予備軍も含めると日本人の5〜6人に1人が糖尿病にかかっているといわれる(厚生労働省調べ)。この病気のメカニズムを読み解くうえで重要な要素の一つが、膵臓から出るホルモン、インスリンの働きだ。あらためてインスリンとはどんな役割を果たしているのか。全米シリーズ100万部、医学界の定説を覆したと評される『糖脂肪』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

インスリンが多すぎると肥満に

恐ろしい話をしよう。私はあなたを太らせることができる。いや、相手が誰であろうと太らせることができる。いともたやすいことだ。インスリンを投与するだけでいい。

インスリンは体内で分泌されるホルモンだが、インスリンが多すぎると体重が増えたり肥満になったりする。

そもそもホルモンとは体に信号を伝える化学的な物質である。ホルモンは内分泌腺で構成される内分泌器で生成され、体の機能を維持するために分泌される。

脳にあるエンドウ豆ほどの大きさの下垂体では、体の各部分の代謝プロセスをコントロールするための様々なホルモンが生成されるため、「脳下垂体」は内分泌腺中枢と呼ばれることもある。

脳下垂体で生成されるホルモンには、たとえば骨や筋肉などの成長を促す信号である成長ホルモンがある。また、頸部にある蝶のような形をした甲状腺では、甲状腺ホルモンが生成されて全身に信号が送られる。

この信号を受け取ると、たとえば心臓の鼓動が速くなったり、呼吸が速くなったり、基礎代謝率が上がったりする。

これと同じように、膵臓ではインスリンというホルモンが生成されるのだが、インスリンはおもに食物エネルギーの吸収や蓄積に関する信号を送るホルモンである。

細胞に「ブドウ糖」を詰める

私たちが口にした食べ物は、吸収しやすいように胃や小腸で分解される。すべての食べ物はたんぱく質、脂質、炭水化物の3つの多量栄養素から成っているが、それぞれ消化のされ方は異なる。

たんぱく質は「アミノ酸」に分解される。脂質は「脂肪酸」に分解される。糖が鎖のようにつながってできた炭水化物は、「グルコース」(ブドウ糖)など分子量が小さい糖に分解される。

これに対し、微量栄養素とはその名が示すとおり、微量ながらも健康のために必要なもので、たとえばビタミンやミネラルなどがある。

インスリンの働きのひとつは、エネルギーを蓄積するために、細胞のドアを開けさせてグルコースを細胞に取りこむことだ。

ホルモンは標的細胞を見つけて、その細胞の表面にある受容体と結びつく。ホルモンが鍵で、受容体が鍵穴のようなものだ。正しいホルモンだけがその受容体を開けて信号を伝えることができる。

インスリンがまさにこの鍵の働きをするホルモンで、細胞の鍵穴にぴたりとはまり、グルコースを取りこむためのドアを開けさせることができる。

体内のすべての細胞が、グルコースをエネルギーとして使うことができる。インスリンがなければ、血液中を循環しているグルコースは容易に細胞の中に入ることはできない。

食べても食べても体重が減る「1型糖尿病患者」

自己免疫反応によってインスリンを分泌する細胞が破壊されてしまう1型糖尿病は、インスリンの分泌量が異常に少なくなってしまう疾患だ。

細胞のドアを開ける鍵がないと、グルコースはエネルギーを供給するために細胞の中に入ることができなくなって血中にたまり、細胞は飢餓状態となる。

その結果、どんなに食べても患者の体重は減りつづける。なぜなら、食物のエネルギーをうまく活用することができないからだ。

細胞に取りこまれないグルコースは最終的には尿とともに排出され、患者は衰弱していく。1型糖尿病は治療しないまま放置していると、死にいたる疾患だ。

一方、1型糖尿病でない人が何かを食べるとインスリンが分泌されてグルコースが細胞の中に取りこまれ、すぐにエネルギーとして使うことができるようになる。余った食物エネルギーはあとで使えるように蓄積される。

