富士通レッドウェーブ
町田瑠唯×林咲希スペシャル対談(後編)

◆町田瑠唯×林咲希・前編>>「ルイさんは先輩っぽく...」「先輩っぽくってなんだよ!」

 町田瑠唯と林咲希はともに2021年の東京五輪に出場し、銀メダル獲得に大きく貢献した。しかし恩塚亨HC(ヘッドコーチ)体制になって以降、林がキャプテンを担いながら活躍を続ける一方で、町田はWNBAへの挑戦や故障などの理由で出場機会がなく、置かれた状況は異なる。

 だが、ふたりは今夏のパリ五輪で再び日本代表のユニフォームを着て、一緒に大舞台のコートに立つことを希望している。富士通レッドウェーブでチームメイトとなってコンビネーションを深めたふたりがともに代表メンバーに選出されれば、どんな化学反応を見せてくれるのか。日本代表への思いを聞いた。

◆町田瑠唯×林咲希「スマイル対談フォト&真剣プレー集」>>

   ※   ※   ※   ※   ※


今季からチームメイトとなった町田瑠唯と林咲希 photo by Koreeda Ukyo

── ふたりは東京五輪のメンバーに選ばれて銀メダル獲得に貢献しましたが、町田選手がリオ五輪にも出場していた一方、林選手の選出はやや遅く、代表に入った時期は異なっています。当時はお互いをどのように見ていたのですか?

林 私はA代表に入る前、B代表で活動していたのですが、その頃はA代表の人たちがめっちゃ怖かったです(笑)。アースさん(宮澤夕貴/富士通)とか長岡萌映子さん(ENEOSサンフラワーズ)とか、オーラが怖くて話しかけられなかったんですよ。初めて代表に入った時からトム(・ホーバスHC)さんもずっと怖いし。でも、瑠唯さんはなんかフワっとした感じの人でした(笑)。

町田 あははは(笑)。

林 瑠唯さんとはたしか、ベルギーと戦った時(2019年5月末/水戸での強化試合)に初めて一緒に試合に出たかもしれないです。もう、その時がめっちゃ楽しくて。瑠唯さんがアシストを2本くらいしてくれて。3ポイントも5本決めたんですけど、最初に流れを作るパスをしてくれたのが瑠唯さんだったのをすごく覚えています。その時に初めて「すごいなあ」と思いました。

── 町田選手は、林選手のことはどう見ていましたか?

町田 キキ(林選手のコートネーム)のことは彼女が大学生の時から知っていました。よく動くし、走るとは思っていました。ただ、その時はすごいシューターだっていうイメージではなかったと思います。

 でも、お互い代表に入って一緒に練習すると、キキはパッとやってパっとできちゃう。だから一緒にプレーしていて「めっちゃ楽しい!」という感覚はありましたね。

 自分もその頃は(ポイントガードの)2番手、3番手で、試合にも全然出ていませんでした。なので、キキとは(試合に)負けていて追い上げるタイミングで出ることも多かったんです。そういう場面で出るということは「キキの3ポイントだよね」というのはわかっていたので、彼女もそういう動きをして決めてくれました。


町田瑠唯と林咲希のコンビで富士通はさらに強くなった photo by Kaz Nagatsuka

── 町田選手としては、林選手と代表で一緒にやり始めてから彼女の実力に驚いたと?

町田 「こんなにクイックで打てるんだ」「あんなにガーって走ってポンって打てるんだ」っていう感覚はありました。そんなシューターは新鮮というか、今までに見たことのないタイプだったし、こっちがいいパスを出せば決めてくれるので、それは驚きましたね。

【「キキ! お願い!」と思ってボールを託した】

── 東京五輪の準々決勝・ベルギー戦で試合残り数秒、町田選手のパスから林選手がフェイクで相手選手を飛ばしてからステップバックで逆転の3ポイントをねじ込んだ場面は、日本代表のハイライトのひとつでした。あのプレーはセットプレーで、しかし相手に崩されてうまくいかなかったところからの展開でした。

町田 (シュートを)狙えなかったんだよね。

林 「ああ、やばい」と思いました(笑)。

町田 残り数秒しかなかったので、最初は私がレイアップで決めに行くか、ファウルをもらう覚悟でドライブに行こうと思ったんです。だけど、視界の隅にパッとキキが現れたので「キキ! お願い!」と思ってボールを託しました。

林 見えているのが、すごいんだよなぁ......。あの状況で、あえてパスは出せないと思うんですよね。

 トムさんのバスケットスタイル的には、最後はガードが1対1で勝負をしなきゃいけない状況だったんです。だけど、あそこでシュートを打てるようなパスを出してくれました。

 普通だったら、あそこは「ドライブに行こう」ってなっているから、ちょっと(思考が)トラブるんです。私はあそこでシュートフェイクをしたんですけど、瑠唯さんからのパスは本当にシュートが打ちやすいものだったんですよね。

── 東京五輪での銀メダル獲得という偉業は、ふたりにとってはどういうものですか?

