小中学生の全員を対象に学校給食費を無償化している自治体は、全国1794自治体中547自治体と約30%にのぼり、2017年の4.4%から大幅に増加した。2023年9月1日時点のもので、文部科学省が6月12日に公表した調査結果より明らかとなった。

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急増の背景には、昨今の物価高騰の影響が色濃い。同調査では、全員無償化のみならず多子世帯や所得など何らかの条件を設けて無償化を実施している722自治体のうち、9割の652自治体が、実施に至った経緯及び政策目的として「保護者の経済的負担の軽減、子育て支援」と回答している。無償化には、予算の確保や自治体格差など様々な課題があるため、地域差があるが、この状況を給食に関わる事業者はどう考えるのか。5月から6月にかけて開催された給食関連団体の会合で聞かれた声をいくつか紹介する。

学校給食施設に食材を届ける卸企業が集う日本給食品連合会の中込武文会長(甲信食糧社長)は、「青森県では小中学校の給食費が無償化され、東京都でも給食費の2分の1を補助する動きがあり、全国1700の自治体のうち30%が無償化に取り組みつつある。この数字はいずれ伸びていくのではないか。子どもたちの医療費の無償化は、最初は小さな数字だったが、今では当たり前のようになりつつあるからだ」と分析する。

続けて、「そうした変化の中で注意しなければならないのは、給食がコストの議論になることと、食材の質が落ちることだ」と警鐘を鳴らす。

「日本という国は資源が少ないと言われるが、子どもに対する教育が資源だと考える。それを支えるのが学校給食であり、食材である。昨今の社会環境の変化により食材が高くなっているが、それに連動して給食費が上がっていないことが残念だ。給食費4000〜5000円は少し安すぎるのではないか。給食費が上がることで、国産商品もより活用される。無償化には様々な課題があるが、栄養を考えられた給食を、より品質の高いものに、安定的に提供できればと思う」と語った。

学校給食向け商品の開発や食育活動の推進などを行う関東給食会の平井昌一理事長(日栄物産社長)は、「給食の無償化は好ましいことだが、食育の観点でいくと、献立の食材費や経費が上がる中で満足できる十分な食育をしていくためには、給食費の予算が少ないと考える。物価上昇分を自治体が負担する仕組みなど給食費増額が必要だ」と語った。

ドレッシングやワカメを使った食品を開発、提供する理研ビタミンの山木一彦社長は、「品川区では給食を無償化しており、さらに今年は食材料費を値上げしてくれた。本当にありがたい。こうした取り組みがあれば、給食のレベルアップが図られ、食品メーカーもより良いものを給食現場に届けられる」と語った。

ハンバーグやデザートなどの食品を開発、提供する日東ベストの塚田莊一郎社長は「給食無償化については賛否両論、様々な意見がある。学校における食育の推進を図るという、そもそもの給食の目的を実現するための手段として、無償化は個人的にはありだと思う。だが、一方では、子どもたちが健全な食生活を営むことができる判断力を培い、望ましい食習慣を養うこと、そして学校給食を豊かにし、明るい社交性及び協同の精神を養うこと、という学校給食法に書かれている学校給食の目標を実現するためには、むしろ自治体による給食費の一部負担という形もあっても良いのではないかとも思う。異次元の少子化対策の1つとして、議論は始まったばかりだ。我々も含めて議論は尽くされていないことが多々ある」と見解を述べた。

続けて、「子どもたちが健やかに成長するため、我々大人ができることがある。これからも、メーカーは食材で学校生活を豊かにできるよう、食材の開発や安定して供給できることに引き続き注力していく」と語った。

2024年6月は、1954年6月3日に学校給食法が公布されてちょうど70年の節目にあたる。物価高騰などで給食の安定供給が揺らぐなか、従来どおり給食の質を保つために議論を尽くすときである。