【ロンドン=緒方優子】国賓として英国を訪問中の天皇陛下は現地時間の24日午前、ロンドンを流れるテムズ川下流にある洪水を防ぐ治水施設「テムズバリア」を訪問された。陛下がライフワークとしている「水」の研究に関連したご視察。陛下は可動式のせきのコントロールエリアで説明を受けた後、青色のヘルメットを着用し、川にかかる施設の上に立って熱心にご覧になっていた。

これに先立ち、陛下は23日午後、日本文化の発信拠点となっている「ジャパン・ハウス ロンドン」を視察された。石川県の輪島塗の器や、日本の優れたデザインを集めた展覧会を鑑賞された。説明役の担当者によると、陛下は展示や、施設の担う役割に関心を示されていたという。

同日夕方には、陛下は宿泊先のホテルで在留邦人や日本とゆかりのある英国人らとご懇談。陛下がオックスフォード大留学中に交流のあった研究者と再会し、懐かしまれる場面もあった。皇后さまは25日からの国賓としての公式行事に備えて体調を整えるため、医師の判断でホテルで休まれた。

「水」の研究 お関わりの源流

天皇陛下は英留学中、テムズ川の水運史を研究されていた。人と「水」の関わりへの関心はその後、災害や気候変動など多様な分野に広がり、陛下は即位後も国際会合での講演などを通じて研究を深化させられている。研究を支える関係者は、「テムズは、陛下と水との学問的なお関わりの源流」とみる。

「私も皆さんと一緒に、水についての関心を持ち続けていきたいと思います」

先月21日、インドネシアで開催された第10回世界水フォーラムでのビデオによるご講演。陛下は皇太子時代、平成15年に京都市で行われた第3回のフォーラムの名誉総裁を務めて以降、毎回のように講演を重ねられてきた。水信仰の歴史から、SDGs(持続可能な開発目標)まで幅広い陛下の「水」のお取り組みは、海外の要人と面会した際には必ず話題に上るほど、国際的に認知されている。そのきっかけが、日英で取り組まれた水運の研究だった。

陛下は著書「テムズとともに」で、研究に取り組んだ経緯を明かされている。幼少期、赤坂御用地を散策中に「奥州街道」の標識を見つけ、「道」に興味を抱かれたこと。大学では、海の「道」である中世の海上交通を学ばれたこと。こうした経験から、英国でも水運史をテーマとし、オックスフォードも流れるテムズ川を研究対象にされたという。

「いつの日か再びテムズを間近に眺め、テムズとともに過ごした青春の日々を回顧できたら」。著書には、こうもつづられていた。

今回、ご視察先に盛り込まれたテムズバリアは、過去の大洪水を教訓に建設された世界最高水準の洪水防止システムで、開通式には、英女王エリザベス2世も臨席した。地域を高潮から守ってきたが、気候変動による海面上昇への対応も課題となっている。

陛下の研究を支える広木謙三・政策研究大学院大教授は、水運史から世界の水問題へと研究対象を広げられている陛下には「非常に興味深い施設ではないか」とした上で、「テムズ川の再訪を通じて原点に立ち戻り、水の研究家としてこれまでのお歩みを振り返られる意味でも、大変良い機会になるのでは」と話している。