林陵平のフットボールゼミ

ユーロ2024のグループリーグ屈指の好カードと注目されたスペインvsイタリアは、スペインが1−0で勝利。両チームともハイレベルながら、スペインの出来のよさが目立ったと人気解説者の林陵平氏は言う。両チームの戦術を分析してもらった。

【動画】林陵平のスペインvsイタリアレビュー フルバージョン↓↓↓

【両ウイングとペドリがスペインの強み】

 まずは両チームの戦い方を頭に入れておきたいと思います。

 スペインの初期配置は基本的に4−3−3です。ボール保持をしてゆっくり攻めながら、両ウイングのニコ・ウィリアムズと、ラミン・ヤマルの質的優位を生かしたり、中盤のロドリ、ファビアン・ルイス、ペドリの関係性で攻めていきます。


スペインはユーロ2024で注目されたイタリア戦を1−0で勝利 photo by Getty Images

 4−3−3ですけど、状況に応じてロドリとファビアン・ルイスがツーボランチ気味になって、ペドリが相手のライン間(DFとMF)を取る4−2−3−1になり、相手に応じてうまく立ち位置を調整していたと思います。

 またセンターフォワードのアルバロ・モラタにキャプテンマークを渡したというのは、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督がすごくうまくチームをマネージメントしていると思います。

 モラタは優しい性格の持ち主で、すごく周りに気を遣う使う選手。それで決定力不足と言われがちなんですけど、エースストライカーとしてキャプテンマークを渡したことによって、メンタル的な部分でモラタが今気持ちよくプレーして、さらに輝いている印象を受けます。

 一方、イタリアは初期配置は4−3−3なんですけど、攻撃になると左肩上がりで、左サイドバック(SB)のフェデリコ・ディマルコが高い位置を取って、後ろは3枚に。前は左のロレンツォ・ペッレグリーニが中に入っていて、インサイドハーフのニコロ・バレッラが下りて、ジョルジーニョと2ボランチを組みます。この3−2−5という形を採用しています。

 イタリアも監督がルチアーノ・スパレッティに代わり、ボール保持もすごく大事にしますし、守備時にもすごく陣形をコンパクトにして、チームとしてしっかり戦うのが特徴かと思います。

【スペインがゆっくり攻める意味】

 試合は立ち上がりからバチバチで、球際の攻防も、攻守の切り替えのところもそうですが、両チームともクオリティが非常に高かかったです。ユーロ2024はレベルが高いですし、「面白いな!」っていうのを実感しました。

 開始2分で、早速ニコが1対1を仕掛けてジョバンニ・ディ・ロレンツをかわしてクロス。ペドリがヘディングシュートを放つなど、立ち上がりからスペインの攻勢が目立ちました。

 スペインのイタリアの守備に対しての狙いを説明します。基本的にイタリアは、自陣では4−1−4−1でブロックを組んでいました。1トップのジャンルカ・スカマッカがスペインのふたりのセンターバック(CB)を見るので、どちらかのCBが前にボールを持ち運ぶシーンが多かったです。

 アンカーのロドリに対しては、スカマッカがパスコースを消す役割をしていたんですけど、そうなった時はファビアン・ルイスがロドリの脇に下りてきてDFラインからボールを引き出しました。一方ペドリは、ジョルジーニョの脇のところから2ライン間にどんどん顔を出す役割が多かったと思います。

 あとはニコとヤマルの両ウイングが、大外に張ったところからの質的優位を見せたんですけど、右のヤマルに対しては右SBのダニエル・カルバハルがサポート。左はニコが中に入った時は、左SBのマルク・ククレジャが外側の高い位置に、ニコが外に張っているなら、ククレジャが少し内側を取るなど、SBとウイングの関係が魅力的でした。

 スペインがいいのは、ボールを保持した時にゆっくり前進することによって、チーム全体のポジションバランスが整っていることです。その状況で敵陣に相手を押し込んで閉じ込めているので、ボールをロストした時の即時奪回のスピードが速いです。

 個々の攻守の切り替えは大事なんですけど、それ以上にポジションバランスがいい。ゆっくり攻めて全体のバランスが崩れてないので、守備時にもボールに近い選手たちがすぐに反応できるようになっています。長いボールが多くなると、どうしても自分たちの陣形が間延びしてしまうんですけど、スペインはチーム全体でバランスよく動いていることで、よりカウンタープレスがかかりやすいんですね。

【プレスの形を使い分ける】

 スペインというと、ボールポゼッションとか、ボールを握った時のパスワークが注目されがちなんですけど、この大会においてはプレッシングが本当にすばらしいです。ハイプレスがずば抜けていいのが、チームとしてうまくゲームをコントロールできている部分です。

 イタリアもボールを丁寧につないでいくんですけど、なかなか前進できませんでした。ディロレンツォ、アレッサンドロ・バストーニ、リッカルド・カラフィオーリの3枚に対して、スペインがモラタとペドリの2枚で行くと、数的優位を保てるので、ディロレンツォやカラフィオーリが前進できます。

