日本ではあまり報道されていないが、ここ数か月、スペイン代表のペドリは批判に晒されていた。アンドレス・イニエスタにも相通じる優等生キャラで、バルセロナに加入した後も、例えばガビのように、レアル・マドリー御用達のメディアからのバッシングの対象にはならなかった。しかし怪我を繰り返すうちに、風向きが変わった。

「怪我の再発を怖がっている」「利き足にもかかわらず、右足でシュートをしないのはそのためだ」といった指摘は序の口で、中には「コンディショニングを怠っている」「夜遊びに繰り出しているのでは」など不当としか言いようがない難癖もあった。

 当然その多くは、首都マドリードからのものだったが、その間、バルセロナ方面から十分なサポートを得られていたとは言い難かった。フロント、ファンの視線は新たに台頭した16歳のラミネ・ヤマルに向けられ、はては番記者の中にも、「ペドリは市場価値が高いうちに売りに出すべき」と意見する者まで現われるようになった。
  サポートが不足していたのはピッチ上でも同様だ。前監督のシャビは、中盤の選手に怪我人が相次いだという事情があったにせよ、ダブルボランチの一角、インサイドハーフ、偽ウイングと、ペドリのポジションをころころと変えるばかりで、おまけになかなか安定しないチームパフォーマンスの煽りを受け、守備に奔走する場面が目立った。それでもチームのために走れるのがペドリの真骨頂であるが、故障明けの身体に鞭を打っている印象は否めなかった。

 4月上旬に直近の怪我から復帰した後、ベンチスタートが続いたことについてもシャビの起用法には疑問符が付く。もちろん怪我の再発防止という意味合いもあっただろうが、その采配からは一体ペドリをどうしたいのかまったく意図が見えず、いたずらに周りの不安を煽った。 ペドリは現地6月11日の記者会見で、「怪我の再発に対する恐れはない。メディアのみんなの方がよっぽど恐れているように感じるよ。だっていつも話題はそのこと一色だからね」「代表では前目のポジションでプレーしている。危険を生み出し、ゴールを決めるチャンスも広がった」と語ったのは、そうした諸々の事情が背景にあったからだ。裏を返せば、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督の理解を追い風に、スペイン代表ではシャビ・バルサで享受できなかった環境を手に入れているということだ。

『エル・パイス』紙によるとペドリは、シーズン中にも頻繁にデ・ラ・フエンテ監督に連絡をし、コンディションについて報告していたという。同じく11日の記者会見で「A代表の監督になってからずっと、僕がいろいろ批判され、困難な状況に直面していた時も気にかけてくれた。監督は僕に自信を与えてくれた。おかげで向上心を持ってトレーニングに取り組むことができた」と感謝の言葉を口にしたように、デ・ラ・フエンテ監督は苦境に立つペドリに手を差し伸べていた。4−3−3から可変する4−2−3−1の採用もトップ下に適性のあるペドリを意識しているからに他ならない。

 カタール・ワールドカップ後、スペイン代表が最も強化されたのがサイド攻撃だ。当時、ドリブラー枠としてオプションに過ぎなかったニコ・ウィリアムスが主力に成長し、逆サイドにはヤマルが台頭。世界最高のアンカーとの評価を確立したロドリが低い位置からパスを配給し、左右サイドバックのアレハンドロ・グリマルドとダニエル・カルバハルが後方支援しながら、いかに両ウイングがスムーズに仕掛ける状況を作れるかが攻撃の生命線になる。
 

 そこに周囲とのパス交換から相手を動かし、局面を打開することにかけては右に出る者がいないペドリが潤滑油として機能するわけだ。2得点を決めた北アイルランド戦は、相手の守備が軽かったことを差し引いても、ペドリを中心とする攻撃の可能性を垣間見せた。

 その北アイルランド戦後には、「今日のゴールによって怪我がすでに過去のものであることが証明された。コンディションはすこぶる良好だ。EUROの開幕が楽しみだよ」と声を弾ませた。ペドリはこれまでも、常に自らが最も饒舌になれるピッチ上で存在価値を示してきた。それは今回のEUROも同様だ。

文●下村正幸

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