町田 私にとっては「過去」です。過去でしかないって思っています。

林 私も「過去」ですね。でも、いい意味で捉える人もいていいと思います。

── それを自信にして、と。

林 はい。自信にしてガンガンやれる人もいれば、自分みたいに不安に一度なって、それからきっちりやっていくタイプに分かれると思います。


林咲希は町田瑠唯のことをどう思っている? photo by Koreeda Ukyo

── あれだけ世界の強豪と対等にやれて、自信にはなっていないのですか?

町田 私は「なってない」です。

林 うん。なんか「敵が増えたな」みたいな。

町田 私はケガなどもあって、東京五輪以降の2年間は代表に入っていないですし、HCも(恩塚亨氏に)変わっていますから、私にとってはいろんな面で不安は多い。銀メダルを獲ったから次も行ける、という気持ちはまったくないです。

── あれだけ活躍されても、そう考えるのですね。

町田 いやいや、活躍してないです(苦笑)。

林 そう考えるのが「町田瑠唯選手」なんですよ。

町田 あははは(笑)。

林 さっきも「才能とかない」って言っていたじゃないですか。いやいや、才能の塊ですよ。

町田 ないから! 才能......ないのよ。

── 林選手としては、町田選手にもっと自信をもってほしいと。

林 「才能と努力があるから今がある」という気持ちを持っていてもらいたいですね。ネガティブなところが多すぎるから(笑)、ちょっとは自信を持ってほしい。

【LINEで変な顔の写真ばかり送り合っていた】

── 町田選手は今年2月のOQT(オリンピック世界最終予選)は見ましたか?

町田 もちろん見ていました。ほぼリアルタイムで。

林 夜中だったのに。

── 最後のカナダ戦は、勝たないとパリへの道が閉ざされる可能性の高い試合でした。

町田 プレッシャーはすごいんだろうなというのが、みんなの表情を見て感じました。でも負ける感じはなくて、チームの雰囲気もよかったので、勝つだろうと思っていました。ただ、これを勝たないとパリへの切符がない状況で勝ちきったのはすごいです。私もみんなと一緒にハードな合宿をやっていたので、すごく感動しました。

林 感動したんだ(笑)?

── OQTの期間は、ふたりで連絡を取り合っていたのですか?

林 LINEをしていたよね。でも、内容はくだらないことばっかり(笑)。変な写真を送り合っていたっけ?

町田 うん、送っていた(笑)。

── 変な写真というのは?

林 スマホアプリのエフェクトで加工して、崩した顔を送ったり(笑)。

── OQTが行なわれたハンガリーの風景などは送らず?

林 ああ、全然。送ってなかったね。ごめん、気づいてなかったわ(笑)。


町田瑠唯と林咲希は一緒にパリ五輪を目指す photo by Koreeda Ukyo

── 町田選手は恩塚HC体制になってから出場がありません。焦りはありますか?

町田 焦りしかないです。ほかのポイントガードも自分とタイプが違うすばらしい選手が多いし、彼女たちが恩塚さんのバスケットを繰り返しやってきている一方、私はまだ全然やれていないので......。だいぶ遅れているとは感じています。だから今、自分ができることは、富士通でちゃんとやっていくこと。それをやっていれば、代表につながっていくと思っています。

── 恩塚HCはホーバスHC体制時のアシスタントコーチでした。ふたりのバスケットボールのスタイルの違いについて聞かせてもらえますか?

林 最初は「スタイルが違うな」と思っていたんです。ガードが1対1をするトムさんのスタイルに対して、恩塚さんのバスケットはみんなが1対1をするので。だけど、OQTの時はフルコートを使ってガードがしっかりプッシュする形だったので、似ているなと感じました。

 がんばらないといけないときに、頭をリセットしながら1秒1秒を進めていくのが恩塚さんのバスケット。トムさんのときは「セットプレーでこれをちゃんと最後までやりきろう」というスタンスでしたが、恩塚さんは「ディフェンスを見ながらやる」バスケット。プレーの入り方は似ているけど、点の取り方はすごくレパートリーが増えたという印象です。

── 町田選手は、恩塚HCのバスケットボールをどう見えていますか?

