発がん性が指摘されている化学物質・PFOAが静岡市のポンプ場から高濃度で海へ放出されている。中には国の暫定目標値の420倍の日もある。原因は隣の化学工場にある。工場は除去装置をポンプ場に設置し、効果の実験結果を市に報告した。また、市は福島県で放射性物質除去の実証実験に使われた装置を使った除去実験を始める。
井戸・ポンプ場…工場周辺で異変
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高濃度の発がん性物質・PFOAが検出されているのは静岡市清水区にある市の三保雨水ポンプ場だ。
周辺の雨水を地下の配管を通じて集め、毎日1万トンを海に放出している。
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2023年秋、このポンプ場の海への排水からWHO(世界保健機関)が発がん性を指摘するPFOAが11,000ng/Lの濃度で検出された。国が「健康に悪影響が生じない」とする水準、暫定目標値50ng/Lの220倍だ。
静岡市の難波喬司 市長は「海に入ると薄められるものの、(市ポンプ場から)高濃度の排水を出しているのは大問題」として対策に乗り出した。
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原因はポンプ場に隣接する三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場にある。PFOAを2013年まで48年間使っていたからだ。
PFOAは人工的に作られた有機フッ素化合物PFASの一種で、水や油をはじき熱に強いためフライパンのコーティング(テフロン加工)や食品パッケージに使われてきた。
1990年代にアメリカの化学メーカー「デュポン」の工場周辺で住民に健康被害が出て注目されはじめ、現在 日本では製造や輸入が禁止されている。ケマーズはデュポンがテフロン部門を切り離して作った会社だ。
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静岡市では2023年秋に工場周辺の水路や井戸からPFOAが目標値の26〜54倍で検出されたため、追加調査をしたところ三保雨水ポンプ場で220倍と桁違いの高濃度が検出された。
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さらにポンプ場につながる地下の雨水排水管を調べたところ、工場敷地直下の管から目標値の500倍(25,000ng/L)が検出された。工場敷地内の西側で、PFOAを使っていた場所の近くに位置する。
この点について、市は「排水管に亀裂があり、PFOAを含んだ工場からの地下水が入り込んだ」とみている。
対策を行うも濃度は最高更新
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市は三井・ケマーズフロロプロダクツと協議し、ポンプ場に活性炭を使った除去装置を設置したほか、濃度が高かった西側の雨水排水管の補修などの対策を実施。
除去装置は1メートル四方の鉄製の水槽4つに活性炭をいれたもので、西側の雨水排水管の補修は2024年3月中旬までに完了した。
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ただ、ポンプ場排水のPFOA濃度は依然として高い。
2024年1月から4月に市が実施した23回の調査のうち、4,000ng/L(目標値80倍)以上が18回で、そのうち10,000ng/L(目標値200倍)以上が4回だった。最高は21,000 ng/L(目標値420倍)で、排水管補修工事を終えた後の3月27日に検出された。これまで市が測定した中で最も高い濃度となっている。
また、活性炭槽の通過前後の濃度を比較して効果を調べたが、10,000ng/Lが9,000ng/Lになる程度で、調査日によっては濃度が全く変わらなかったり、逆に通過後に高くなったりするケースもあり、市は3月下旬に活性炭槽を撤去した。
放射性物質除去に取り組む企業に期待
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このため、静岡市は新たな対策に乗り出した。
ひとつは活性炭除去装置の改善だ。
三井・ケマーズフロロプロダクツが工場内で浄化実績を確認した「活性炭塔」1基を4月に三保ポンプ場へと移設し、通水試験を実施している。また、7月にさらに1基を増設する。
ただ、2機あわせても処理能力は1日100トンで、ポンプ場の1日の排水量1万トンの100分の1に過ぎない。
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さらに、山梨県の企業が提案した実証実験も始める。
市によると、この企業は漁業で魚を処理した際に出る血を凝固させて除去する技術があり、これまで福島県でセシウムなど放射性物質を取り除く実証実験もしている。
2024年4月に企業側から要望があり、ポンプ場の水を企業の研究所に運び特殊な薬剤を使って除去効果を調べたところ、5,300ng/Lから3,600ng/Lと約3割の低減効果があったそうだ。
この企業は国際特許をもつ加圧浮上分離装置を持っている。この装置を使って水中に泡を発生させ、PFOAが泡について浮上してきたところで薬剤で凝固すれば「暫定目標値(50ng/L)以下まで除去できる可能性がある」としている。
福島県で使っていた加圧浮上分離装置をポンプ場に運び込み、7月頃から2〜3ケ月の間、実証実験を行う予定で、1日の処理量は約200トンだ。
元従業員や住民が市民団体発足
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こうした中、工場の元従業員や周辺住民が市民団体を発足させ、5月18日に静岡市で設立総会が開かれた。
市民団体は専門家を招いての勉強会を開催するほか、PFOA問題に対する迅速な対応や希望する周辺住民を対象にした血液検査や説明会を市や工場に求めていく方針で、弁護士や医師も参加している。
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共同代表を務める鈴木孝雄さん(77)は清水工場の元従業員だ。
鈴木さんは高校卒業後に入社して13年間PFOAを扱う仕事をしていた。フライパンのテフロン加工で知られる「テフロン」を製造する仕事で、手袋やマスクをせず素手で粉状のPFOAを扱っていたという。2021年に舌がんになったが、PFOAとの因果関係はわからない。
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三井・ケマーズフロロプルダクツは2024年2月に元従業員などを対象に血液検査を実施し、鈴木さんの血漿からは29.7ng/mlのPFOAが検出された。日本の全国平均値の約15倍で、アメリカの学術機関が「健康リスクがある」とする指標値20ng/mlも上回っている。中には指標値の約2.5倍の元従業員もいた。
鈴木さんは退職してから40年あまり経っているが高濃度だった。
血液検査の際に鈴木さんは「ただ検査をして、自分の数値が危ないのか危なくないのか、わからないままで終わってしまうのでは何の意味もない」として、従業員の血液検査の結果と業務との関連を分析して公表するなど会社に対し誠意ある対応を求めていた。
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市民団体の発足にあたり、鈴木さんは「住民の健康が害されていないか、ちゃんと調べてもらうことを進めていきたい。生まれてくる子供たちのためにも早く対策をとって、安心して過ごせる町にしたい」と設立の目的を説明している。
市民団体は、大阪府や愛知県などでPFOA問題に取り組んでいる団体とも連携する予定だ。
工場側が新装置の実験結果を報告
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この市民団体が求める住民対象の説明会や血液検査について、5月24日の定例記者会見で質問された難波市長は「まず会社としての説明が必要だと思う。その上で地域住民から『市ももっと取り組むべきだ』という意見があれば市としても取り組んでいくが、今はこれまで通りの対応を進めていく」と述べた。
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また、難波市長は会見前日の23日に三井・ケマーズフロロプロダクツの社長と副社長が市役所を訪れ、PFOA除去のため設置した活性炭塔の実験結果を報告したことを明らかにした。
会社側は「濃度が5,000ng/Lでも活性炭塔を用いた除去装置を通すことで検出限界以下になる」と報告し、実験結果を踏まえた今後の計画とPFOAを含んだ水を工場内に閉じ込めるための取り組みについて説明したという。
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難波市長は「『いつまでにこれくらいの濃度に下げるという目標でやっている』と公表してほしい」と要望し、会社側は「検討します」と答えたそうだ。
工場や山梨県の企業が用意する新装置で、海に放出されているPFOAは低減できるだろうか。