現地時間6月4日(日本時間5日、日付は以下同)に行なわれたデンバー・ナゲッツとマイアミ・ヒートのNBAファイナル第2戦は、ホームのボール・アリーナで圧倒的強さを誇るナゲッツが、3点ビハインド(23−26)で迎えた第2クォーターにクリスチャン・ブラウン、ジェフ・グリーン、ブルース・ブラウンというセカンドユニットの活躍で逆転に成功。

 その後もジャマール・マレーやアーロン・ゴードンが加点していき、前半残り5分2秒にこの試合最大となる15点差(50−35)をつけると、観客の大歓声も味方につけて完全に主導権を握っていた。

 ところが、そこからヒートは徐々に挽回し、第3クォーターに同点に。ニコラ・ヨキッチの活躍もあってリードを奪うには至らなかったが、8点ビハインドで突入した第4クォーター序盤にダンカン・ロビンソンが爆発、さらに残り10分10秒にゲイブ・ヴィンセントの長距離砲で逆転すると、最終スコア111−108で接戦を制してシリーズ戦績を1勝1敗とした。
  ヒートには2020年のファイナルを戦ったジミー・バトラー、バム・アデバヨ、ロビンソン、タイラー・ヒーロー(右手骨折のため欠場中)が在籍しているほか、2016年にクリーブランド・キャバリアーズで優勝したケビン・ラブ、2019年にトロント・ラプターズでリーグ制覇を経験したカイル・ラウリーといったベテランがいるが、選手以上の実績を持つのが、球団社長のパット・ライリーだ。

 3月20日に78歳を迎えたライリーは、現役時代にロサンゼルス・レイカーズとフェニックス・サンズで計3度、アシスタントコーチ(AC)とヘッドコーチ(HC)としてレイカーズ、ニューヨーク・ニックス、ヒートで計10度、そしてヒートのエグゼクティブとして6度と、計19度目のファイナルを経験している。

 4日に『USA TODAY』へ公開された記事のなかで、1972年にレイカーズで優勝を勝ち取ったジェリー・ウエストは、当時チームメイトだったライリーについて「彼がキャリアでやり遂げてきたことを見てくれ。まさに特筆すべきことだ」と舌を巻いていた。

 現役時代に1度、コーチで6度、エグゼクティブで2度のNBAチャンピオンに輝いているライリー。だが1980年代に“ショータイム・レイカーズ”で主役を務め、5度の優勝を勝ち取ったマジック・ジョンソンは、ライリーが自身“10度目”のリーグ制覇を狙っていると話していた。

「彼はあとひとつ、なんとしてでも勝ちたがっている。彼は何も変わっちゃいないよ。今もなお熱烈なんだ。それは彼の顔を見ればわかるよ」
  ライリーがレイカーズを指揮していた当時、ロスターにはカリーム・アブドゥル・ジャバーやジェームズ・ウォージー、バイロン・スコットなどタレントが揃っていたが、チームの根幹を担っていたのがマジックだった。

 206cmの超大型ポイントガードとしてコートを縦横無尽に走り回り、ノールックパスや味方さえも驚くような鋭いパスでアシストを量産しつつ、点も取っていたマジックは、ライリーがリーダーへ期待することについて「チーム・ファースト。勝つことが最優先なんだ。チームメイトたちを大切にしろというものだった」と明かしていた。

「だからこそ、ヒートはファイナルにいる。ジミーが周囲のチームメイトたちを引き上げた。彼は味方を高めてみせた。それに彼はチームで最もハードにプレーする男で、周りは彼についていく」

 “ショータイム・レイカーズ”のシステムをデザインしたライリー、そのリーダーとして実行役を担ったマジックには“似ている部分”があったと殿堂入りPGは語る。

「彼らは私が“勝つことこそがすべて”なんだとわかっていた。私は自分がどれだけ点を取ったり、どれくらいショットを放ったかなんて気にしなかった。私はただ勝ちたかっただけさ。その点で、私たちは似ているんだ。勝利していた時こそ、試合を支配できていたからね」
  1980年代にレイカーズで王朝を築いた指揮官は、マジックにとって「コーチというだけでなく、最高の友人のひとり」でもあった。そしてバトラーも過去に「(ライリーは)ゴッドファーザー。伝説のような人だね。僕がここにいる大きな要因になっていることは間違いない」と語っていた。

 たとえ相手チームにねじ伏せられても、そう簡単に敗北を受け入れずに勝利する方法を見出す粘り強さが印象的なヒート。それは試合中のアジャストに秀でたエリック・スポールストラHCの強みのひとつであり、またライリーがNBAという世界最高のプロバスケットボールリーグで長い間生き抜いてきた証でもある。

 球団史上初優勝を目指すナゲッツと、2013年以来4度目の覇権奪回を狙うヒートのシリーズは1勝1敗。まだ戦いは続いていくのだが、ヒートにとっては“生きる伝説”とも言えるライリーという勝負師がいることは、心強いに違いない。

文●秋山裕之(フリーライター)

【PHOTO】NBA最強の選手は誰だ?識者8人が選んだ21世紀の「ベストプレーヤートップ10」を厳選ショットで紹介!