米国で最もグレードが高く、ファンの人気が高い最高峰のビッグレース・ケンタッキーダービー(GⅠ、チャーチルダウンズ・ダート2000m)が日本時間5月5日の早朝8時にスタートする。今回も2頭の日本馬が出走し、3年連続での馬券発売が行なわれる(JRAプール方式で、購入はネット投票とUMACA投票のみ)。

 ケンタッキーダービーは、米クラシック三冠レースの第一弾として施行される。ちなみに、2つ目がプリークネスステークス、3冠目がベルモントステークスである。今年で150回目を迎える区切りの開催ということで、1着賞金は昨年の300万ドル(約4億3500万円)から一気に500万ドル(約7億2500万円)に増額。より注目度を増している。

 そのグレードの高さと人気から「(スポーツのなかで)もっとも偉大な2分間」と称される。また、優勝馬にはバラのレイが掛けられることから「ラン・フォー・ザ・ローゼス」と、洒落た呼び方をされることもある。

 日本で知られる優勝馬としては、ノーザンテーストの父であるノーザンダンサー(Northern Dancer、1964年)、三冠を制することになるセクレタリアト(Secretariat、1973年)、シアトルスルー(Seattle Slew、1977年)、アファームド(Affirmed、1978年)が著名。また、現役引退後に種牡馬として輸入された勝ち馬としては、カリズマティック(Charismatic、1999年)やウォーエンブレム(War Emblem、2002年)、ストリートセンス(Street Sense、2007年)、アイルハヴアナザー(I'll Have Another、2012年)がいるが、何と言っても日本の競馬ファンなら知らない人がいないほどのスーパーサイアーとなったサンデーサイレンスも1989年に、このレースを圧勝していることは名高い。

 さらに付け加えるなら、馬主の関口房朗氏が所有馬していたフサイチペガサス(Fusaichi Pegasus)が2000年に同レースを優勝しており、1996年のフサイチコンコルドによる日本ダービー制覇と併せ、日本人オーナーとして唯一日米のダービーを制する偉業を達成している。
  これまで日本馬は過去6頭が参戦。スキーキャプテン(1995年=14着)、ラニ(2016年=9着)、マスターフェンサー(2019年=6着)、クラウンプライド(2022年=13着)、そして昨年はデルマソトガケ(6着)と、地方競馬のマンダリンヒーロー(12着)が出走を果たしている。

 今年日本から参戦するのは若駒2頭。フォーエバーヤング(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)と、テーオーパスワード(牡3歳/栗東・高柳大輔)である。

 フォーエバーヤングは”世界の”枕詞付きで呼ばれるほど、世界の舞台で他の追随を許さぬ実績を積み重ねてきた矢作芳人調教師が手掛け、『ウマ娘』で知られるサイバーエージェント社長・藤田晋氏の所有馬である。

 成績はここまで5戦5勝の負け知らず。新馬戦(京都・ダート1800m)を勝つと、続くJBC2歳優駿(JpnⅢ、門別・ダート1800m)、全日本2歳優駿(JpnⅠ、川崎・ダート1600m)を連勝。今年はサウジダービー(GⅢ、キングアブドゥルアジーズ・ダート1600m)、UAEダービー(GⅡ、メイダン・ダート1900m)と中東で2連勝を収め、無傷の連勝街道を突き進んでいる。米国の主催者発表で前売りオッズが11.0倍の4番人気タイに推されており、有力馬の1頭として取り上げた欧米メディアも少なくない。

 先団から中団でレースを進め、容易にバテない強靭な末脚がストロングポイント。前走のUAEダービーでも、先に抜け出したアウトバーン(Auto Bahn)に馬体を併せると力強く差し切り、ゴールでは0秒4もの差を付けて圧勝した。ポテンシャルの高さはもちろん、海外で連勝した環境の変化への対応力も魅力的。矢作調教師の秘蔵っ子で、海外でも着々と経験値を積み上げている坂井瑠星騎手の手綱で”バラのレイ”に臨む。ズバリ、好勝負は必至で争覇圏内だとみる。 もう1頭のテーオーパスワードも2戦2勝と負け知らずだが、ここが重賞初挑戦というのは、いかにも分が悪い。カナダで2年連続リーディングジョッキーに輝いた木村和士騎手の手腕をもって、どこまで上位に迫れるか…というのがリアルな評価だろう。

 一方で、地元である米国調教馬を見ると2頭の実績が抜けている。なかでも特に注目されるのは、フィアースネス(Fierceness、牡3歳/T.プレッチャー厩舎)である。

 デビュー戦(ダート1200m)では2着に11馬身1/4差、ブリーダーズカップ・ジュベナイル(G1、サンタアニタ・ダート1700m)は6馬身1/4差、前走のフロリダダービー(G1、ガルフストリーム・ダート1800m)ではなんと13馬身半差、タイムにして2秒3もの差をつけた歴史的圧勝を遂げている。

 ただし、勝つときは怪物級のフィアースネスだが、スタートでスムーズさを欠いた2戦、シャンパンステークス(G1、アケダクト・ダート1600m)では7着、ホーリーブルステークス(G3、ガルフストリーム・ダート1700m)では3着にあっさりと敗れている。この馬の尋常じゃない強さを見たいという期待は大きいが、全幅の信頼を置けないのが辛いところだ。

 それに引き換え、安定感が高く評価されているのが4戦3勝2着1回のシエラレオーネ(Sierra Leone、牡3歳/C.ブラウン厩舎)だ。初の重賞挑戦となった2戦目のレムゼンステークス(G2、アケダクト・ダート1800m)はハナ差で競り負けたが、今年2月のリズンスターステークス(G2、フェアグラウンズ・ダート1800m)を快勝すると、前走のブルーグラスステークス(G1、キーンランド・ダート1800m)も中団から押し上げての差し切り勝ちを収めた。

 前述したフィアーネスのような破壊力はないが、逆に大崩れがなく、終いは確実に伸びてくるのがシエラレオーネのストロングポイント。こちらを連勝馬券の軸に据える手も一考だろう。
  上記4頭のうち、争覇圏内にあるのはフィアースネス、シエラレオーネに加え、日本から参戦するフォーエバーヤングの3頭と見る。個人的には、逃げ込みを図るフィアースネスにフォーエバーヤングとシエラレオーネが迫るという胸熱シーンを期待しているのだが、はたしてどうか。

 その他、連下候補として挙げたいのは以下の3頭である。

 キャリア3戦目のブルーグラスステークスでシエラレオーネの2着に入ったジャストアタッチ(Just a Touch、牡3歳/B.コックス厩舎)。サンタアニタダービー(G1、サンタアニタ・ダート1800m)を4コーナー先頭から押し切ったストロングホールド(Stronghold、牡3歳/P.ダマート厩舎)。ルイジアナダービー(G2、フェアグラウンズ・ダート1900m)を快勝して臨むキャッチングフリーダム(Catching Freedom、牡3歳/B.コックス厩舎)も侮れない。ここまでを、馬券圏内として押さえておきたい。

 はたして、歴史的快挙は達成されるのか。それとも日本馬がダートの猛者たちの厚い壁に跳ね返されるのか。レースはグリーンチャンネルで無料放送されるので、ぜひ注目して頂きたい。

文●三好達彦

【動画】日本馬初の快挙なるか!? ケンタッキーダービーに出走する精鋭20頭の参考レース
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