ヨーロッパリーグ(EL)決勝。レバークーゼンは今季のブンデスリーガの優勝チーム。対するアタランタはセリエAで現在5位を行くチームだ。しかもレバークーゼンは今季開幕以来、無敗記録を続けている話題性の高い、いまが旬のチームである。話題性の高さで言えば、シャビ・アロンソ監督の存在もしかり。レアル・ソシエダ、リバプール、レアル・マドリードなどで活躍したシャビ・アロンソは、ジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)の後釜と言われた元名選手。トップチームで采配を振るのはレバークーゼンが初であり、欧州では珍しい大卒のインテリとしても知られる聡明なバスク人だ。文字どおりのスター監督候補生が決勝を制すれば、ニュース性はいっそう増す。

 戦前の注目はレバークーゼンに傾いていた。英国ブックメーカー各社もレバークーゼン優位の予想で一致していた。

 つまり、シャビ・アロンソとレバークーゼンは、負けられない側に立たされることになった。一本勝負の決勝において、少なからず影響が及ぶ要素である。チャレンジャーに立たされたほうが気楽にプレーできる。立ち上がりから試合は下馬評とは異なる展開になっていた。


ヨーロッパリーグを制し、喜びを爆発させるアタランタの選手たち photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 アタランタが試合を優勢に進める流れのなかで、先制点が生まれたのは前半12分だった。CKのボールが右端に位置していたトゥーン・コープマイネルス(オランダ代表)の左足に収まった瞬間、ダビデ・ザッパコスタ(イタリア代表)はインナーラップ(内側に走り込む)した。その鼻先にボールが出ると、マイナスの折り返しを敢行。ゴール前に鋭いボールを差し込んだ。

 5バックで守りを固めるレバークーゼン。中央の守備は堅いはずだったが、マイナスのボールには脆さを見せる。マーカーとキッカーを同時に視界的に捉えることが不可能なので、瞬間、攻撃側の選手はフリーになりやすい。

 裏から走り込んだアデモラ・ルックマン(ナイジェリア代表)が、エセキエル・パラシオス(アルゼンチン代表)のマークをかい潜るように左足で先制弾をマークした。

【3−4−3的だったアタランタ】

 両軍の力が互角なら、1点を奪われた側はここから押し返すものだ。実力で上回るチームなら一方的に攻め続ける。しかし、レバークーゼンはそれができなかった。後手に回り、手をこまねいた。大袈裟に言えば、それはタイムアップの笛が鳴るまで続いた。

 両者の違いは、この先制点のシーンに象徴されていた。アタランタがサイドを有効に使って横から崩そうとしていたのに対し、レバークーゼンの攻撃は正面に偏った。初めて外からの折り返しでチャンスを作ったのは、ルックマンに追加点を許し、0−2で迎えた後半14分という遅さだった。アミン・アドリ(モロッコ代表)の折り返しから、ジェレミー・フリンポン(オランダ代表)がシュートを放ったシーンだが、これもサイド攻撃を意図的に企てたのではなく、たまたまボールが左に流れただけという感じだった。

 3−4−2−1(アタランタ)対3−4−1−2(レバークーゼン)。違いはそれぞれのアタッカー3枚の関係に起因する。絶対的な幅が広かったアタランタは、3−4−3的であった。それに対し、レバークーゼンは縦長で、サイドアタッカーがウイングバック各1人しかいなかった。相手ボール時には5−4−1(5−2−3)で、構えにくくブロックを築きにくい状態に陥ったため、ボールを失うとかなりの頻度でピンチを招いたのだった。

 先制点をマークしたルックマンは、先述の通り前半26分には中央から右足でミドルシュートを決め2点目をゲット。後半30分にも同じ態勢から今度はボールを左に持ち代えミドルシュートを決め、ハットトリックを達成した。キャプテン格で本来、中盤の要となるマルテン・デ・ローン(オランダ代表)がケガで欠場しなければ、先発が回ってこなかったかもしれない選手である。ラッキーボーイがEL決勝史上初となる偉業を打ち立てたところに、アトランタに運を感じた。

 想起したのは1996−97のチャンピオンズリーグ(CL)決勝、ユベントス対ドルトムントだ。下馬評で上回ったユベントスは0−2でリードを許すも、アレッサンドロ・デル・ピエロのゴールで2−1とし、追い上げムードを加速させていた。同点は時間の問題かと思われたその時だった。交代で入ったばかりのラース・リッケンが、ファーストタッチで1−3と突き放す駄目押しゴールを決めた。オットマー・ヒッツフェルト監督の采配が光ったというより、ドルトムントに運を感じた瞬間だった。 

【スペインを抜いたイタリア】

 3−0。番狂わせとまでは言わないが、もう一度戦えば、違った結果になっていたかもしれない一戦だった。ELはCL以上に、顔が見えにくい相手との戦いになる。下馬評は覆りやすい。当初、大本命に挙げられていたリバプールが準々決勝でアタランタに不覚を取った理由とも通底する。ユベントス、インテル、ミラン、ナポリ、ラツィオ、ローマはともかく、人口12万の地方都市ベルガモに本拠地を置くアタランタは、少なくともイタリア以外の国の人にはまだまだ謎めいて見える。

 まさに伏兵ながら好チーム。そのアタランタが5位に鎮座する国内リーグ=セリエAが、欧州でポジションを上げるのは当然かもしれない。今季、イタリアはついにスペインを抜き、UEFAランクでイングランドに次ぐ2位に上昇した。2位の座に就くのは2006年以来18年ぶり、スペインを抜いたのは1999年以来、25年ぶりの出来事となる。5月29日(現地時間)に行なわれるカンファレンスリーグ決勝(オリンピアコス対フィオレンティーナ)の結果次第では、イングランドにもポイントで肉迫する。欧州の盟主の座も狙えようかという復権ぶりである。

 逆に元気がないのはスペインだ。CLでレアル・マドリードが圧倒的な強さを発揮しているにもかかわらず、リーガ全体のレベルは下がっている。プレミアもひと頃ほどではない。

 一方、イタリアとともに元気がいいのはドイツだ。現在4位ながら、スペインの背中は見えている。6月1日に行なわれるCL決勝レアル・マドリード対ドルトムントは、UEFAランク3位と4位を懸けた戦いとなる。欧州は、イングランド、スペインの2強時代から、4すくみの時代に移ろうとしているのかもしれない。

著者:杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki