2024年ゴールデンウィーク期間に東京・大阪で開催される“ジュラシック・シリーズ”のシネマオーケストラ(通称:シネオケ ®)*1。記録的大ヒット映画『ジュラシック・パーク』と『ジュラシック・ワールド』の映画全編を大スクリーンで上映し、舞台上の80名超のフルオーケストラが音楽部分を映画に合わせて生演奏するという興奮と感動の"超映画体験"。今回、このコンサートを指揮する佐々木新平に、見どころを聞いた。

佐々木新平       (C)Yusuke Kinoshita

佐々木新平      (C)Yusuke Kinoshita

『ジュラシック・パーク』が公開されたときのことはよく覚えています。当時は小学生、リアルタイムで観ましたね。当時はもう、ジョン・ウィリアムズというと『スター・ウォーズ』『E.T.』をはじめ、ジョージ・ルーカスやスピルバーグの映画が一斉を風靡していた中で、彼が手がけた音楽に数多く触れる機会がありました。今挙げた作品を実際に観た時に、やはりその音楽にも夢中になりましたし、大好きでした。吹奏楽部に入っていたので、実際に演奏もして身近な音楽だったと思います。ちなみに担当していたのはトロンボーン。背が高かったから(笑)。

今回、指揮をするに当たって観直してみて、当時のことを思い出しました。90年代の前半、今だから余計に感じますが、あれほどリアルに恐竜の世界——動きひとつとっても——を作れるのか。当時は未来の作品を観ているような気分にさせられました。あとやっぱり、怖かった!

音楽の話でいうと、最初にティラノサウルスに襲われるシーン。あそこは10分近くあるのですが、オーケストラの音がひとつも入っていないんですよね。音がないことが恐怖心を余計に駆り立てるのです。逆の言い方をすれば、そういう徹底した無音のシーンがあるからこそ、他のシーンがより劇的になりますね。

(C)Universal City Studios LLC and Amblin Entertainment, Inc. All

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そして、『ジュラシック・ワールド』では音楽がマイケル・ジアッキーノに変わります。こちらは一転して音楽に彩られた作品です。「パーク」の方は、実は結構オーケストラの休みがあるんですよね。逆に「ワールド」の方はほとんど休みがない。ずっと何かしらの音楽が鳴っていて、両作曲家、両作品の大きな違いだと思います。
ジョン・ウィリアムズのスコアは基礎に忠実というか、クラシック音楽に通じる部分が多いんですね。オーケストレーションひとつにしてもそう思いますが、非常にシンプルに音楽か書かれている。だからこそ旋律をはじめとした音楽が要所要所で最大限の効果を発揮しています。ジアッキーノは新しい世代の作曲家です。いわゆる特殊奏法もたくさん出てきます。弦楽器の音の重ね方、打楽器の使い方もおもしろい。ちょっとした音にも全て意味合いを持たせています。音楽で全ての繊細な感情までも表現しようとしていると感じるくらい、わずかな効果音にまで拘っているのが分かります。

佐々木新平      (C)Yusuke Kinoshita

佐々木新平      (C)Yusuke Kinoshita

普段、クラシック音楽を指揮している中で、オペラのような舞台ものを振る機会も多いのですが、今回のように映像に音楽を合わせて指揮をする場合、普段と異なる様々な制約があります。我々の感情や都合と関係なく映像は決まった時間枠で進むわけですから。できる限りの融通を利かせ、オーケストラと共に最適解を常に選択しながら音楽を作っていくのです。映像にピッタリ合わせないといけないところはもちろん合わせますが、実は微妙にタイミングがずれても違和感がないシーンもあって、そこは逐一合わせないようにしています。オーケストラは大勢の人間が集まっているわけで、その時々の感情からくる自然な流れというのを表現したいのです。
スクリーンの下では80人のオーケストラが演奏していますので、自然とそちらに視線が移る瞬間もあると思います。スクリーンと演奏者たちの動きや身振りがリンクする感じも楽しんで欲しいですね。激しいシーンはオーケストラも激しく弾いていたりしますので。また、映像の裏でこんな音楽が流れていたのか、というように、今まで気にしていなかった音もより鮮明に聴こえてくると思います。ライブならではの感覚をぜひ体験していただきたいです。

取材:小崎紘一