JR線の京都駅で運賃表を見ると、大阪駅までは580円となっています。しかし、隣の駅を見ると、福島駅や天満駅までは740円、塚本駅までは820円と、一気に値段が上がってしまいます。天王寺駅までは950円で、大阪駅までとは370円差です。JRの運賃は、遠くまで乗れば乗るほど高くなる仕組み。とはいえ、大阪環状線を半周(約11キロ)するだけでここまで変わるとは、どういうことなのでしょうか。

 実際には、おかしいのは京都〜天王寺間の運賃ではなく、京都〜大阪間の運賃です。おかしいと言うよりも、この区間では特別に、割安な運賃が設定されているのです。

 京都〜大阪間のように、通常よりも割安に設定する運賃のことを、「特定区間運賃」といいます。この区間の場合、距離に基づく本来の運賃は740円です。しかし、京阪間では阪急や京阪との競合があるため、私鉄との価格差を抑えることを目的に、このように割安な運賃が設定されています。

 この特定区間運賃は、関西圏だけのものではなく、首都圏や名古屋エリアでも設定。たとえば、京王線と競合する中央線新宿〜八王子間は500円(本来は660円)、名鉄と競合する東海道線名古屋〜岐阜間は480円(同590円)などとなっています。

 この運賃は、指定された2駅の区間内であれば途中駅発着(たとえば京都〜大阪間では京都〜新大阪間のみの利用時など)でも適用されますが、2駅間の外を発着駅とする場合(同じく京都〜天王寺間の利用時など)は適用外になってしまいます。しかし、途中の駅で一旦改札を出て、再度乗車すれば、特定区間運賃を適用した料金で乗車できます。

 たとえば、京都〜天王寺間を移動する場合は、京都駅から大阪駅まで移動した後、大阪駅で改札から一旦出場します。そして、ふたたび改札内に入り、大阪環状線に乗車して、天王寺駅へ。すると、本来であれば運賃は950円ですが、一度下車すれば580円+210円=790円と、160円安く移動することができます。一度改札を出る手間が必要ではありますが、少しでも安く移動する手段として、覚えていても損はありません。

 ちなみに、関西エリアでは今回ご紹介した「特定区間運賃」のほか、京阪神近郊の一部路線を対象とした「電車特定区間」という割安な(名前の紛らわしい)運賃も、別の制度として導入されています。JR西日本では近年、京阪神エリアの運賃制度にメスを入れる方針を掲げており、2022年には特定区間運賃の一部見直しを実施。2024年4月には、公式発表ではないものの、電車特定区間の見直しを含めた運賃改定を検討しているという内容で、大手メディア各社が報道しています。上手く使えば安く移動できる、けれども仕組みは複雑という現行のルールも、大きく手が加えられることになりそうです。