを示した。

 一方、自民は保守王国での議席死守に向けて党本部が総力戦を展開した。しかし、裏金事件の逆風は強く、最後まで地元との歯車がかみ合わなかった。

 午後8時過ぎ、自民新人の錦織功政氏(55)の落選確実の報が伝わると、松江市内のホテルの報告会場に集まった約200人の支持者からは落胆の声が漏れた。姿を見せた錦織氏は「私の非力によって当選できなかったことをおわび申し上げる」と頭を下げた。

 島根県連の公募を経て候補に選ばれ、党公認を得たのは今年1月下旬。知名度不足に加え、裏金事件の逆風を受け続けた。告示前から党の情勢調査などでリードを許す展開に危機感を強めた党本部は職員が松江市内の事務所に常駐し、東京の選挙プランナーも陣営入り。小渕優子選挙対策委員長が選挙区に張り付き、国会議員も企業や業界団体を回って支持固めに躍起になった。

 ただ、党本部主導の選挙戦に副作用も起きた。大物弁士の街頭演説などで支持者の「動員疲れ」が起き、地方議員からは「まとめ役がいない」との声が漏れた。終盤戦で支持者の多い松江市周辺部や中山間地域を中心に電話作戦を強化。選挙戦最終日の27日は党総裁の岸田文雄首相が応援に入り、「逆転の錦織だ」と結束を呼びかけたが、挽回できなかった。連立政権を組む公明党も推薦が告示前日にずれ込み、支持者の動きは鈍かった。

 今後の政治活動について聞かれた錦織氏は「古里への思いは変わらない。島根県連と相談し、今後のことは決めていきたい」と述べるにとどめた。