4月17日に開催されたアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の準決勝・第1戦で、蔚山現代と横浜F・マリノスが蔚山文殊フットボールスタジアムで激突。ホームの韓国王者が1−0で先勝し、1週間後の横浜での再戦を前に、決勝進出に一歩前進した。

 私はこの一戦を現地で取材。記者としてではなく、観客としてスタンドで観戦したグループステージ第5節、横浜対仁川ユナイテッド戦に続き、韓国のスタジアムに足を運んだ。

 そこで、日本にはない、おもてなしを体験した。

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 決戦の舞台となったのは、蔚山文殊フットボールスタジアム。日韓ワールドカップでも3試合で使用されたクラシックなサッカー専門スタジアムだ。キックオフのおよそ2時間前に現地入りすると、少しずつ人が集まり始めており、熱の高まりを感じた。
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 日本から韓国までは飛行機で数時間。最も近い外国とあって、マリノスサポーターも少なくなく、「ようこそ蔚山へ」と日本語で書かれたウェルカムゲートを続々とくぐっていた。振り返れば、成田空港の時点で、青いユニホーム姿の人を多数目撃。釜山空港に向かう機内は、ACLの話題で溢れていた。

 もっとも、空港や駅からのアクセスは非常に不便だ。仁川ユナイテッドの本拠地、仁川サッカースタジアムが、ソウル駅から60分の桃源駅と横断歩道を挟んで直結しているのに対し、蔚山スタジアムは基本的に電車やバスを複雑に乗り換える必要がある。一見さんにはややハードルが高い。

 また、仁川では韓国料理屋やセブンイレブン、コーヒーショップといった常設店のほか、キッチンカーでトッポギ(約570円)、おでん(約342円)、焼き鳥(約513円)、ホットドッグ(約570円)、たこ焼き(約684円)が売られ、食料調達には困らなかった。

 しかし、こちらはそういった類の店がほとんど無し。郊外に、サッカー観戦に特化したスタジアムがポツンと存在するイメージで、事前の準備が不可欠だ。

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 蔚山では、かつて柏レイソルや浦和レッズで活躍した江坂任がプレー。17年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した後、最大のライバル全北現代に移籍した天野純(現横浜)と入れ替わる形で、2023年に加入した。

 せっかくなので、何人かの現地サポーターに新旧日本人MFについて尋ねてみると、天野に対しては笑い交じりに「彼はライバルに移籍した。ぶっちゃけ蔚山ファンは好きではない」「大好きだった。でも今は...」「裏切り者」といった答えが返ってきた。

 深い因縁を持つ一方で、江坂に関しては「良い選手だ。優れた日本人選手を手に入れた」「アタルはベストプレーヤーだ」「彼のプレーは特別。パスやタッチ、全てが美しい」と大絶賛だ。多少のリップサービスもあるかもしれないが、いかに素晴らしい選手かを熱く語ってくれた。

 また、江坂の31番のユニホーム姿で、愛を伝えてくれたファンがいたほか、マリノスのユニホームに身を包んだ韓国人サポーターも。「横浜F・マリノスが好きなの?」と訊くと、「もちろん、そうだ」と答え、その理由をこう明かしてくれた。
 
「2020年のAFCチャンピオンズリーグの横浜と全北の試合を見たんだ。ナカガワ・テルヒト(仲川輝人/現FC東京)が特に印象に残っている。彼が好きだ。ファンタスティックなクロスを上げていた。コーチは、今トッテナムにいるアンジェ・ポステコグルーだったね。アメイジングなフットボールだった」

 一通りスタジアム周辺での取材を終えると、プレスルームに向かった。そこでまず胸を打たれたのが、報道陣用に水とお菓子に加え、弁当が用意されていた点だ。

 決して豪華なものではなく、本場のキムチは少し酸っぱかったが、お腹が空いていたこともあり、その気遣いが非常に嬉しかった。日本でも現場によっては、飲み物や軽食が置かれているが、食事の提供は自分の経験上、一度もない。

 実は、日本代表の北中米ワールドカップ予選で、サウジアラビアを訪れた際も“厚遇”を受けていただけに、今回の韓国出張の楽しみの1つでもあった。

 それと、椅子がいわゆるゲーミングチェアで、長時間座っていても疲れないタイプのものだったことと、日本語で書かれた事前資料の存在も有難かった。資料には蔚山とJリーグ、蔚山とマリノスの関係性をはじめ、注目ポイントが記されており、大いに参考になった。
 
 そのほか、細かな点ではあるが、初めての体験で印象に残っていることが3つある。

 1つはスタンドレベルにある記者席に、LANケーブルが備え付けられていたこと。ケーブルを挿すだけで完結する簡単な接続かつ、決して落ちない速度は、不安でいっぱいの海外記者に感銘を与えた。ネット環境の確保は、最優先事項だ。

 もう1つは、後半開始直後に蔚山の広報担当と思しき男性が駆け寄り、来場者数を速報してくれたこと。通常は試合終盤に大型ビジョンで表示され(実際、この試合でも75分にアナウンスされた)、そこで初めて知るわけだが、サービス精神から、いち早く教えてくれた。

 ちなみにその数は9558人。4万人超のキャパに対し、ホームのゴール裏とサイドスタンドが埋まり、絶えず熱い声援が続いていたなかで、個人的にはもう少し人が集まっている印象を受けた。
 
 そして最後は、選手が取材を受けるミックスゾーンから、バスに繋がる道の左右に柵が置かれ、サポーターが集結していたことだ。試合後のスターの表情を見届けるのは、韓国の風習なのか。日本では見られない、クラブ主導の光景だった。

 いずれも「大サービス」と言うにはいささか大袈裟だが、“地味に嬉しい”おもてなしの連続により、かなりの好印象を受けた。ただ、少し俯瞰から物事を見てみれば、日本では当たり前になっているだけで、海外では普通ではない設備や環境も多いのかもしれない。

 いずれにしても、異国での体験で初めて生まれる気付きがある。

取材・文●有園僚真(サッカーダイジェストWeb編集部)

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