米国のクラッシック三冠レース第一弾、ケンタッキーダービー(G1、チャーチルダウンズ・ダート2000m)が日本時間の5月5日、午前8時に発走した。ゴール前は日本から参戦したフォーエバーヤング(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)を含む3頭による激しい競り合いとなったが、3枠3番のミスティックダン(牡3歳/米・K.マクピーク厩舎)が優勝。ハナ差の2着にはシエラレオーネ(牡3歳/米・C.ブラウン厩舎)が入り、フォーエバーヤングはさらにハナ差という僅差の3着。あわやのシーンを作る激走を見せた。
参戦したもう1頭の日本馬、テーオーパスワード(牡3歳/栗東・高柳大輔厩舎)もカナダで2年連続リーディングジョッキーに輝いた木村和士騎手を背に5着に入着。こちらも戦前の予想を上回る健闘を見せた。
昨年末の全日本2歳優駿(JpnⅠ、川崎・ダート1600m)を2着に7馬身差を付ける圧勝で飾った日本の雄は、早い時期から「来春はケンタッキーダービーを目標にする」と、陣営から高い目標が掲げられるほど、大きな期待が寄せられた。今年は中東のサウジダービー(G3、キングアブドゥルアジーズ・ダート1600m)とドバイのUAEダービー(G2、メイダン・ダート1900m)を連勝。無敗記録を「5」に伸ばして、最大の目標であるケンタッキー州ルイビルのチャーチルダウンズ競馬場へと、堂々乗り込んだ。
その戦績から”世界の”という枕詞を付けて名を呼ばれることが少なくない矢作調教師は、「サウジでは調子がもうひとつだったが、そのあとのドバイではかなりいい状態に仕上がっていた。今回も、少なくともドバイの時と劣らない良い状態にある」と語り、胸を張って大一番に臨んだ。
大雨が降って泥んこ馬場になっていたチャーチルダウンズ競馬場だが、ダービー当日は雨に祟られることはなく、馬場状態は「良」に回復した。レース前のパドックでは、さすがに少し入れ込み気味になっていたフォーエバーヤングだが、恒例の『マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム』の演奏と歌声をバックに馬場入りする段階では、適度な気合乗りを見せる理想的な状態にみえた。また、すっかり海外の舞台に慣れた鞍上の坂井瑠星騎手も、テレビカメラに向かってサムズアップするほどの余裕を見せていた。
良好な状態でレースを迎えたフォーエバーヤングにとって、想定外だったのはゲートを煽り気味に出て、さらには隣の馬に押圧される不利もあり、後方からの追走になったことだった。それでも坂井騎手は慌てて前との差を詰めるような愚は犯さず、いったん後ろから5番手のインを追走。第3コーナー過ぎの勝負所で外へと進路をとって先団に取り付き、最後の直線へ向いた。
すぐさま先頭に躍り出たのは、内枠スタートを活かして距離を損せずに内ラチ沿いをぴったりと走ってきたミスティックダン。フォーエバーヤングは外から脚を伸ばすが、一緒に伸びてきたシエラレオーネが内に差さって3度も馬体が接触し、追いづらいシーンも目に付く。それでもフォーエバーヤングは前に食らいつこうとする力強い意志を見せ、内で粘るミスティンクダン、外から差してきたシエラレオーネの3頭が馬体を揃えてゴールした。
運命の写真判定の末、粘り腰を発揮したミスティックダンがシエラレオーネをハナ差抑えて優勝。日本のフォーエバーヤングはそこからハナ差の3着に敗れたが、スタートや直線の不利がなければどうだったか?と、歯噛みしたくなるような悔しい結果となった。 レース後、取材を受けた矢作調教師は湧き出してくる涙に言葉を詰まらせながら、「ただひと言、悔しいです。馬は素晴らしかったです。すごく頑張ってくれました」と愛馬に労いの言葉をかけた。続けて、「日本の馬にとって全く慣れない環境のなかで、これだけ走れる彼には本当に頭が下がります」と脱帽する。
だが、やはり悔しさは隠し切れなかった。「あそこまで行ったので勝ちたかったです。この経験は今後に活かさなければなりませんし、間違いなく活きてくると思います。世界一の馬になれるように一緒に歩んでいきたいです。応援してくださった皆様、すみませんでした」と頭を下げてコメント。頂点まであと数センチのところで手が届かなかった悔しさを胸に、競馬場を後にした。
筆者が矢作調教師の言葉を聞いて感じたのは、ただ悔しいだけではなく、日本のホースマンなら憧れない人はいないであろう大舞台で、愛馬が勝ち負けに加わる堂々とした競馬を見せたことに対する感激も加わっていたのではないか、ということである。
一方、想定外の事態にも慌てず相棒を導いて好勝負に持ち込んだ坂井騎手は、「悔しいのひと言です。この素晴らしいレースに騎乗させて頂いたことを感謝したいです。競馬にいくと、(フォーエバーヤングが)すごく良い状態で、あそこまでいけたなら勝ちたかったです。応援して頂きありがとうございました」と冷静に語り、目前の大魚を逸した悔恨を滲ませていた。
矢作調教師と坂井騎手は、今回のリベンジを秋のブリーダーズカップ・クラシック(米G1、デルマー・ダート2000m)を舞台に成し遂げようと目論んでいるかもしれない。それぐらいの自信を持ち帰れたのは陣営のみならず、日本競馬全体にとっても非常に大きなプラス材料となるだろう。
それにしても、能力の高さはもちろんのこと、中東から米国へ転戦しながら世界のダート戦線におけるトップ・オブ・トップの舞台であるケンタッキーダービーで、負けてなお強しの競馬をしたフォーエバーヤングの逞しさは、どう表現していいか分からないレベルの凄みを感じさせた。ダートでは昨年のドバイワールドカップ(G1、メイダン・ダート2000m)を制したウシュバテソーロ(牡6歳(※当時。現7歳)/美浦・高木登厩舎)の時にも記したが、芝以上にダートでの世界最高峰は遠いものと思い込んでいたオールドファンの意識を根底からひっくり返す圧倒的なファクトである。近年、海外遠征の際に「勝つために行く」と口にする日本のホースマンが多くなったのも宜なるかな、とあらためて感じた次第である。
なお、優勝したミスティックダンは、前走のアーカンソーダービー(G1、オークローンパーク・ダート1800m)での3着から巻き返しての戴冠で、これが初のG1制覇。JRAプールでは単勝オッズ31.3倍の10番人気(EQUIBASE社から提供された想定オッズでは11倍の7番人気)という穴馬だった。また、前走のフロリダダービー(G1、ガルフストリームパーク・ダート1800m)で2着に2秒3もの大差をつけて圧勝し、本レースで1番人気のフィアースネス(牡3歳/米・T.プレッチャー厩舎)は見せ場も作れず15着に沈んでいる。
文●三好達彦
【動画】快挙まで、わずかハナ+ハナ差…米ダート最高峰で健闘したフォーエバーヤングの激走
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米ダート最高峰の舞台で僅差の激走を見せたフォーエバーヤングの底力に感服。頂点逃すも、日本競馬にとって大きな足跡残す【ケンタッキーダービー】
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