☆変わっていく立ち位置

 2019年ドラフト1位。地元・桐蔭学園高から大きな期待を背負ってYOKOHAMAのユニホームに身を包んだ森敬斗。類まれなるスピードと強肩を武器に、未来のスーパースターとして輝くことを、ファンは信じていた。
  しかし現実は甘くなかった。相次ぐ怪我の離脱にも見舞われたことも響き、思うような成長曲線を描くことができぬ状況に陥ると、球団もチーム編成上の懸念であるショートのポジションを積極的に補強。必然的に森の立ち位置も徐々に変化していった。

 それでも昨年のオープン戦は、19戦全てショートのポジションで使われ続け、そのまま開幕スタメンをゲット。しかしその後は思ったような活躍ができず、4月下旬にはファームへ降格となり、その後はその座にベテランの大和に台頭したルーキーの林琢真、ドラゴンズから移籍してきた実績十分の京田陽太ら、複数名が務めた。一方の森は、7月に右手の負傷で手術を受けるなど、忸怩たるシーズンを送った。

 今年に入るとドラ4ルーキーの石上泰輝が猛アピールを続けるなど、沖縄の春季キャンプではポジション争いがさらに加熱。一方森はB班(二軍)の奄美スタートとなり、一軍のオープン戦に呼ばれたのは3月5日と大きく差が開いていた。

☆磨いた心技体

 しかし森はオフから「今まで結果が残ってないので、何か大きく変えないといけないと思って」と、言わば“急がば廻れ”を貫いていた。

 バッティングではオフに師事した近藤健介からの学びを活かし「今までは前で打っている感じだったんすけど、前に行くと目切りも早くなるし、左肩も出ちゃうので、やっぱりちゃんと軸で回ることをやってきました。ちゃんと後ろからバットのスイングを長くできるようにと、ずっとやっていました」とフォームの大幅な変更を敢行。

 副作用として「春先は今までと全然違うので、やっぱりポイントが違うとタイミングも違うし、今までとは捉えてたところが違うので。そこをすり合わせるのが難しくて、春先は結果が出てなくて…」と苦しんだ。しかし諦めずに継続したこともあり「シーズンでちゃんと試合に出ていくうちに慣れていって、ちょっと良くなってきたって感じですね」と光が射し込んできていることを実感している。

 さらに「なんで凡打してしまったのか、原因がわかってなかった。わかったことがあっても、体現することが難しかったですね。自分をちゃんと知れてなかった部分もあったし、自信がやっぱりなかったので、モヤモヤしたまま打席に行ってしまったことがあったので…」と昨年との自分を鑑みたうえで「今年はこうやったらこうなるとかがわかってきました。内容の悪い打席が少なくなったっことは、結構大きな違いなのかな」と考える力のブラッシュアップにも成功していると胸を張った。 守備面では今年から育成コーチに就任した“ハマの牛若丸”・藤田一也の教えに従い「足を使って自然体で投げている感じですね。今までもズドンってわざわざ投げてたわけじゃなくて、それの方が自分の中で安心する感じがあったから投げてただけですけど、やっぱり足をちゃんと使えるようになって、自然に投げれるようになりましたね。安定感が出たのは、自分でも感じています」と確実にレベルアップしている。
  また期待されている盗塁には「やっぱり失敗するっていう気持ちが今まで大きかったので」と顧みたうえで「でもアウトになってもいいやって。結局こうやってトライすることに意味があるんだっていうところはありますね。向こうには走った人にしかわからない世界があるから」と達観。「トライして、自分がちゃんといいスタートを切ることに意味があるんで。不安の気持ちのまま『ヌメッ』と行くと、全然キャッチャーも焦らないし。やっぱりそこで『チャッチャ』って行くからこそ、キャッチャーも焦ってくれるっていうのもある」と思い切りの良さで、ここ一番の成功へと繋げていく。

☆ポリバレントにも挑戦

 そしてもう一つの取り組みが、複数ポジションへの挑戦。ショートへのこだわりは「もちろんあります」と即答するが「もうどんな状況でもチャンスがあった方がやっぱりいいじゃないですか。ショートもできて、さらにセカンドもサードも守れたら全然悪いことなんもないじゃんっていうところですね」と出場機会を増やすため、今年の1月から練習を開始した。

 現在は牧秀悟が離脱していることもありセカンドでの出場も見受けられるが、強肩を活かした守備で好プレーも披露。本業と逆の景色に「気になりますよ。もちろんいつもと違うなって感じはありますけども、ファームでずっと試合出ていましたし、慣れるしかないし。やるしかないんだって感じです」と決意した結果「だいぶ慣れてきましたね。もうずっと練習をしていて、かなりノックも受けてきているんで」と身体にも染み込んできているようだ。

 開幕一軍は逃したものの、今では晴れの舞台でのスタメンも増え「自分で言うのはなんですけど、今年やっぱ練習量を増やしてしっかりとやってきたので、身に付いてきたものなのかなっていうのもあるし、慣れてきたっていうのもあると思います」と少しはにかんだ表情を見せた背番号6。

 群雄割拠の内野手争いに「もう飛び抜けて結果を出すしかないので。守備では安定してしっかりと捌いていくのが大事だし、バッティングに関してはちゃんと出塁して、本当にチームに必要とされるところまで行かないとレギュラーを取れない。あとはもうここからしっかりと結果を残すだけなので」と決意。同時に「いつも通りのプレーをする。背伸びしようとせず、別にやってきたものしか出ないしっていう気持ちも大事かな」と地に足をつけた言葉とともに、長いまつげの奥の瞳を輝かせた。

 誰もが認めるポテンシャルに、ハングリーさをエッセンスとして加えたプロスペクト。2024年は昨日よりも一歩ずつ確実に、ダイヤモンドを駆け抜ける輝く星を目指していく。

取材・文●萩原孝弘

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