農業用ため池の決壊が相次いだ2018年の西日本豪雨を踏まえ、池の水かさを24時間観測して遠隔で把握できる「ため池監視システム」を導入する動きが岡山県内の自治体で広がりつつある。防災意識の向上に加え、ため池を管理する農家の高齢化による負担増が背景にあるとみられ、3月末時点で5市町が計31カ所で整備した。県はさらに導入を促そうと、国補助の周知やメリットのPRを強化しているが、管理コストがネックとなって二の足を踏む自治体もある。

 県内には全国で4番目に多い9千カ所を超える農業用ため池があり、西日本豪雨では230カ所が破損、うち4カ所が決壊している。自然災害で決壊すれば人的被害が生じる恐れがある「防災重点農業用ため池」は4月1日時点で4012カ所に上っており、対応が急務となっている。

 県によると、ため池の水位確認は管理者の目視に頼っており、作業は重労働な上、大雨や地震の際は危険が伴う。近年は農家の高齢化や担い手不足が深刻化。1人が複数や遠方の池を担当するケースも目立ち、緊急時の情報伝達に時間を要しているのが実情だ。監視システムは水位計の計測データや監視カメラの画像がサーバーに転送され、管理者や自治体担当者が水位の変化をスマートフォンでリアルタイムに把握、放流量の調節や避難指示がスムーズに行えるという。

 システムを巡っては農林水産省が19年度から、自治体がため池に水位計を新設する費用を全額補助。県内では20年度以降、西日本豪雨で甚大な被害に見舞われた倉敷市の19カ所をはじめ、赤磐市5カ所、備前市と和気町各3カ所、勝央町1カ所で整備された。

 このうち倉敷市は氾濫時の被害程度を勘案し、大規模住宅地そばなどのため池から優先的に導入。観測結果は誰でも閲覧可能な専用サイト「おかやまオープンデータカタログ」で公開している。市耕地水路課は「西日本豪雨以降、多様な避難情報を市民に伝えられるよう努めているが、避難のタイミングに関する情報は命に直結するだけに、監視システム導入の意義は大きい」と指摘する。

 一方、導入後のランニングコストがかさむとして導入に踏み切れない自治体も少なくない。ある市の担当者は「設置後の通信や点検にかかる費用は自治体の負担で、膨大な数のため池を全てカバーすることはできない。どの池に整備するかの絞り込みも困難だ」と打ち明ける。

 県はさらなる普及に向けて2月、市町村の担当者を対象にシステムの説明会を初めて開催。防災上のメリットと国の整備費補助の周知に力を入れる構えだ。県耕地課は「維持管理の費用に対する補助を国に要望するなどし、各市町村が導入しやすい環境を整えたい」としている。