U23アジアカップの決勝でU−23日本代表はU−23ウズベキスタン代表を1−0で下し、7月に開幕するパリ五輪本大会にアジア王者として出場することが決まっている。パラグアイ、マリ、イスラエルと同じグループだ。

「オーバーエイジ(OA)の3人は誰がいいか?」

 さっそく、そんな議論が世間を賑わせている。意見はさまざまで、だからこそ話は盛り上がる。もちろん、オリンピックはFIFA主催大会ではないため、派遣義務がないクラブとの交渉が必要で、簡単に呼べるものではないのだが。

 個人的には、「OAを招集すべきではない」という立場である。

 その理由は単純に、「本大会出場権を勝ち取った世代の選手が経験すべき」だからである。彼らはオーストラリア、韓国、サウジアラビアなども逃した切符を自らつかみ取った。そして将来を考えた場合、彼らが舞台に立つことが先行投資になる。北京五輪のメンバーのように、たとえ惨敗しても挫折が選手を啓発することもあるだろう。さらに言えば、選びたい選手が選べるわけではないOAが、過去には足を引っ張ったことさえあるからだ。

 一方で、「メダル」を考えた場合は、OAが補強になる可能性は高く、そこにアプローチするのも当然か。


U23アジアカップを制したU−23日本代表の選手たち。このなかから五輪代表に選ばれるのは? photo by Kyodo news

 決勝のウズベキスタン戦、日本は今大会を通じて初めて劣勢に立たされた。マンマークで対応してきた守備に対し、出どころを抑えられてしまい、ろくにボールをつなげない。局面での戦いで負けていた。

 たとえばMF松木玖生は、序盤からアブドゥラウフ・ブリエフのマークに遭い、ボールロストを連発。ほとんどパスを受けられないでいた。自慢のキープ力も、腕の使い方が悪くファウルになるだけ。守備のところも、技術レベルの差で後手に回っていた。

 相手の戦い方に対し、チームとして対応できなかったことも問題と言える。徐々にペースを奪われながら、DF木村誠二はよく跳ね返し、GK小久保玲央ブライアンはゲームMVP、そして大会MVPにも匹敵する安定感を見せながら、守勢のまま。すでにウズベキスタンは主力3人が所属クラブに戻った。「相手の消耗を想定して、終盤の1点につなげた」とも言えるが、小久保のPKストップがなかったら......。

【劣勢でも立て直せる選手とは?】

 率直に言って、今大会のチームで本大会のメダルを狙うのは難しいだろう。

 そこで、ひとつの思考実験として「もし〇〇が五輪代表に入ったら改善できるか?」を考えることで、今回のU−23日本代表に足りなかったものを整理してみたい。

 もしかすると、それは選手以上に大岩剛監督の話かもしれない。ウズベキスタンのほうが、チームとしての再現性を感じさせるプレーデザインで、監督の色合いも感じさせていた。大会を制した指揮官の交代は非現実的だが、それはこの大会を戦った選手たちも同じはずだ。

 FW、MF、DFでひとりずつOAを補強できたら、チームは単純にパワーアップするだろう。もし誰でも選出可能なら、FWは上田綺世(フェイエノールト)、MFは守田英正(スポルティング・リスボン)、DFは板倉滉(ボルシアMG)を推したい。自分たちのリズムではなくてもシュートを叩き込み、気の利いたプレーで試合の流れを引き戻し、劣勢でも立て直せる、という3人だ。

 FWは大会終盤に復調の兆しのあった細谷真大に期待したいし、藤尾翔太はユーティリティが魅力だろう。しかし、現実的にメダルを考えるなら、上田の得点力は捨てがたい。ストライカーは個の差が出るポジションだ。

 MFは遠藤航(リバプール)が最有力だろうが、小久保と並んで大会MVP候補だった藤田譲瑠チマに同ポジションは託すべきだろう。一方で、荒木遼太郎は逸材だし、山本理仁もセンスを感じさせるが、足りないのは攻守を連結させる人材だ。守田が入ることで、攻守のスキルは上がるはずだ。

 DFは、今大会も高井幸大、木村誠二が健闘し、右サイドバックの関根大輝は逞しく成長を遂げ、半田陸も才能は申し分ない。左サイドバックはフル代表でも人材に苦しんでおり、むしろこの世代の台頭に託すべきだろう。一方でディフェンスリーダーとなれる実力者が求められるとすると、冨安健洋(アーセナル)は格好の人材だが、ケガの多さが懸念材料だけに、経験を重ねる板倉が適任とした。

 さらに、本来はパリ世代の久保建英(レアル・ソシエダ)が入ることで、攻撃の幅は広がる。サイドには平河悠、山田楓喜、佐藤恵允だけでなく、今回の招集が見送られた斉藤光毅、三戸舜介(ともにスパルタ)など人材豊富だが、久保はプレーインテリジェンスと経験で凌駕している。

 ただし、今シーズンの久保は試合数が多すぎる。アジアカップ参戦後はコンディション不良で、国内リーグ10試合(2試合は控え)でわずか1点(参戦前は6得点)。本人は東京五輪のリベンジもしたいはずで、欧州で戦える利点もある。しかし大きなケガも心配で、来季を考えたらクラブの意思を尊重すべきだろう。

 五輪代表は、今回のU−23日本代表とはまったく違うチームになるかもしれない。メダルにこだわるなら、それがあるべき姿とも言える。ただ、チームは単純に足し算にならない。有力な選手が入ると、そこに依存するような形が生まれ、今までのバランスは崩れる。チームは生き物なのだ。OAという幻想に、そこまですがるべきではないだろう。

著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki