衆院憲法審査会の議論が煮詰まっていることを受け、自民党は早期の憲法改正を目指す構えだ。ただ、肝心の改憲案作りは進んでおらず、岸田文雄首相(自民総裁)が目標に掲げる「今年秋までの改憲」や、令和6年運動方針で示した「年内の実現」はいずれも困難視されている。通常国会に改憲案を提出して望みをつなぐ計画も浮上しているが、「参院の壁」を越えられるかが焦点となる。

立民反発、起草委員会設置見通せず

「連休明けには作業をしていかないと、(首相の目標を)フォローできない。スピード感を持ってやっていくということだ」。自民憲法改正実現本部の古屋圭司本部長は4月26日の記者会見で、憲法審が担う改憲案取りまとめに期待を示した。

しかし、党内や支持層に護憲派を抱える立憲民主党の反発で、自民が呼びかけている改憲案の起草委員会の設置は見通せていない。その立民は護憲を掲げる共産党と共闘した4月末の衆院3補欠選挙を制しており、今後は憲法改正の動きに抵抗を強める公算が大きい。

「憲法改正の発議をした日から起算して60日以後180日以内において、国会の議決した期日に国民投票が行われる」。この原則と野党第一党の姿勢を踏まえ、首相や自民運動方針が示した目標の達成は困難との見方が広がっている。

改憲案「国会に出すだけでも異例」

こうした中、自民内で浮上しているのが、改憲案をこの通常国会に提出するという計画だ。

「憲法改正案は憲法審に付託されれば閉会後は継続審議の扱いとなり、廃案にならない。採決には至らないかもしれないが、改憲案を国会に出すだけでも異例だ。審議入りもあり得る」(関係者)。立民に対して「改憲案の提出や議論ですら拒むことは民主主義の否定だ」と攻勢をかける狙いも透ける。

ただ、改憲案を提出するには高い壁を越えなければならない。

衆院憲法審では自民や公明党、日本維新の会、国民民主党が、選挙困難時に国会議員の任期延長を可能にする憲法改正などの必要性を共有。提出は難しくないとされる。

護憲勢力が比較的強い参院

これに対して参院憲法審では護憲勢力の数が比較的多い。実際、憲法改正の議論は進んでおらず、緊急時の国会機能維持に関しても現行憲法に盛り込まれている「参院の緊急集会」で対応可能との声が根強い。

「憲法改正について、実は衆参の自民の間で認識が一致していない」。自民幹部はこう内情を明かした上で、「参院で与党は衆院ほどの力を持っていない。政治資金規正法改正など他の重要案件で協力を得る代わりに、憲法については立民の意向をくんでしまいかねない」と漏らす。

衆院側が改憲案を提出したくても、立民の反発を懸念する参院側に止められる可能性は否定できず、首相の判断に委ねられる展開も予想される。(内藤慎二)