東京・上野で飲食チェーンを手広く手がける夫婦が殺され、栃木県那須町で火をつけられて捨てられていた事件の「実行役」として元俳優の若山耀人容疑者(20)が死体損壊で5月1日に逮捕された。SNS上には「なぜ?」「どうしてこうなった?」と元人気子役の逮捕に驚きの声があがっている。この件につき同じ子役出身者で、やはり大河出演経験もあり、ドラマ「人間失格」「ひとつ屋根の下2」などで独特なキャラを演じて活躍、現在は監督や演出家として活動する黒田勇樹氏(42)に話を聞いた。

「転落人生」と書かれたのは心外だった

かつてNHK大河ドラマにも出演し、山田洋次監督作品「学校Ⅲ」では日本アカデミー賞新人俳優賞も受賞、天才子役の呼び声高かった黒田勇樹氏。

彼は言葉を選びながら「名や顔が売れていると、やましい考えを持った大人たちが甘い誘いをしてくるのは確かだ」と話す。黒田氏自身の経験談と、芸能界引退からこれまでを聞いた。

――そもそも黒田さんはなぜ芸能界を引退したのでしょうか。

黒田勇樹(以下、同) 僕は物心ついた頃から芸能人のマネージャーだった母親や、その友人にオーディションを受けるのを勧められ、言われるがままに芸能界に入った身なので、なんとしても芸能界にしがみつこうという思いはなかったんです。自分には職業経験が必要だと思って、28歳で俳優をやめて、さまざまなバイトをしました。

――なぜ職業経験が必要だと思ったんですか。

僕の場合は幼い見た目もあって、20代でようやく高校生役がまともに演じられるようになった感じでした。でも、いつまでも高校生を演じるのには限界がある。次に何を演じるのかとなったら社会人役になるわけですが、そもそも自分にはその経験がない。いずれ演じたいからという理由ではなく、まず経験をしたいと思ったんです。

それでまずは派遣会社に登録し、会社の事務から掃除までさまざまなバイトを経験しました。その後、今度はデスクワークをしようとコールセンターでバイトを始めたら、トントン拍子で主任まで昇進して。
でも、土日に引っ越し屋のバイトをしていたときに週刊誌にスッパ抜かれて「転落人生」とか書かれたんです。僕としては心外でしたね。別に俳優を続けたかったのに続けられなかったわけじゃないんだけど…と。

――俳優をやめてバイトをすることに抵抗はありましたか?

もちろん、ないことはない。説明が難しいんですが、僕のなかにプライベートの自分とオフィシャルな自分の二面性があるんです。運転手が俳優としての黒田で、助手席に素の僕が座ってナビゲートしてる感じ。素の僕は「俳優以外にも仕事はある。なんでも経験したい」というドライな思いがありましたが、俳優としての黒田は「もう2度と脚光を浴びることはないのか」とも思っていて、そこに葛藤がありました。
でも、実際には「なんでも経験したい」という思いを選んだということです。

飲み、女の子を紹介してやる…遊びの誘いは山ほどきた

――冒頭で「やましい考えを持った大人たちが甘い誘いをしてくるのは確かだ」と言ってましたが、どんな誘いがありましたか。

いろいろありました。出会い喫茶の看板に顔と名前を出すだけで月50万円だとか。あと詳しくは言えないですが、反社会的な人から「飲みに連れて行ってあげるよ」「女の子紹介するよ」という遊びの誘いも山ほどきました。芸能界を辞めらすぐにAV男優にならないかという誘いもきましたね。もちろんそれらはすべて断りました。

――なぜ、断ったのでしょうか。
        
それは先ほど説明した、運転席に座る俳優としての黒田と、助手席の黒田がそれを許さなかったからです。何より僕は野島伸司さん脚本のドラマや山田洋次監督の作品、演劇では坂東玉三郎さんなど、諸先輩たちの作品に出演させていただきました。僕が悪に手を染めればその方々の作品さえも傷をつけることになる。また、作品の再放送さえ危ぶまれる。それは自分はできないし、したくないからです。

――子役出身者のなかには、途中で転落する方もいますが、生き残る方との違いはなんだと思いますか。

子役って、物心つく前から親の意思でなっているケースが多い。だからその親御さんには、芸能界で生きること以外の選択肢を示したり、一般的な道徳などを教育してあげることが求められると思います。そしてその教えを本人がどう受け取り、いかに道を切り拓いていくかが大事なんです。「他にも選択肢があるなかで自分はこれで生きていく」と考える人間と「これをやっときゃいいや」と考える人間ではだいぶ違うと思います。

――元子役が逮捕された今回の那須の事件のニュースを見て、何を思われましたか?

元子役でなくとも悪いことをする人はいるし、そうじゃなくても悪いことをする人はいる。でもこうして「元子役が転落した」などと報道されると、今現在、子役として頑張っている子たちにとってもいい影響はないですよね。
僕もさんざん、「転落」と報道されましたけど、転落じゃなくて「転職」です。ネット民には勝手に「ハイパーメディアフリーター」なんて名づけられましたけど。

今でもフェイク広告の依頼がある

――今でも悪い誘い、甘い誘いなどはありますか。

ありますよ。「投資だ」「仮想通貨だ」と、フェイク広告の依頼などの偽ビジネスから声がかかることはいまだにあります。でも、やはり“実態のない金儲け”には絶対に手を出しません。誘う側は「金になりそうな人」や「金に困ってそうな人」に寄ってきます。そういう意味では若山容疑者も、その手の方に言い寄られてしまったのかなと思います。

――今年3月、若山容疑者は、渋谷での街頭インタビューで「好きな言葉は金と女と酒」と答えていたようです。

勝手なことは言えませんが、彼はどこかで自分を見失い、悪い遊びに味をしめてしまったんでしょう。先ほど僕は、僕の中にオフィシャルな自分とプライべートな自分の二面性があると言いましたが、そういう意味で若山容疑者は、役者として成功していたオフィシャルな自分を自ら殺してしまったんだろうなと思いました。どうかできちんと自分と向き合い、罪を償ってほしいと願うばかりです。



42歳になった現在、作り手側の仕事をしているという黒田氏。「今は映画の監督や演劇の演出などをして、たまに自分も出ることもあります。3歳の息子の成長も楽しみだし、自分のしたことをしたいようにやれて、今が一番楽しいですね」と笑った。

 

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 河合桃子