【ブラジリア=田中一世】岸田文雄首相は3日(日本時間同日)のルラ大統領との首脳会談で、日本とブラジルは重要なパートナーだと強調し、ルラ氏が重視する脱炭素分野などで歩調を合わせる姿勢を示す。「グローバルサウス」(新興・途上国)の大国でもある中南米の雄を引き寄せる狙いがある。

ロシアのウクライナ侵攻や中国の海洋進出などで国際秩序が揺らぐ中、日本や米国などの先進7カ国(G7)と、権威主義国家の中露のどちらにも属さないグローバルサウスの動向がカギを握る。ルラ氏はG7や中露、新興・途上国が集う11月の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で議長を務める。

ルラ氏は気候変動問題に熱心で、G20サミットの優先課題に掲げている。首相が会談で立ち上げを決める脱炭素に関する包括的な協力の枠組みも「ルラ氏に寄り添い、日本とブラジルで連携していきたいという気持ち」(外務省幹部)の表れだ。バイオエタノールと日本の環境技術を組み合わせた協力は、世界有数のバイオエタノール生産国のブラジルの利益につながるだけでなく、EV(電気自動車)で中国などに出遅れている日本が自動車市場で主導権を取り戻す好機にもなる。

経済関係の強化は日本の安全保障にとって重要だ。中南米はかつて米国の影響が強く「米国の裏庭」と呼ばれたが、近年は中国が経済進出し、影響力を強めている。中国と中南米の年間貿易額は約20年で40倍程度に増加。2017年以降、パナマなど5カ国が相次いで台湾と断交し、中国と外交関係を結んだ。

日本政府は新興・途上国への中国の攻勢に危機感を抱く。投資・貿易規模では中国に劣るため、得意な人材育成や技術協力を通じて関係の深化を図る。

ブラジルは中国やロシアが主導権を握る新興国の集まり「BRICS」の主要メンバー。同時に約270万人の日系人を抱える友好国でもある。

G20サミットで「法の支配」の重要性を確認したい首相は、議長のルラ氏に期待している。外務省幹部は「中露とも話ができ、日本とのつながりも深い。政策で歩調を合わせて関係を深め、G20サミットの成果につなげたい」と語る。