(セ・リーグ、ヤクルト6−5阪神、11回戦、阪神6勝5敗、30日、神宮)チームメートが、ファンが、誰もが希望を抱く打球が左翼手を越えてフェンスにはね返る。阪神・佐藤輝明内野手(25)は二塁に到達し、頭から本塁に突っ込む植田を見守った。アウトが宣告され、無念さに口をゆがめる。3本の二塁打で特大の存在感を示すも勝ちには届かず。ヘルメットを脱ぎ、二塁ベース付近で雨に打たれながら悔しさをかみしめた。

「できることはやったので」

会心の当たりだった。4点差をひっくり返され5―6で迎えた九回。1死から前川が四球で出塁し、すぐさま代走・植田が登場。佐藤輝は田口のスライダーを捉え、左越えの二塁打。今季初の猛打賞となる一打で同点の夢を一瞬見せたが、生還を試みた植田は本塁でアウトとなり、白星はつかめなかった。

持ち味を存分に発揮した。六回2死からサイスニードの151キロ直球を捉えて右中間のフェンス直撃の二塁打。八回も先頭で木沢から右翼線へ二塁打を放ち、今季初の〝マルチ長打〟を放った。

「球場にも助けられながら、感覚はよかったと思います」

糸原の当たりが一塁手の失策となって佐藤輝が5点目のホームを踏み、この時点では4点差。勝負ありかと思われたが…。まさかの逆転を許し、自らのバットでチームを救うことはできなかった。

投打がかみ合わずに敗れ、岡田監督も「打線は(当たりが)出てきてるよ。やっとちょっと反発力がでてきたのに」と嘆いた。だが、佐藤輝は今季最長の6試合連続安打で、直近5試合は打率・474(19打数9安打)、4打点だ。自己ワーストの118打席ノーアーチこそ更新中だが夏本番を前に調子を上げてきた。梅雨の神宮上空を覆った分厚い雲のように、チームを覆う空気もジメッと重たい。それでも、佐藤輝のバットだけは乾いた快音を連発している。その視線はすでに、2日からの首位広島との3連戦(マツダ)に向いていた。

「また火曜日から頑張ります」

よみがえった佐藤輝のバットで、すべてを振り払うしかない。(邨田直人)