滋賀県守山市立守山南中学校の新3年生(11クラス、381人)のクラス編成が保護者の指摘で「差し戻し」になり、新学期のスタートが遅れた問題は、全国の教育現場が騒然となった。現職教師の誰もが「聞いたことない」と首を傾げる異常事態といえるが、そもそも学級編成とはどのような手順で進み、決まるのか。そこに「特別な配慮」は存在するのか。複数の現場の教師(経験者含む)に内情を聞いてみた。

ピアノができる子、字が上手な子も均等に…

埼玉県内の公立小学校女性教師Aさん(35)はこれまで県内の3つの小学校で教師をしてきたが、クラス替えは「学年主任が中心となって行われてきました」と話す。

「仮に、1学年3クラスの学校なら、自分が担当していたクラスの子をまずは3分割します。分割の仕方としてはまず、男女それぞれの一番学力の高い子から中くらいの子、低い子とそれぞれ番号を振り、学力が均等にバラけるようにA、B、Cとグループを3つつくります。

それ以外に、運動能力に秀でていたり、リーダーシップがある子なども同じクラスに固まることがないように調整します。さらに新学年で音楽発表会などがある場合は、ピアノを演奏できる子が1クラスに1人は入るようにします」

さらに埼玉県ならではの「配慮」が存在したという。

「埼玉県の公立校では書道展や硬筆展を毎年行うので、字の上手な子が固まらないようにもしていました。こうした微調整は、旧学年の先生たちで3回ぐらい集まって、詰めていきます。1回の打合せに2~3時間は要しますね。

その結果を別の学年の先生や、かつてこの学年の担任経験のある先生にも見ていただき、最終的に主幹教諭か教頭、校長に目を通してもらい、ようやくOKとなるのです。この作業は早い学校なら2月末くらいから準備を始めます。

このようにクラス編成は調整や確認など何段階も経て決定するので、今回の守山市の中学校のように人間関係に配慮して「やり直す」ことは、よほどのことがない限り、ありえない。というか、人間関係で変えていたらキリがないので、教師の立場からすると信じられないニュースです」(Aさん)

「問題行動のある子」はバラけるようにします

同じく「やり直しは信じられない」と話すのは名古屋市内公立中学の教師をしていたBさん(38)だ。

「私の学校ではまず主任や生徒指導の先生などがエクセルで、学力の高い生徒から低い生徒までが重ならないように分配します。その後、その学年を受け持った先生たちが集合し、プロジェクターにエクセルを映しながら、ピアノができる子がクラスごとに別れているかを確認したり、生徒会に入るようなリーダー格の子や運動能力の高い子が固まりすぎないようにバラけさせます。

そういった調整を進め、最後に問題行動のある子もバラけるようにします。このような話し合いを1回につき1~2時間、約1週間にわたって進め、最終的に教頭や校長にOKをもらって“確定”となります。

一旦こうして決めたクラス替えを「やり直す」という事例は、私立校などではあるかもしれませんが、公立ではまず考えられないと思います」

Aさん、Bさん両教諭の話で共通するのは、新学年の担任予定者が新クラスの編成作業に関与する度合いはほとんどなく、そのため「はないちもんめ」のように好き嫌いで子どもを取り合うような事態にはならないということだ。

学力順に分類するのが最優先で、次に体力やリーダーシップ、特殊技能(ピアノ演奏)、問題行動なども順次考慮して「均等分け」する方式で、クラス編成は決まっていくという。各学校ともクラス替えが決まると教諭陣の人事が決まり、多少の異動を経て新学年の担任が決まる、という流れが通常だという。

関東で 長年、公立中学校の教師を務めてきたベテラン教師のCさん(50代・女性)からはこんなため息が聞こえてきた

「今後、こうしたクラス替えの事例が増えていく可能性はあるのかなと思います。そういう意味ではすごく現代チックなニュースだなと思って見ていました。教育現場はこの10年くらいの間で、生徒や保護者の力がどんどん強くなり、教師側はとにかくトラブルを起こさないように気を遣っているんです。

それこそひと昔前までは、親が子に『とにかく学校に行って先生の言うこと聞いてなさい!』という時代で、クラス替えもそこまで先生たちで議論することはなかった。でも今は、学力別に振り分けてから何度も会議を重ねて、ようやくひとつのクラスが完成します。

そこまで時間がかかる理由としては、今回の守山市のニュースにもあるように、生徒や先生との人間関係が大きい。毎年3学期になると、生徒や保護者が学年主任に『〇〇先生とは相性が悪いので来年度は絶対に同じにしないでください』『〇〇さん(生徒)と一緒にいて嫌な思いをしたから、別のクラスにしてほしい』と要求してくるケースが圧倒的に増えました」

さらにCさんが続ける。

「もちろん本当にいざこざが起きていたり、正当な理由があればそれを考慮するのもこちらの仕事なのですが、理由があいまいなケースも少なくない。とはいえ、要望通りにしないと、最近の中学生はなにをするか本当にわからないんです。

『学校生活でストレスが溜まった』と変なクスリをたくさん飲んだり、リストカットだってしかねない。学校側としてはとにかく騒ぎを起こされないよう、言うことを聞くしかないんです。

それこそ今の教頭は呪文のように『なにかあったら困るから』と唱えるし、『昔はこんなんじゃなかったのに...』と愚痴をこぼす同僚もいますよ。教育現場のパワーバランスが変わり、今後そうした事例も増えていくんじゃないかなと思いましたね」 

保護者は学費を納めてくださるお客さまだから…

最後に紹介するのは、海外にも分校が存在するある私立中学校で教師をしていたDさん(20代)だ。ここではさらに、教員のヒエラルキーは低めの設定だったという。

「クラス分けは、最初に定期テストの順位で1位は1組、2位は2組という感じで各クラスの学力が均等になるように振り分けます。

でも、その振り分け方をめぐっても教員同士でかなり意見が割れました。定期テストの順位ではなく、『5教科の内申点の合計のほうがいい』『いや、そこは9教科にするべきだ』というような会議を、2学期の後半あたりからやっていました。

ちなみに問題行動やADHDなどの特性がある生徒、保護者がモンスターペアレントの場合など“手がかかる”生徒はベテランの先生のクラスに入れられることが多いです。

うちの学校は私立なので、保護者は学費を納めてくださるお客さまです。なのでそのご要望はよほど無茶なこと以外は優先されます。管理職は事なかれ主義なので、お客さまのご意見を1番に考えて、とにかく揉めごとを避けたクラス分けができているかを最終チェックしていました」

先生の「なり手」がさらに少なくならないことを祈るばかりだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班