5月8日、国内のホビーメーカーなどが新商品を発表する国内最大級の模型の見本市「静岡ホビーショー」が静岡市駿河区のツインメッセ静岡で開幕しました(会期:5月8日〜5月12日)。62回目となる2024年は、過去最多となる約100社が出展。初日から多くのバイヤーで賑わいました。

業者招待日となっている1日目、恒例となっているのがホビーショーを主催する静岡模型教材協同組合の田宮俊作理事長(タミヤ会長兼社長)のメディア向けインタビューです。1934年生まれの田宮俊作理事長は今年で89歳となりますが、今年も力強い言葉でホビー業界の置かれている状況や今後の展望について語りました。

歴史的な円安「国内市場はやっぱり苦しい」

去年までの数年間は新型コロナの影響がメディア関係者の大きな関心事になっていましたが、コロナ禍をほぼ脱した今年のホビーショーで記者から飛び交ったのは、歴史的な円安に関する質問でした。

タミヤブースの脇で報道陣のインタビューに応える田宮理事長

Q.歴史的な円安ですが、業界への影響は?
<静岡模型教材協同組合 田宮俊作理事長>
「輸出と外国の商品はドルベースですから、絶対的に日本の方が安い。品質が良くて安いからいいでしょ。だけど日本国内の市場はやっぱり円安というのは非常に苦しいですね。特に中小企業の場合は大変ですよ。日銀の総裁が変わったから少しマシになるかと思ったら相変わらず悪いですね」

「あまりにも円安過ぎる」影響しないはずがない

インタビューに先立って別室で行われた合同記者会見。こちらでも円安に関する質問が目立った

Q.円安は模型業界にとってプラスですか?マイナスですか?
<田宮俊作理事長>
「当然マイナスです。ただ、コロナは我々業界には向かい風ではなかった。逆にフォローウインドウですね。ただ、今から生活が苦しくなってくる。模型業界はみんな中小企業ですから影響しないはずがない。だから、いい加減にこの円安の傾向を止めてもらいたい」

Q.業界にマイナスになったのは国内の人たちの財布の紐が堅いということ?
<田宮俊作理事長>
「堅いなったでしょうね、当然。円安だから模型を買ってくれるっていう簡単な気持ちは言いません。だけど、あまりにも円安過ぎる。そういうことです」

対策はそれぞれの会社で タミヤはフィリピンに新工場

タミヤブースでは2023年に竣工したフィリピンの新工場の紹介も

Q.このピンチを模型業界としてはどうやって切り開いていく?
<田宮俊作理事長>
「これは同業他社がそれぞれの方法でやっています。タミヤがフィリピンに去年10月にオープンした工場は夜500人、昼間500人がフル稼働できます。日本ではできないですね、夜500人がフル稼働。そういうそれぞれの対策を練ってやってますから。うちの場合は構いません。だけど、円安じゃない方がまだ良いということですね」

タミヤは2023年10月にフィリピンにある製造子会社「タミヤフィリピン」の新工場をセブ州に稼働させました。ホビーショーの会場ではこの新工場の説明パネルとともに、新工場の模型も展示されています。円安というより、今後のグローバルな展開をにらんだ中、製品の安定供給を確保する上で重要な新工場です。

川勝知事が残した“レガシー”子どもたちの招待日「自分の手を使ってモノを作るクセを」

Q.子どもたちに向けたワークショップの実施はどういう意図がある?
<田宮俊作理事長>
「学童の日(小中高生招待日)をこの間お辞めになった川勝県知事が決めてくれましたけど、我々、盲点を突かれました。静岡の子どもが模型をもっと作っていると思ったら作っていなかったですね。自分の手を使って物を作る。そういうクセをつけてもらいたい」

業者で賑わう1日目の北館。3日目の「小中高生招待日」には子どもたちでいっぱいになる

Q.手でモノを作ると子どもたちの何が変わりますか?
<田宮俊作理事長>
「1回見てください。自分で作った模型が走り出した感激はみなさんに分からない。僕は戦争が終わった時に小学5年生。(モーターを素材から)自分で作って乾電池につないでふって動いた時、すごく満足した。この年になっても忘れられません。そこなんですよ。自分の手で作るってこと」

静岡県の川勝平太知事(5月9日をもって退任)のアイデアで始まったホビーショー会期中の「小中高生招待日」。静岡県内の子どもたちを招待し、プラモデルの製作体験などを通じて、地場産業であるプラモデルについて理解を深めてもらう機会になっています。

ここまで来るのに65年かかった「まだしっかりやりますよ」

Q.海外の市場がこれから広がっていく可能性というのは感じていますか?
<田宮俊作理事長>
「広がってますよ。ただ、メーカーによってそれぞれ。僕は31歳でアメリカに出て、十数年毎年ですね、1月20日に出て帰ってくるのは3月。海外で色々勉強してたんです。それで出た結論は“日本という国は小さい”。もう1つ問題なことは“日本の人たちの考えることも小さい”。これが一番感じたことです」

SBSの質問に応じる田宮理事長

「日本のことを日本で考えちゃダメ。海外から見て考える。それで海外の人がここへ来てもらうためにやってきた。ここまで来るのに65年かかった。もう僕が89歳になってしまった。うん、まだしっかりやりますよ!よろしくお願いします」

来年開催時は90歳 “生涯現役”の田宮理事長

業界を引っ張ってきた田宮理事長の後ろ姿

2023年は椅子に座って記者の質問に答えていた田宮理事長でしたが、2024は立ち姿で15分ほどのインタビューに応じました。記者の質問に時には、舌鋒鋭く「俊作節」で答え、89歳になってもそのパワーは衰えるどころか、さらに増しているようにさえ感じられます。

SBSからの質問を「まだしっかりやりますよ!」という頼もしい言葉で締め括った田宮理事長。プラモデル界のレジェンドは、これからも静岡、そして日本・世界のホビー業界を牽引していきます。