たとえば糖類や精製された穀物などの炭水化物を食べると血糖値が素早く上がり、インスリンが分泌される。たんぱく質を食べたときもインスリン値が上がるが、このとき同時に「グルカゴン(血糖値上昇ホルモン)」や「インクレチン(インスリンの分泌を促すホルモン)」などの血糖値を調整するホルモンも分泌されるため、血糖値はそれほど上がらない。

一方、脂質を食べたときは、血糖値もインスリン値もわずかに上がるだけだ。

インスリンは「食物エネルギー」を体にためようとする

インスリンのもうひとつの主な役割は、栄養素が間もなく到着するという信号を肝臓に送ることだ。

アミノ酸や糖は腸を循環した血流(門脈循環)にのって肝臓へ運ばれ、そこで処理される。一方、脂肪酸は腸で直接吸収されるため、肝臓を通らずに血流にのる。肝臓で処理する必要がないため、脂質を食べてもインスリンを分泌させる信号を送る必要がなく、インスリン値は比較的変わらないままとなる。

すぐに必要なエネルギーが補給されると、次にインスリンは「食物エネルギーをあとで使えるように蓄えろ」という信号を出す。

人間の体は筋肉や中枢神経系を動かすためのエネルギーとして炭水化物を使うが、余ったものはグルコースとなって肝臓に送りこまれる。また、肝臓に運ばれたアミノ酸からはたんぱく質が作られて筋肉、皮膚、結合組織などになるが、余ったアミノ酸はそのまま肝臓で蓄えることはできないのでグルコースに変えられる。

「肝臓」がパンパンになってから体に脂肪がつく

食物エネルギーはグリコーゲンか脂肪のどちらかに変換され体に蓄積される。

エネルギーとして使われずに余ったグルコースは、炭水化物から合成されたものであろうとたんぱく質から合成されたものであろうと関係なく、鎖のように長くつながってグリコーゲン分子となり、肝臓に蓄えられる。
 

グリコーゲンとグルコースはどちらからどちらにでも簡単に変換することができる。体の細胞でエネルギーが必要になったときはグリコーゲンがグルコースに変換され、血液中に放出される。骨格筋もグリコーゲンを貯蔵することができるが、貯蔵された筋肉細胞でしかエネルギーとして使うことができない。

肝臓はかぎられた量のグリコーゲンしか貯蔵することができない。だから、肝臓がいっぱいになってしまうと、余ったグルコースは〝de novo lipogenesis(脂肪の新生)〟というプロセスを経て、体内で脂肪に変えられる。

〝de novo〟とは「新しいものから」という意味で〝lipogenesis〟は「新しい脂肪を作る」という意味だ。つまり、文字どおり「新しい脂肪を作る」ということだ。

インスリンは肝臓に、「余ったグルコースからトリグリセライド分子というかたちの新しい脂肪を作れ」という信号を送る。新しく作られた脂肪は肝臓から排出されて脂肪細胞に蓄えられ、必要なときに体にエネルギーとして供給される。

つまり、体は余った食物エネルギーを糖(グリコーゲン)あるいは体脂肪として蓄えるのである。インスリンは「糖や脂肪を燃やすのをやめて蓄えろ」という信号を送るホルモンだ。

食事を終えたあと(つまりファスティングを始めたあと)、体がエネルギーを必要とするときは、グリコーゲンや脂肪がエネルギーとして供給される。
 

ファスティングという言葉は、たんに食事や間食の合間の何も食べない時間のことを指す。ファスティングをしている間、人間の体は蓄えてあるエネルギーを使う。つまり、グリコーゲンや脂肪を分解してエネルギーとして使うのだ。

食後数時間経つと、血糖値が下がりインスリン値も下がりはじめる。

肝臓はエネルギーを補給するため、蓄えておいたグリコーゲンを分解してグルコース分子に変換し、血中に放出して循環させる。ちょうどグリコーゲンを貯蔵するときと逆のプロセスだ。

