本来はやるのが当たり前なはずなのに、父親が育児をすると世間から「イクメン」と特別視されてきた日本の社会。「当たり前」の実現がなお道半ばの状況で、かわいいけれど手のかかるわが子とともに、パパたちはどう生きていくのか―。自身も昨秋に第1子が生まれたばかりのさいたま支局の記者が、埼玉県内の先輩パパたちを訪ねます。

システムインテグレータ社員 伊藤達哉さん(29) 

3月に生まれたばかりの次女の世話をする伊藤さん。5月から育休に入った=埼玉県内で(本人提供)


今、二度目の育休を取っています

 間もなく2歳になる長女と、今年3月に生まれたばかりの次女の子育て中で、今月から2回目の育児休業を取っています。

 「子どもは何人ほしい?」。思えば、交際中に妻とそんな会話をしたことが結婚のきっかけでした。育休については明確に考えていたわけではないですが、会社では上司が取得しており、言い出しにくい雰囲気はありませんでした。長女が生まれる前に共働きの妻と話し合って、私は出産2カ月後から5カ月間、取ることを決めました。

 当時の担当は、顧客の事業の実現可能性などを人工知能(AI)で分析する業務。上司や同僚の協力で、育休に入る数カ月前から、私が主の担当となる案件は抱えないよう仕事が調整されました。さらに、復帰後に取り組む案件の予定もおおむね決まった状態で育休に入ることができました。

妻と子育ての価値観を共有できた

 振り返ると、育休を取ったことで、妻と子育てに関する価値観を共有できたと感じます。例えば「保育園にゼロ歳から通わせるかどうか」。しばらく話し合い、通わせてみようとなりました。

保育園の送り迎えなど日々の育児を語る伊藤さん=さいたま市中央区で


 すると、子どもが家では教えられない新しい遊びなどを覚えて帰ってきます。また、保育園が子どもを外へ散歩や遊びに連れ出すことも、当初は「大丈夫かな」と心配しましたが、子どもが成長しているのを感じます。第1子なので、私たちだけでは「守り」の育児になってしまったでしょう。通わせて良かったです。

 育休が明けても長女の保育園への送り迎えは私の役割。迎えに行くと、私を見つけ「パパ」と駆け寄ってきます。育児で一番好きな瞬間です。仕事終わりの自分が「パパ」に切り替わる感覚があります。

仕事は残さない!生産性がアップ

  会社はフレックスタイム制や在宅勤務など育児中の社員らを支援する制度が充実していて、それらを駆使することでなんとか育児と仕事が両立できているかなと思います。

 自分自身の仕事の生産性も上がりました。以前は残った仕事を突発的な残業でカバーしようとしたこともありましたが、育児がある今は選択肢にしません。短時間で仕事し、後に残さないようになりました。同僚にも育児中の人がおり、お迎えの時間に合わせて勤務時間を調整するなどの仕事の仕方が参考になっています。自分も働き方の工夫を同僚らに伝えています。

 育児中の男性たちには、「お疲れさま」とともに、妻の負担を減らすことを忘れないように、と伝えたい。妻には出産に伴う心身の負担もあるので、家事や育児は半々でなく、夫が7割担うぐらいの意識でちょうどいい。本当に実践できているか、忙しさの中で意識から消えていないか、自戒を込めて思うことです。 

主役を目指しスタートダッシュを 

 子どもと過ごす時間は大人にとって自由ではありません。いらいらした時には「子どもを遊ばせているのではなく、子どもに遊んでもらっている、と考え方を変えるといい」と先輩パパに教わり、実践しています。「この時間が大切だ」と感じられます。

 これから子育てを迎える人には、できるだけ早い段階から育児を担うことをお勧めします。おむつ替えや入浴などの技術をしっかり覚えられます。ぜひ「育児の主役を目指す」気持ちで、スタートダッシュを決めてください。

妻からひとこと 

伊藤由芽さん(29) パパのフレキシブルな働き方のおかげで、パパとママの2人が主役の育児を実現できていると感じます。育児休業は夫婦2人で取ったことで、育児の価値観をつくり上げる良い機会でしたし、子どもの成長を一緒に見られたことがとても良かったです。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年5月5日