過去最高レベルの大会となった『R-1グランプリ2024』。優勝が決まった直後、王者・街裏ぴんくが放った魂の叫び「R-1に夢はあるんですよー!」に込められた思いとは…。

お見送り芸人しんいちも絶賛「悔しいぐらい全組笑いました!」


3月9日に放送されたピン芸人ナンバーワンを決めるお笑い賞レース『R-1グランプリ2024』(フジテレビ系)。今年は、芸歴20年目の街裏ぴんくが優勝し、人生を変えることに成功した。優勝が決まった後の魂の雄たけび「R-1に夢はあるんですよー!」は、この大会の歴史に刻まれる名セリフの一つになるであろう。

今回のR-1は、過去一レベルが高い大会となった。陣内智則やバカリズムなど常連の審査員たちも、「今年はレベルが高い」と何度も漏らすほどで、会場のウケも申し分なかった。

そんな中でも、特に爆発的な笑いを取ったのが、ファーストステージ上位の3人、ルシファー吉岡、街裏ぴんく、吉住だ。この3人の得点がそれぞれみな470点台で、続く4位の真輝志は458点。間の460点台が1人もいないところを見ても、3人がいかに群を抜いていたかがわかる。

そしてファイナルステージでは、街裏ぴんくが3票、吉住が2票を獲得し、街裏ぴんくが過去最高レベルともいえる大会を制した。


優勝した街裏ぴんく(トゥインクル・コーポレーション公式Xより)


この異様なまでの盛り上がりをみせた今大会について、2022年のR-1チャンピオンであり、今大会の準決勝の審査員でもある、ピン芸人・お見送り芸人しんいちに感想を聞いた。

「今年はレベル高かったです! 僕が優勝した2022年のほうがレベルは高かったと自分の誇りのために言うてますけど、悔しいぐらい全組笑いました! まず感じたのはこれまでは芸歴制限(今大会では制限を廃止)で出られなかった中で先輩方は力を溜め込んでいたんだなと。怖いくらいおもしろい先輩方がたくさんいました。だけど、それだけでなく、先輩方に喰われてたまるかと後輩たちのメラメラもすごかったです!」


2022年のR-1で優勝した、お見送り芸人しんいち 写真/村上庄吾


優勝した街裏ぴんくは現在39歳で、芸歴、年齢共にお見送り芸人しんいちの先輩にあたる。2004年にお笑いコンビを組んで芸人人生をスタートし、紆余曲折を経て2014年5月より芸能事務所「トゥインクル・コーポレーション」の所属となった。

同事務所は人気コンビだったラーメンズが在籍していたことで知られているが、現在はエレキコミックと元ラーメンズの片桐仁以外では、知名度の高いタレントは少ない。

事実、今回のR―1での優勝は、トゥインクル所属の芸人としては、エレキコミックが2000年に第15回NHK新人演芸大賞演芸部門で大賞を獲得して以来24年ぶりとなる、メジャーお笑い賞レースでの快挙となった。トゥインクル所属の芸人、そして事務所の社長までも盛大に祝い、それだけでなく、他事務所の芸人からもが祝辞が多く寄せられている。それほどまでに、ここまでの道のりは険しかった。


妻がバイトで稼ぎ…街裏ぴんくの下積み生活


街裏ぴんくは既婚者だが、なんと妻と一度も旅行したことがないという。生活費も妻が必死にアルバイトで稼ぎ、街裏ぴんくは妻の貯金を食いつぶす日々。それでも借金が300万円ほどあり、実はR-1決勝の前日も、妻が新たなバイトを始めようと面接をしていたという。

優勝直後に、エレキコミックと片桐がパーソナリティーを務めるラジオ番組『エレ片のケツビ!』(TBSラジオ)に生出演した街裏ぴんくは、妻と生電話で喜びを分かち合い、初の夫婦旅行として北海道旅行を約束した。

このラジオ番組の中で街裏ぴんくは優勝後、初めて妻と会話したというが、その理由は優勝直後から仕事のオファーがひっきりなしに届いて、スマホを見る時間もないほどだったから。優勝した瞬間から人生が変わっている。

まさに「R-1に夢はあるんですよー!」とはこのことだろう。


トロフィーを抱える街裏ぴんく(トゥインクル・コーポレーション公式Xより)


さて、そもそもなぜ街裏ぴんくがそのような発言をするにいたったかは、『M-1グランプリ2022』で優勝した際の漫才で“R-1には夢がない”と放ったウエストランド・井口浩之へのカウンターだ。

2022年12月18日の『M-1グランプリ』決勝、世帯平均視聴率は関東で17.9%、関西では30.1%(ビデオリサーチ調べ)という日本国中の注目が集まる大舞台で、ウエストランドは“あるなしクイズ”の漫才を披露。そこで、“M-1グランプリにあって、R-1にないもの”として、「夢」「希望」「大会の価値」とまくし立て、R-1には夢がないと言い切って爆笑をかっさらったのだ。

これは井口の毒舌ネタである一方で、あれだけ笑いを生んだということは、“R-1に夢がない”ということは、多くの人の共通認識でもあったことにほかならない。言ってはいけない真実に触れてしまった…という意味で爆笑が生まれたのだ。


「ピン芸人にはR-1しかありません」


しかし、R-1は今回をきっかけに、その価値が見直されていくかもしれない。お見送り芸人しんいち、ZAZYと、R-1をきっかけとした人気者が増え、街裏ぴんくもそれに続こうとしている。

ピン芸人にとってR-1とは改めてどのような場所なのか。お見送り芸人しんいちが説明する。

「R-1はピン芸人の夢でもありますし、これしかないという最後の希望だと思います。コンビだとM-1やKOC(キングオブコント)がありますが、ピン芸人はこれしかありません。ネタ番組でもピンネタってあまりないです。お笑い界でピンネタってあまり必要とされていない状況なのかなって思います。
だからこそ、R-1ってありがたいですし、大金を払ってでもピン芸人は出たい大会だと思います。同時にコンビの人に負けてたまるか、舐められてたまるか、コンビネタよりピンネタのほうが難しいから、という自負もあるので、R-1は特別なんです」



写真/村上庄吾


審査方法の変更、芸歴制限、からの芸歴制限撤廃、『R-1ぐらんぷり』から『R-1グランプリ』への改名など、大会を盛り上げようと試行錯誤が繰り返されているR-1。だが、ピン芸人にとって、一つの“夢の舞台”であることは間違いなさそうだ。

取材・文/集英社オンライン編集部