「マドリーに裏切られたことは一度もない」

 クラブのソシオはこう胸を張る。聞こえはいいが、レアル・マドリーがラ・リーガとチャンピオンズリーグ(CL)を闊歩していないときに、同じことを質問したい。

「サッカーにおいて長続きするものはない」

 むしろ心に響いたのは、ネガティブな結果に追い詰められた名将が口にしたこの言葉だ。サッカー界では、成功も失敗も、茶番であるだけはなく、日々、気まぐれの度合いが増している。シーズン序盤、ゴール運に恵まれず、最もせっかちな批評家に迫害されていたロドリゴが、わずか2試合で救世主となったことはその代表例だろう。

 2シーズン前のチャンピオンズリーグのマンチェスター・シティ戦のゴールで、我々はすでに彼がハチドリのように宙を舞う姿を見ていた。実際、ボールが足にくっついているようにドリブルで切り裂き、ダンサーのようにターンを繰り出すロドリゴは、すべてのゴールをバランス芸を盛り込んだショーに変えている。ロドリゴは変わったのか?いや、直近の試合、直近のプレーによって我々の意見が変わっただけだ。
 
 私は熱狂の波も悲観の波も疑ってかかるので、選手を定義し、評価する際にはできるだけ早く行うようにしている。ロドリゴはマドリーでの5シーズン目を迎えている。現時点では10点満点中8点、将来的にはもうワンステップ成長できる可能性を秘めているというのが私の彼への評価だ。

 毎シーズン、違った姿を見せてくれるし、サンティアゴ・ベルナベウをまるで自分の庭のようにプレーしている。長いシーズンの中でレベルが6点台に下がったり、10点台に跳ね上がったりするのは普通のことだ。しかし、ロドリゴは6点のパフォーマンスを見せる試合でも非凡なところを見せるし、10点満点のプレーする試合でも、天才が憑依るわけでもない。

 彼のレベルが8点であることを前提にすれば、時に批判の余地がある試合があるかもしれないが、この若さで、マドリーが求める領域に達しているという安心感をすでに醸し出しているのは実力の証だ。もっともロドリゴに起こっていることは例外ではない。シーズンを通して、毎週のように同じような不愉快なケースを我々は目にする。
【動画】ヴィニシウスがクラシコで圧巻のハットトリック
 バルセロナでは、2人のジョアン (ジョアン・フェリックスとカンセロ)が、ポルト戦(CLグループH第5節、バルサが2−1で勝利)でチームの解決策となるまで、問題視され続けた。幸いなことに、2人は揃ってゴールを決める決定的な働きを見せたおかげで、メディアからカップルダンスのようにセットで評価されるステイタスを失うことを免れた。試合ごとに評価を変えたりするには、両者はもう十分なキャリアを積んでいるにもかかわらず、だ。

 選手に起こっていること以上に深刻なのは、監督への評価の浮き沈みだ。情熱という潮流の前では彼らは常に無防備だ。深刻な財政難に苦しむバルサをラ・リーガ王者に導いたシャビは、数回の引き分けでその信頼性を疑問視された。

 ディエゴ・アロンソに至っては、セビージャに上陸してから、解任されるまでメディアに袋叩きにされ続けた。そのような環境で誰がまともに働くことができるのだろうか?

 サッカー界というモンスターの中で生き、その内情を肌で感じてきた私は、敗北が引き起こすプレッシャーの種類と、それがクラブにもたらす震えを知っている。多くの場合、最善の解決策は立ち止まることだが、メディアは血まみれの世論調査を行い、ファンは瞬時の行動を要求し、経営陣は脅威を感じる。
 
 しかしながら、そうした反応がいくら正直なものであっても、ファンやメディアは言うに及ばず、経営陣を占める多くの人間でさえも、しょせん遠くから見ている目撃者に過ぎない。

 ドレッシングルームに出入りできる者だけが、監督の胆力を感知し、試合中に発する不安と安心のサインの解釈法を知っている。選手たちが指導法を尊重し、努力を惜しまないのであれば、それはすなわち監督の言葉が信頼に足るものと感じ取り、コミットメントに従って生きている証だ。

 結果がどうであれ、ギロチンを最も巧みに使いこなすのは処刑人である。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳●下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79〜84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。

【記事】やりたい放題の“エムバペ騒動”についてどう思う? 久保建英はCLパリSG戦を前に何と答えた?
 
【記事】「クボがあまりに個人主義的だと非難する声がある」久保建英への批判に地元紙が異論!「この天才は1試合に3つ以上の願いを叶えてくれる」「だから誰もがパスを出す」

【記事】「クボは素晴らしい」バルサの天才MFペドリが久保建英を絶賛!「彼のユニホームは家に保管してあるんだ」