チャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16。ファーストレグで1−1と引き分けていたバルセロナは、セカンドレグでナポリを3−1で下し、ベスト8に進出している。

「敗退した場合、即クビか?」

 不穏な噂も流れていたが、シャビ・エルナンデス監督は就任以来、ベストゲームと言える内容で勝ち上がった。すでに今シーズン限りでの監督退任を自ら発表。その"縛り"を作ったことによって、チームは奮起。以来、負けなしの勢いだ。

「私は『退任で一歩前に踏み出す』と言ったが、誰も信じなかった。『チームを混乱させるだけ』とあるまじき批判を受けた。しかし、我々は欧州で戦えることを証明した」

 シャビはそう語って"目にもの見せた"といったところか。

 4月10日の準々決勝では、レアル・ソシエダを下して勝ち上がった難敵パリ・サンジェルマン(PSG)と対戦する。下馬評はやや不利といったところか。PSGは元バルサの指揮官ルイス・エンリケが率い、元バルサのウスマン・デンベレを擁するなど因縁が深く、キリアン・エムバペを筆頭に戦力は欧州屈指だ。

 乾坤一擲で戦うバルサがよりどころにするのは何か。

「バルサは下部組織ラ・マシアである」

 それは、バルサの中興の祖であるヨハン・クライフの遺言に近い。バルサ独特のプレー哲学を押し通すには、一貫した育成が欠かせなかった。事実、ジョゼップ・グアルディオラ、シャビ、アンドレス・イニエスタ、カルレス・プジョル、ジェラール・ピケ、リオネル・メッシ、セルヒオ・ブスケツなどラ・マシア出身者が、バルサをバルサたらしめてきた。

 ナポリ戦はその遺言を守った形だ。


バルセロナのアタッカーとして定着した16歳のラミン・ヤマル photo by Nakashima Daisuke

 右アタッカーに入ったラミン・ヤマルは16歳、左センターバックに抜擢されたパウ・クバルシも17歳になったばかり、先制点を決めたMFフェルミン・ロペスは20歳。この3人はいずれもラ・マシア出身で、バルサの希望だ。

 今シーズン、ヤマルは定位置を確保して攻撃の一翼を担い、同じ年齢での活躍度ではメッシをも上回る。同じ左利きアタッカーで、ラ・マシア時代から比較されてきたが、神がかったレベルと言える。ナポリ戦も、変幻自在の加速で相手ディフェンスを幻惑。左足のひと振りだけを見てもスケールが違った。「攻撃こそ防御なり」のクラブ美学を旋回させていた。

【他にもタレントを次々と輩出】

 一方、クバルシは最近17歳になったばかりで、ナポリ戦では同じラ・マシア組のロナルド・アラウホとセンターバックでコンビを組み、ゲームMVPに選出されている。

「プジョル2世」

 1999年から2014年までラ・マシアから昇格してバルサのディフェンダーとしてあらゆるタイトルを勝ち獲ったキャプテン、プジョルとの比較も言いすぎではない。

 クバルシは、ナポリのヴィクター・オシムヘンのような強力アタッカーを相手にしても空中戦で負けず、タックルはすべて成功し、5度のインターセプトを記録。威風すら漂う落ちつきで、パス成功率は94%だった。攻守のバランスを能動的に取り、主導権を与えていない。ユース年代のセンターバックが、パワーも老練さも身につけた"大人の選手"を封じるのは至難の業。底知れない器だ。

 そしてフェルミンは、優秀なMFを数多く生み出してきたラ・マシアの傑作品だろう。グアルディオラ、シャビ、イニエスタ、セスク・ファブレガス、ブスケツ、ガビと、時代とともにプレースタイルはアップデートされてきたが、その最新版と言える。つなぎのボール技術だけでなく、守備でも強度を与え、何より前線に入る感覚に優れる。ナポリ戦(セカンドレング)の先制点はその典型だ。

 これだけの"特級タレント"を下部組織から続けて輩出しているクラブは、欧州にどこにもない。

 ナポリ戦ではベンチ入りしただけで出番はなかったが、18歳のFWマルク・ギウも大器と言える。昨年10月、トップデビューしたアスレティック・ビルバオ戦でいきなりゴール。すでにCLグループリーグでも得点を記録した。187センチと大きな体躯で大胆かつ繊細なプレーを得意とし、過去のラ・マシア出身のFWと比べても異色だ。

 他に18歳の左利きアタッカー、ダニ・ロドリゲスも雷撃のような仕掛けが武器で、同じ18歳のプレーメーカー、パウ・プリムは「ブスケツ2世」と期待される。20歳のマルク・カサドはナポリ戦もベンチ入りし、本来はMFだが、右サイドバックもできる抜群のユーティリティ性で、セルジ・ロベルトに近い。

 そもそも近年のバルサは、ラ・マシアの有力な選手を放出するツケに苦しんできた。有力クラブにはラ・マシア出身者がごろごろいる。ダニ・オルモ、シャビ・シモンズ(ともにライプツィヒ)、アレハンドロ・グリマルド(レバークーゼン)、ニコ・ゴンサレス(ポルト)、アベル・ルイス(ブラガ)、マルク・ククレジャ(チェルシー)、そして久保建英(レアル・ソシエダ)......。

 シャビ・バルサは、ようやくラ・マシア出身者を土台にした戦いができるところまできた。ケガで長期離脱中だが、攻撃的MFガビは19歳で、左サイドバックのアレハンドロ・バルデは20歳で定位置を確保。ナポリ戦で交代出場したキャプテンのセルジ・ロベルトもラ・マシア出身である。出足の鋭い守備から攻撃へのトランジションで伝統のオートマチズムを発揮。パス出しからフリーランでリターンを受け、ロベルト・レバンドフスキのダメ押し点をアシストした。"まさにバルサ"と言える得点パターンだ。

「バルサの中心はラ・マシア組」

 監督時代のグアルディオラも語っていたが、その輝きが新時代を照らそうとしている。

著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki