プロ野球が開幕した。今季の見どころのひとつとして挙げられるのが、若手の台頭である。とくに打者は、どのチームも将来的にチームの中軸を担う選手が芽を出しつつある。そこで名コーチとして多くの好打者を育て、現在は野球解説者として活躍する伊勢孝夫氏に、度会隆輝(DeNA/1年目/21歳)、田村俊介(広島/3年目/20歳)、前川右京(阪神/3年目/20歳)の、セ・リーグ若手注目の左打者3人を診断してもらった。


広島との開幕カードで大活躍したDeNA度会隆輝 photo by Koike Yoshihiro

【度会隆輝の飛ばしの秘訣は?】

 まずルーキーの度会だが、すごい選手が出てきたねぇ。オープン戦から、「ヒットというのは、こんなに簡単に打てるものなんだ」と思えるほどのバッティングだった。ハンドリングが柔らかいし、バットもしっかりインサイドから出てくる。高校卒業時にドラフトにかからなかったのが不思議なほどだ。

 カウントが浅い段階で打ちにいく"超積極的なバッティング"は、賛否が分かれると思うが、相手が探りに来る前に勝負をかけるという点で、私はいいことだと思う。

 バットの出し方については、かつて広島でプレーした前田智徳を彷彿とさせる。打席に立っていても、力みがなく自然体だ。そして体の近いところから、インサイドアウトの軌道でバットを出してボールを叩く。だから詰まらない。

 そしてもうひとつ度会の長所は、ボールを引きつけたあと、リストを返すまでにちょっとした"間(ま)"がある。その間があることで、より強い打球が打てて、ファウルになる打球もフェアゾーンに飛ぶようになる。

 ほかの評論家は"押し込み"などと称することもあるが、こうしたスイングはプロの世界で10年やってきた選手でもなかなか身につくものではない。普段は辛口の自分としては褒めすぎかもしれないが、本当にすばらしい選手だ。

 ちなみに、度会の父(博文/元ヤクルト内野手)とは、彼が選手、私がコーチとして一緒にやったことがあるが、すでに父を抜いているんじゃないかな(笑)。打者として左右の違いはあるけど、父はどちらかといえば守備の人という印象が強い。ただ、野球選手にしては足が長くてね......我々の用語では"足割れ"というんだが、腰が落とせず、守備も苦労していたね。

 さて度会だが、当然相手チームも攻略法を探ってくる。弱点があるとしたら、高低の攻めだろうか。横の揺さぶりには対応できても、高低に脆さを感じる打席が見られた。このあたりが、今後のポイントになるだろう。

 あとは左投手対策だろうか。オープン戦では3月23日の日本ハム戦で、加藤貴之に2打席凡退したシーンがあった。

 第1打席は真ん中から低めにストレート2球で追い込まれたあと、真ん中低めのボール球になるカットボールに手を出してセカンドゴロ。つづく打席も、真ん中低め、外角低めを攻められ一塁ゴロに打ちとられた。ストレートも変化球も加藤クラスとなればキレが違う。あっさり打ちとられた印象だ。

 加藤ほどの好左腕はセ・リーグにそう多くないとはいえ、今後カギになりそうな2打席だった。広島との開幕カードでは頭部に死球をくらったが、活躍すればするほど厳しい内角攻めは増えるだろう。

 今後、各球団がどんな対策を練り、それを度会がどう対応していくのか、楽しみでならない。

【田村俊介、前川右京の課題は?】

 広島・田村もスイングは20歳のものではない。度会同様、何年もプロでやっているという感じのシュアなスイングをしている。変なクセもなく、侍ジャパンの井端弘和監督が3月に開催された欧州代表との強化試合に抜擢しただけのことはある。

 実際、オープン戦序盤は3本のホームランを放ち、結果を出していた。新井貴浩監督のみならず、西川龍馬の抜けた穴を埋める存在として期待するのは当然だろう。しかしオープン戦後半になり相手ピッチャーのレベルが上がってくると、徐々に快音が聞かれなくなった。

 理由は簡単だ。現状、左投手を打てないことに尽きる。これはあとに述べる前川にも共通している課題だが、田村が打てるのが真ん中からやや外角の甘い球が多い。コントロールミスを確実に仕留めているという点では及第点だが、一軍で投げるピッチャーはミスが少ない。

 さらに、迷ったまま打席に入っている気がする。田村への攻めは、内角を突かれて、そのあと真ん中から外のボール。それとは逆に、外角を意識させられて最後はインコースで打ちとられる。パターンとしてはこの2つがほとんどだが、ボールを絞りきれていないから、内角でも外角でも窮屈なバットの出し方になってしまう。バッテリーは基本的に外角低めでカウントを稼ごうとするが、今の田村だと内角でストライクを取りにきても大丈夫ではないか。

 いずれにせよ、内角をどう打つかという点に着目しているのだが、まだそれらしい攻めまでされていないのが現状だ。開幕カードで対戦したDeNAバッテリーからすれば、「内角を使わなくても、外角だけで打ちとれる」と判断したのではないか。

 この状態を克服する最善の方法は、引っ張りから意識を変えることだ。センターからレフトへ打ち返す。その意識が定着すれば、自ずとスイングは変わってくる。おそらく新井監督もわかっていると思うが、今はまだ静観の時期ととらえているのかもしれない。

 阪神の前川は、変化球の対応がうまく、とくに緩急を使った攻めをされてもバットが出る。岡田彰布監督も「相手が右ピッチャーなら使う」と、"準レギュラー"として期待している素材だ。逆に言えば、左ピッチャーが相手だとまだそこまでの信用はないのだろう。

 実際、戸郷翔征が先発した巨人との開幕戦は6番で出場したが、左のフォスター・グリフィンが先発となった2戦目はスタメンから外れた。

 前川の場合、欠点ははっきりしている。端的に言うと、スタンスが広すぎるのだ。そのため度会や田村ほどシャープに腰が切れない。言い換えれば、下半身主導で打ちにいきづらいフォームなのだ。そのため、今は力任せにスイングしている状態である。

 スイングというのは、内角、真ん中、そして外角と、それぞれに対応しなければヒットにならない。ところが前川は、内角の球を引っ張るスイングしか持ち合わせていないのだ。

 巨人との開幕戦で、ライトポール際に大きなファウルを打ったシーンがあった。捕手の大城卓三が要求した内角の球がやや甘めに入ったのだが、あれを仕留められないところが前川の課題である。

 とはいえ、まだ20歳。度会にせよ、田村にせよ、課題は伸びしろの裏返しである。今季、彼らが壁を乗り越え、もう一段、二段と成長し、球界を代表する打者に成長してくれることを期待したい。


伊勢孝夫(いせ・たかお)/1944年12月18日、兵庫県出身。62年に近鉄に入団し、77年にヤクルトに移籍。現役時代は勝負強い打者として活躍。80年に現役を引退し、その後はおもに打撃コーチとしてヤクルト、広島、巨人、近鉄などで活躍。ヤクルトコーチ時代は、野村克也監督のもと3度のリーグ優勝、2度の日本一を経験した。16年からは野球評論家、大阪観光大野球部のアドバイザーとして活躍している。

著者:木村公一●文 text by Kimura Koichi