 ところが、スペインはペドリが少し前に出て4−4−2になる時もあれば、ペドリがMFのジョルジーニョを捕まえて、ディロレンツォとカラフィオーリに対してはニコとヤマルが捕まえに行く形もある。これで3対3の数的同数になります。

 こうなると、イタリアは両サイドのディマルコとフェデリコ・キエーザが空いてくるわけです。すごくフリーな状況なんですが、ここにボールが入った時に、例えばククレジャなど間合いの詰め方が非常にうまい。これは最初から前に捕まえに行ってしまうと、背後に相手のCFのスカマッカが流れたり、キエーザ自身にも背後を取られる場面があるんです。だけど、ククレジャは少し間合いを空けておいて、キエーザにボールが出てきた瞬間にプレスをかける。右のカルバハルもうまかったです。

 だからイタリアは、通常であればウイングバックが位置的優位を取れるはずなのに、ククレジャとカルバハルのアプローチが本当にうまかったので、なかなか前進できませんでした。

 こうしたプレスの使い分けですよね。ククレジャとカルバハルの相手ウイングバックの捕まえ方もそうですし、カラフィオーリとディロレンツォに対してそのまま4−3−3でハイプレスしたり、それが無理な時には状況に応じてペドリが前に出て4−4−2でうまく牽制をかけるとか。

 中盤もジョルジーニョに対してファビアン・ルイスが捕まえに行き、両ウイングが中に絞ったダイヤモンドみたいな形になる時もある。だから4−3−3、普通の4−4−2、4−4−2の中盤ダイヤモンド。そのあたりを連動して使い分けられるのが、スペインのすごさだと思います。

 相手からしたら、最初プレッシャーのかけ方はこうだったけど、次は違う形で来られるとなると、迷いも生まれてなかなかうまく前進できない。今後大会が進むにつれて、スペインのハイプレスに対して相手がどう前進できるかも見ていくと、ユーロをより楽しめると思います。

【後半選手交代もうまくいかなかったイタリア】

 イタリアは後半の頭から、ダビデ・フラッテージとジョルジーニョを下げて、アンドレア・カンビアーゾ、ブライアン・クリスタンテを入れてきました。

 クリスタンテはアンカーに入るかと思ったんですけど、バレッラをアンカーに下げて、クリスタンテを前に入れましたね。このバレッラとクリスタンテの位置が、なぜこうだったのかなと少し疑問でした。

 というのも、クスタンテは前に出てスペインの2CBにプレッシャーをかけたあと、後ろに戻ってくる作業があったんですが、それならバレッラのほうが運動量があって戻るスピードは速い。クリステンテもアンカーにいたほうが防波堤になれるし、ビルドアップの出口になれる選手でした。だから、逆でもよかったのではないかなと。

 実際バレッラとクリスタンテは後半あまりうまくいかず、特にバレッラは消えてしまいましたね。でも、やっぱりスパレッティ監督ですから、何らかの狙いはあったと思うんですが。これが監督の難しいところで......。

 スペインは、ククレジャがスーパーでした。特に、スペインが押し込んだあとイタリアがカウンターに出るという時、ここで中に出て潰すことが多かったです。

 自分のいたスペースを空けて飛び出していくので、中に絞ってかわされると左後ろの広大なスペースを使われることになります。それでも潰しにいくタイミングの取り方がすばらしかった。スペインはアレックス・グリマルドという、今季レバークーゼンで活躍したいい選手もいるんですけど、今のスペイン代表では、ククレジャは外せない選手ですね。

 スペインが後半よりよくなった部分は、ペドリです。スペインの狙いはボールを動かしながらウイングを使う部分もあるんですけど、加えてとにかくペドリにどれだけボールを預けられるかでした。やはりペドリにボールが入った瞬間が攻撃のスピードアップの合図でしたし、前半と比べて後半は立ち上がりから、ボールをよく引き出すようになりました。

 イタリアの守備は、前半みんなが頑張っていたんですけど、多分スペインの攻撃がボディーブローのように効いてきた。どうしても一人ひとりの守る範囲は狭くなってきたなかで、ペドリにボールが入るようになったと感じます。

 後半はずっとスペインペースで、イタリアもカウンターを繰り出すことがあまりできませんでした。特にペドリがボールに触る、ヤマルとニコが1対1を仕掛け、カットインからシュートもあって、あわやゴールという場面もたくさん作りました。

 イタリアGKのジャンルイジ・ドンナルンマのシュートストップ能力がなかったら、何点入っていたかわからない。スーパーセーブを何度か見せていましたね。

 というわけで、前半は拮抗していましたが、90分間通してはスペインの強さを感じるゲームでした。チームとして攻守4局面がすべて整備されていて、グループ戦術のなかに個人の質が乗っかっています。

 スペインは優勝候補ですね。強いです!

著者:text by Sportiva