このプロセスはおもに夜に行われる。これは夜に何も食べないと仮定したときの話だ。

絶食後しばらくして脂肪が燃えはじめる

このようにグリコーゲンは簡単に使えるが、その量にはかぎりがある。ファスティングの時間が短い場合なら、グリコーゲンは身体機能に必要なグルコースを補うのに十分な量がある。

だが、ファスティング時間が長くなると、肝臓は蓄えられている体脂肪から新しいグルコースを生成するようになる。このプロセスは「糖新生」と呼ばれる。文字どおり「新しく糖を作る」という意味だ。つまり、エネルギーを放出するために脂肪が燃やされるというわけだ。

これは脂肪が蓄えられるときと逆のプロセスだ。
 

こうした「エネルギーの蓄積/放出」のプロセスは毎日起こっている。通常は、このバランスのとれた、よくできたシステムはうまく統制がとれている。食事をすると、インスリンの量が増え、エネルギーをグリコーゲンか脂肪にして蓄える。

ファスティングをしている時間は、インスリンの量が減り、蓄えておいたグリコーゲンや脂肪が使われる。食べている時間(インスリンが多い時間)と食べない時間(インスリンが少ない時間)のバランスがとれているかぎり、体脂肪の量が増えることはない。

「食べている時間」が長いと体脂肪が増える

エネルギーの蓄積において、インスリンにはもうひとつ役割がある。

肝臓がグリコーゲンでいっぱいになってしまうと、新しく作られた脂肪を蓄えておく余裕がなくなる。「トリグリセライド分子」というかたちの新しい脂肪は、肝臓内で作られたリポタンパク質という特別なたんぱく質と結合して「超低密度リポタンパク質」となり血中に放出される。

すると、インスリンはリポタンパク質リパーゼというホルモンを活性化させ、脂肪細胞に「血液からトリグリセライドを取りこんで蓄えろ」という信号を出す。このようにして、余った炭水化物とたんぱく質は、体脂肪として長期間蓄えられる。

インスリンが過剰に分泌されると、脂肪の蓄積が加速して肥満になる。

どのようなプロセスかって? 食べている時間が食べていない時間より長くなるとインスリンが多い状態が続くことになり、それが脂肪の蓄積につながる。

「グルコースを取りこめ」というインスリンからの信号が肝臓に過剰に出されると、最終的には肝臓内でグルコースから新しい脂肪が作りだされる。一般的に、インスリン値が高い時間(食事をしているとき)とインスリン値が低い時間(ファスティングをしているとき)が交互にくれば、体重は変わらないはずだ。

しかし、インスリン値が高い時間が多くなってしまうと、「食物エネルギーを体脂肪に変えて蓄えろ」という信号をつねに受け取ってしまうことになる。

文/ジェイソン・ファン 写真/shutterstock

糖脂肪

ジェイソン・ファン
糖脂肪
2024/4/5
1,870円(税込)
416ページ
ISBN: 978-4763141279

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「7月Hba1c7.8だったのがファスティング6回で9月Hba1c6.3に低下。体重は、7.3キロ減り内臓脂肪もタニタの体組成計でレベル13から11まで下がった」(カスタマーレビューより)

【目次より】
日本のみなさんへ、特別序文
1章 「甘い尿」のパンデミック
――人類史上、考えられないほどの広がり
4章 「摂取カロリー減」でもやせない
――カロリー神話が生んだ勘違い
6章 インスリン・パラドックス
――「血糖値を下げるインスリン」が出すぎて糖尿病
8章 フルクトースは恐ろしい
――「果糖だから安心」は誤り
11章 製薬会社の思惑
――「ビッグビジネス」と化した糖尿病市場
12章 カロリー制限? 運動?
――どちらも効果はいまひとつ
14章 低炭水化物療法
――薬を飲むよりはるかにいい
15章 間欠的ファスティング
――胃を「空っぽ」にする時間を作る ほか