町田 トムさんと恩塚さんのバスケットは「全然違うかな」と感じています。恩塚さんのバスケットはディフェンスによってプレーを変えるというか、みんなが「この場合はこうだよね」っていう共通理解がないと頭がごちゃってなってしまうバスケットだと感じています。だから私としては、なおさら早く入って馴染まないといけないと思っています。

【アメリカと早めに当たっておくのはアリかも】

── 東京五輪は無観客で行なわれたので、パリ五輪でコートに立てれば、また違う雰囲気になりそうですね。

林 予選で勝たないとパリに行けないので(予選ラウンドはリールで開催)、パリでやりたい気持ちはすごくあります。決勝ラウンドに行くとおそらく、めちゃめちゃすごい観客の前でやると思うんですよね。それを想像したら、すごく楽しみです。

── 予選ラウンドでの対戦国(アメリカ、ドイツ、ベルギー)はすでに決まっていて、7月29日の初戦は前回大会の決勝で対戦したアメリカと当たります。

林 どうなんだろうね......。でも、不安に思っていたらできないよね。

町田 アメリカはけっこう(相手に)アジャストしてくる。前回のトムさんのではない「恩塚さんのバスケット」で早めに当たっておくのはアリかもしれない。一発目で当たるのは、逆に面白いかもしれないよね。

林 たしかに。またアメリカとできるのはすごく楽しみ、というか、どういう戦いができるのかな。東京五輪の決勝では、マジで何もできなかった印象しか残ってなくて......。

町田 いや、私も、よ。

林 全然、何もできなかったから。「何かできる手立ては出てくるのかな」という楽しみはあります。

── 東京五輪で2度、日本はアメリカと予選ラウンド・決勝で対戦しています。町田選手が言っていた「アメリカがアジャストしてくる」というのは、その2試合の合間で?

町田 はい、そうですね。だからこちらも「アジャストのアジャスト」をしなきゃいけない。

林 「裏の裏」をいかないといけない。

町田 それもう、表やん(笑)。

── 最後に、パリ五輪に向けてふたりの意気込みを教えてください。

町田 まずは代表活動でしっかりメンバーに残れるように、がんばりたいです。

林 (いい)ガード、多いもんね......。

町田 本当にいろんなタイプがいますし、どの選手が恩塚さんのバスケットにフィットするかは恩塚さんにしかわからないので、私はやるべきことをしっかりやっていきたいです。

林 私はフィジカルやスキルを、パリ五輪までにしっかり上げていかなきゃいけないなと。それはOQTで感じました。あと、トムさんから「キャプテンをやってほしい」と言われているのですが、やるならこれまでのようにポジティブな部分をしっかりと出していきたいです。

 パリの本戦は、簡単に勝てる相手ではない。厳しいところも出していかなきゃいけないとも感じています。ただ、チームがひとつになっていく感覚は、これまでやってきたなかでも感じているので、五輪まで自分も上げていけるようにやっていきたいと思っています。

<了>

◆町田瑠唯×林咲希「スマイル対談フォト&真剣プレー集」>>


【profile】
町田瑠唯(まちだ・るい)
1993年3月8日生まれ、北海道旭川市出身。ポジション=ポイントガード。札幌山の手高3年時に高校3冠を達成。卒業後の2011年に富士通レッドウェーブに加入し、初年度にWリーグのルーキー・オブ・ザ・イヤーを受賞する。2021年の東京五輪は正PGとしてチームを牽引して準優勝に貢献。2022年2月にワシントン・ミスティクスと契約し、日本人4人目のWNBAプレーヤーとなる。コートネーム=ルイ。身長162cm。

林咲希(はやし・さき)
1995年3月16日生まれ、福岡県糸島市出身。ポジション=シューティングガード。精華女子高時代から白鷗大に進学し、インカレ4年時に大会MVPと得点王を受賞。2017年にJXサンフラワーズ(現ENEOS)に加入し、3ポイントシュートを武器にWリーグ屈指の得点力を発揮する。2021年の東京五輪には全6試合に出場。同年秋のアジアカップよりキャプテンを務める。2023年、富士通レッドウェーブに移籍。コートネーム=キキ。身長173cm。

著者:永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka