大谷翔平ら上位打線が脅威のドジャースだが......`photo by Kyodo News

ロサンゼルス・ドジャース通信簿 打者編

 故障による投手陣の離脱者が相次ぎ、苦しい台所事情のなか、ロサンゼルス・ドジャースの打線はどのような状況だろうか。開幕前から注目を集めてきたムーキー・ベッツ、大谷翔平、フレディ・フリーマンのMVPトリオで形成する上位打線は相手に大きなプレッシャーとなっているが、深刻なのは7〜9番の下位打線。選手層の厚さを活かし、新たな戦力の台頭を待ちながらシーズン前半戦を戦うことになりそうだ。

【MVPトリオの脅威を活かせない7〜9番】

 ロサンゼルス・ドジャースの打線は、前評判どおりのプレッシャーを相手チームに与えている。ムーキー・ベッツ(31歳)、大谷翔平(29歳)、フレディ・フリーマン(34歳)のMVPトリオで構成する1番〜3番に関しては、MLB最強と言いきって構わないだろう。

 大谷は偉大な打者ふたりに挟まれる恩恵を受けている。今季は23試合終了時点で11四球とシーズン77四球ペース、敬遠もゼロだ。エンゼルスにいた昨季はしばしば相手投手に勝負を避けられ、91四球、21敬遠だった。投手がストライクゾーンに投げてくる確率も50.4%で、MVPを受賞した2021年の43.5%、2023年の45.4%よりも多い。ここまで得点圏打率は.095とはいえ、打率.356、出塁率.400、長打率.622と好調を維持しているだけに、もっと数字を上げていけるはずだ。

 だが、ドジャースの問題はそんな上位打線と対照的に、7番〜9番の下位打線がまったく打てていないことだ。今季、この打順が多い打者の打率を見ると、ジェームズ・アウトマン(26歳)が.190、エンリケ・ヘルナンデス(32歳)が.182、ギャビン・ラックス(26歳)が.153、クリス・テーラー(33歳)が.053だ。おかげで今季絶好調の1番・ベッツが2巡目以降、打席に立った時に、ランナーが塁上にいないことが多い。

 ロバーツ監督は下位打線について「かなり過去の実績を下回っているが、まだ試合数も少ないから」と今後に期待している。果たしてどうなのか。

 ラックスは2016年のドラフト1巡指名選手で長く期待されてきた。2023年に遊撃手のレギュラーポジションを与えられたが、オープン戦でひざの前十字靭帯断裂の大ケガを負い、シーズンを棒に振った。今季もレギュラーの予定だったが、送球難でキャンプ中に遊撃手から二塁手へと配置換え。開幕を迎えはしたものの前述の打率で、長打も二塁打1本だけ。

 首脳陣にとって悔しいのは、1月にシカゴ・カブスにトレードしたマイケル・ブッシュ(26歳)が5試合連続本塁打を放つなど、打率.328、出塁率.405、長打率.656、6本塁打、15打点と大暴れしていることだ。ブッシュもドジャースでは2019年のドラフト1巡で期待されていたが、昨季昇格させた時には27試合に出て、81打席で打率.167、2本塁打、7打点と結果を残せなかった。そのため、オフにドジャースはFAのテオスカー・ヘルナンデス外野手(31歳)の獲得などで40人枠を空ける必要があり、エンシー・アルモンテ投手(29歳)とともにブッシュを放出、10代の若手ふたりと交換した。

 ブッシュは、2022年はドジャース傘下のマイナーで32本塁打、23年は27本塁打とパワーは証明されていたが、守備は二塁と一塁であまり得意ではない。ドジャースの指名打者は大谷だし、一塁にはフリーマンがいる。そしてその時点で二塁はベッツに任せると決まっていた。守る場所がないからトレードしたのだが、現在、ベッツは遊撃手で、ラックスは二塁に回ったが打撃不振。

 ドジャースは2016年にも同じような経験をしており、現在はMLBでトップ5に入る強打者となったヨルダン・アルバレス(26歳)と契約しながら2カ月でアストロズにトレードしてしまったことがある。ブッシュのカブスへのトレード放出は、それに次ぐ失敗になってしまうかもしれない。

【マイナーで控える次代のプロスペクト】

 とはいえ、こういったことは起こりうる。大切なのは、どれだけほかにも選択肢を用意しているかだ。

 ドジャースは4月16日、右打者の外野手、アンディ・パヘス(23歳)を昇格させた。大リーグ公式サイトの有望株ランキングトップ100に入っている選手で、ドジャース内では3位。2023年は右肩の大手術でほとんどプレーしておらず、2024年も復帰できるかどうか定かではなかったが、オープン戦で17打数8安打、2本塁打と活躍し、首脳陣に印象づけた。開幕は3Aスタートだったが、ここでも62打数23安打(打率.371)、5本塁打、15打点で、OPS(出塁率+長打率)は1.146をマークしている。

 ドジャースはパヘスを将来の正右翼手と見なし、今季は3Aで育成を続ける予定だったが、ベテラン右翼手のジェイソン・ヘイワード(34歳)が腰痛で戦線離脱し、アウトマン中堅手が打てていないことで(特に対左投手)、中堅でパヘス起用を考えた。

 ロバーツ監督はキャンプ中、「才能は確かで、このレベルでプレーできるし、今季いずれかの時点で昇格しても驚かない」とパヘスについて話していたが、早くもその機会が訪れた。

 ミゲル・バルガス(24歳)も控えている。父親はラザロ・バルガス。1992年のバルセロナ五輪で五輪史上初のサイクル安打を放ち、2度のオリンピックで金メダルに貢献したキューバの英雄だ。ミゲルは今3Aで打率.286、3本塁打、17打点と虎視眈々と昇格の機会を伺っている。

 ドジャースが近年強かった理由のひとつは、クリス・テーラー(33歳)やエンリケ・ヘルナンデス(32歳)のような複数のポジションを守れるユーティリティ選手が大暴れしていたからだ。WAR(打撃、走塁、守備を総合的に評価して代替可能選手=Replacementに比べてどれだけ勝利数を上積みしたかを統計的に推計した指標)では、テーラーは2017年に4.6、2018年は3.6、ヘルナンデスは2018年に2.8だった。WARは一般的に4点台であればオールスター級、3点台は好選手、2点台は先発級と見なされる。しかしふたりともここ数年は数字が下降気味で、年齢も30代であることを考えると、今後は多くを望めないのかもしれない。それでもいろんなポジションを守れるし、野球巧者ではある。

 ベテランか、若手か。7番〜9番問題を解決するのは誰か? 4月、5月は現有戦力の奮起に期待する。それでダメなら6月、7月はトレードなど他の手段を講じることになる。

 MLBではどの球団でも、オフに描いた青写真のように進まないことが多い。アトランタ・ブレーブスはスペンサー・ストライダー投手(25歳)、クリーブランド・ガーディアンズはシェーン・ビーバー投手(28歳)と、肘のケガでエースを失った。それでも両チームはここまで14勝5敗、15勝6敗と好成績を残している(現地4月20日時点)。

 強いチームは、層が厚いのだ。ドジャースもMVPトリオを筆頭に1番から6番は良いし、グラスノー、フィリップスと投手陣も牽引車的存在がしっかりしている。今は12勝11敗と苦しいが(それでもナ・リーグ西地区首位)、戦いながらチームとしての機能を高めていければいいのである。

「ドジャース投手陣の苦しい台所事情」はコチラ

著者:奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki