育休取得者が職場を離れている間、その業務を引き継ぐ同僚に「手当」を支給する企業が出てきた。男性による育休取得が進まない中、休むことで周囲に迷惑がかかるといった不安を少しでも解消し、育休を取りやすい環境づくりにつなげる狙いだ。

7カ月の育休を取り、節分の日に2人の子どもと遊ぶ元山悠希さん=愛知県北名古屋市の自宅で(本人提供)


「育休職場応援手当」最大で10万円

 「新生児から首が据わってハイハイができるようになって、少しずつ成長していく。そんな姿を間近で見ることができて、幸せだった」

 損保大手の三井住友海上火災保険(東京)の名古屋損害サポート部で働く元山悠希さん(40)は、昨年7月に第2子の長男が生まれた後、7カ月の育休を取得した。同社は昨年、男女問わず社員が育休を取ると、同僚に一時金を払う「育休職場応援手当」を創設。職場の規模や育休期間などに応じ、1人あたり3000〜最大10万円で、7月から支給を始めた。

 元山さんは2022年に長女が生まれた際にも、1カ月の育休を取得。「ようやく育児のリズムがつかめてきたときに仕事復帰となった」。年子で2人目が生まれ、育児の負担が大きくなるため、より長期間、育休を取ることを決めた。

 妻(36)は生後間もない長男の授乳に追われており、1歳すぎの長女の離乳食作りや遊び相手などをすべて担った。2人の育児は想像以上に大変で、夜泣き対応で妻とともに寝不足に悩まされた。

男性の取得を義務化、さらに後押し

 フリーランスで働く妻は、産後3カ月から徐々に仕事を再開。元山さんは妻の仕事時間を確保するため、週5回は子ども2人を連れて近くの子育て支援センターに通った。

 子育ては毎日同じことの繰り返し。子どもたちはもちろんかわいいが、ずっと一緒にいて自分の時間が取れないつらさも味わった。「子育ての喜びと大変さの両方を理解することができた。妻と一緒に乗り越えたことで夫婦仲も深まった」と笑顔を見せた。

 人事部の担当者によると、同社はすでに男性社員の1カ月の育休取得を義務化するなど、子育て支援に力を入れてきた。「1カ月を超える長期の取得を促すために、職場全体で出産、育児を祝う制度として同僚への手当を考えた」という。

国も「同僚手当」への助成を拡充

 ほかに大和ハウス子会社の大和リース(大阪市)は、育休の取得期間によって減額される賞与分を原資として、それを同僚に振り分ける「サンキューペイ制度」を新設。昨冬の賞与から分配を始めた。

 国も仕事と育児の両立支援として、同様の取り組みを後押しする。育休を取った社員の同僚に手当を支給する中小企業に対し、1月から助成金を大幅に拡充している。

産後パパ育休創設も、まだ不十分

 厚生労働省によると、2022年度の育休取得率は女性80%に対し、男性は17%だった。取得期間も、男性は過半数が2週間未満(2021年度)と、女性と比べて圧倒的に短い。

 パーソル総合研究所が昨年1〜2月、子どものいない20〜40代の男性約350人に聞いた調査では、約7割が子どもが生まれたら育休を取りたいと回答した。ただ、取得する上で気になることは、「同僚に迷惑がかかる」が最多の39%だった(複数回答)。

 日本総研上席主任研究員の藤波匠さん(58)は、「産後パパ育休」の創設などにより、男性の育休取得率は上がっているが、まだ不十分だと指摘。「長期に休める人員配置や休業中の金銭的な支援など、さらなる取り組みが必要だ」と指摘する。