福岡県筑後市は、九州で唯一、ホタルの発生地として国の天然記念物に指定されている矢部川沿いの「船小屋ゲンジボタル発生地」の再生事業に取り組んでいる。かつて指定地は「川面がホタルに埋められていた」と伝えられるほどだったが、現在は飛来シーズンに数匹が見られる程度まで減少した。関係者らは「天然記念物であることを市民に知ってもらい、ふるさとの誇りに感じてもらえるよう再生の機運を高めていきたい」としている。

護岸改修で環境変化

 ホタル発生地として国の天然記念物に指定されているのは、滋賀、宮城、愛知、徳島、山口など全国に9か所だけ。船小屋ゲンジボタル発生地は、筑後、みやま両市の船小屋温泉郷付近の矢部川両岸約2.4キロで、1941年に指定された。

 筑後市によると、当時、矢部川のような大河の中流でホタルの乱舞が見られる場所は全国でも珍しく、大正3年(1914年)の新聞には「その数の多いこと、川面一帯がホタルに埋められていたと言っていいくらい。その美観壮観、銀河地上に映るのが奇観」と記されているという。

 しかし、53年の豪雨被害を機に矢部川の護岸改修などで生息環境が変化し、ホタルは減少した。両市は学識経験者による保護指導委員会を設け、文化庁の補助を受けて2015〜18年度に生息環境調査を実施。治水対策で川底を掘削したことで水の流れが速くなり、幼虫や餌のカワニナが生息できる場所が少なくなっていることがわかった。

 筑後市は19年度から、同委員会と連携し、ホタル再生事業に着手。繁殖が進むように護岸などを整備することや、指定地外の矢部川水系で取ったホタルから採卵し、人工的に増やすことなどが考えられるとした。

地域活性化にも期待

 新型コロナウイルスの影響などで、委員会の開催は19年度以降の5年間で3回にとどまったが、同市は「市民の目に見える形で、ホタルが生息できる環境の保全と再生の取り組みへの理解を広めたい」として、矢部川の支流で取ったホタルから採卵。市の図書館や公民館が入る「サンコア」1階ロビーに、水草やカワニナなどを入れたケースを置いて人工飼育の様子が分かるようにし、再生事業やホタルの生態に関するパネルを掲示している。

 現在は、昨年採取したホタルの卵からかえった幼虫が成長しており、5月中にも羽化する見通しだ。

 他にも同市は、育てた幼虫を市内の幼稚園に提供したり、観光施設でホタルを展示したりしている。より具体的な取り組みを進めるため、今秋にも再生計画案を委員会に示して承認を得たい考えだ。

 同市社会教育課文化・文化財担当の上村英士係長は「多くの市民が船小屋のホタルが天然記念物だということを知らないのが現状。ホタルの保護を進め、将来的には生息地整備と人工飼育の両方を展開できればと考えている」と話す。

 船小屋温泉郷の魅力発信に取り組む陶芸家の安西司さん(56)は「ホタルは昔から温泉郷のシンボルだった。たくさんのホタルが飛び交うようになれば自然の豊かさをアピールすることができ、新たな地域活性化の取り組みにもつながるだろう」と夢を膨らませている。