「あなたに合う場所は必ずある。絶望しないで」と、子どもたちに伝えたい思いを語るこまつさん


学校生活がうまくいかない子と親へ

 新年度が始まって約2カ月。「学校が合わない」と違和感を覚えたり、行きたくないと訴えたりする子も少なくない。学校生活や進路に悩む10代が主人公の小説を発表し、自身も高校中退の経験がある児童文学作家こまつあやこさん(37)に、当時の気持ちや、今悩む子どもや親への助言を聞いた。


母が選んだ私立校 高1の6月末で…

 母が選んだ私立の中高一貫女子校を数校受け、そのうちの一つに進みました。でも、入学して1、2カ月たつと「合わない」と感じました。大学受験を見据えて早速勉強する子たちと、おしゃれに夢中な子たち。この2タイプしかいないように見え、どちらにもなじめないと思ったのです。仲の良い子はいましたが、ずっと作り笑いをしているような感覚。部活も途中で辞めてしまった。「自分で選んだ学校でないからだ」と考えるようになりました。

 「高校に上がれば何か変わるはず」と、中学3年間何とか頑張りました。でも何も変わらず、次第に体調も悪化。電子レンジに閉じ込められ、あと3回転(3年)させられるように思え、燃え尽きました。

 中退に反対していた母を説得してくれたのは、思い詰めた私の気持ちを聴き取ってくれたカウンセラーでした。それでも高1の6月末で中退した後、母から「娘が学校に行っていないのが恥ずかしくて、友達にも会えない」と言われたことは、ショックでした。

図書館に通い再受験 親友もできた

 翌年入り直した学校も私立の女子校でしたが、こちらは伸び伸び過ごせる環境でした。実際に訪れ、先生方とも面談、生徒たちの雰囲気も見て受験を決めました。入学後、仲良くなった子には「一度、別の高校に入ったんだ」と話しました。ずっと欲しかった親友もでき、受験し直して良かったと心から思いました。

4月に刊行した「雨にシュクラン」を手にするこまつあやこさん。主人公も高校を中退して親友に出会う


 今、学校生活がうまくいっていない子どもたちには絶望しないで、と伝えたい。私は学校に行かなくなってからほぼ毎日、図書館に行きました。本を読み、共感したり新しい価値観を学んだりして、世界が開かれていく感覚がありました。

塾も楽しくて 合う場所は必ずある

 再受験のために通った塾で自分らしくいられ、3人いたクラスメートと楽しく過ごせたことで「場所が変われば私にも友達ができる」と救われました。たわいない話を何時間も聞いてくれる優しい先生の存在もありがたかった。自分に合う場所は必ずあります。「学校での自分」を知らない人と話すことで、心が楽になることもあると思います。

 親御さんには、子どもが思い描いていたルートを外れても、その子のことを諦めないでいてほしい。その子らしい人生にたどり着くルートはたくさんあり、一緒に探してあげてほしいです。私の母は今でも「あの時本当に大変だったのよ。お金もかかったし…」と言います。でも、こうも言ってくれます。「あの時、やり直して良かったね」と。

識者「子どもの感情 尊重して」

 文部科学省の調査では2021年度、小中学生の不登校は24万人を超え、過去最多だった。不登校の問題に詳しい大東文化大の山本宏樹准教授(教育社会学)は「増加は世界的な趨勢(すうせい)。学校が『時代遅れ』になり、我慢して通う価値を見いだしにくくなったことが根底にあるのでは」と分析する。

 学校との相性もあり、移る選択肢を取れること自体は大切という。ただ、学校に行けない要因は複雑で、学校を変わっても不登校になる場合もある。「保護者が子の感情を尊重し、理解しようとすることが成長と解決につながる。不登校の子を持つ親同士が連携して情報交換しながら、子ども自身が試行錯誤して人生を再設計する道を応援してあげてほしい」と助言する。

こまつあやこ

 1985年、東京都生まれ。公共図書館や学校図書館で司書として働きながら主に10代向けの小説を執筆。4月刊行の「雨にシュクラン」(講談社)は、高校を中退した主人公がアラビア書道を通じて親友と出会う物語。神奈川県藤沢市在住。

こまつあやこ「雨にシュクラン」(講談社)